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寒露:第50候・菊花開(きくのはなひらく)

菊は寒空に開く。

小さな太陽のように。

デイズ・アイ。甘苦い香り。

実に晩秋から冬至まで、太陽は無数の菊に宿るのだ。だいたい冬至まで役割を果たしたら、今度は蜜柑や檸檬や、橙に宿るのだ、それが順番というものだ。


ミタマノフユの冬至までますます太陽の力が弱まる間、菊は咲く。寒い露に濡れそぼりながら、木枯らしに耐えてなお、芒や女郎花や、竜胆と競い、咲き続ける。

菊の花は、括られた花。括られたたくさんの目。

太陽から目を離さない。太陽はその光をまた集めて、ミタマノフユからまたゆらゆ

らと恢復していくのだ。


地上に咲く菊の花から放たれる光で、新月の真っ黒な月に私たちの影法師が映って、その向こう、太陽が当たっている月の裏側では、漆黒の宇宙空間に月光が放射されている。

今は月が地球に接近しているから、超新月だという。

超新月は僕たちの精神をひっぱる。身体から離れようとする。重力と引力の間に浮かぶ。今日もまた、僕の血は、体液は、涙は、闇夜へ離散してしまう。それはまた夜露となって、菊の花びらを濡らし、あの人の頬をぬぐうのだろうか。

もう、本当に、寒くなった。


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