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白露;第45候・玄鳥去(つばめさる)

渡りをする燕。4月の清明の頃、桜前線より早く列島にやってきて、

餌となる虫が減る晩秋に、子育てを終えて戻っていく。

もちろん個体差はあろうが、4000キロを渡ってくるという。しかも単独で。

帰りもそうなのだろうか。家族ができても。

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新月に玄鳥が去る。

そうか、この前見たのは飛ぶ練習をしてたのか。ちょうど一ヶ月、いや二ヶ月ほど前か。


  雨の降る日に、信州の里山を歩いていると「玄鳥の木」があった。子供の頃お祭りの縁日に遠出した神社に立ち寄り、鳴き声に窪地を見下ろすとその木はあった。

  繁る葉で姿は見えないが、畑の中にポツンと立つ木には燕がたくさんいるようで、ひっきりなしに出入りしていた。

  南に帰るため、飛び方を教える校舎なのだろうか。

  教官たちの檄が飛ぶ、生徒たちはなんども木から飛び出す。それがずっと続いている。

  水平に飛び出して、畑地を旋回して戻ってくる。

   いろんな方角へたくさんの燕が飛び出す。

   木が歌っているようだ。歌声が静かな山間の村に響いている。

   雨で今日は誰も畑に出ない。

   背の高い木からは天敵も見張りやすい。

   

   この土地を持つ人もきっとこのことを知っている。暑い日には木陰で憩い、落ち葉は腐葉土に。たくさんの生命が息づいている。ツバメ達の声だって、木を喜ばせ、葉音とともに土地を豊かにしているはずだ。


 僕が見たのは8月のお盆の頃だった。

 この時期にはきっと日本中に何千本もの「玄鳥の木」が現れるのだろう。

 何度も見送ってきた。そうして何度も迎えてきたのだ。


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