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短歌

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#現代短歌

五月自選短歌「サラバ、新宿」

五月自選短歌「サラバ、新宿」

五月雨に滲む新宿 酔いどれの
描く水面は夢を映して

出会うとは心の岸辺に橋を掛け
胸のビー玉渡し合うこと

私まだ忘れてないよ約束も
誓いもぜんぶ呪いに変えた

転調も休符もある我が人生だ
ノイズのような日々を刻むな

言葉など覚えなければ頬寄せて
触れ合うだけで満たされたのに

やさしさを見せつけあって触れ合って
なだめすかせてまたさようなら

タイミングずれてるようで同じとき、
同じ想いで傷

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三月自選短歌「春はここです」

三月自選短歌「春はここです」

くちびるに紅 まぶたには青
爪に花を咲かせて春はここです

洋服を脱ぎ捨てるように名言を
脱ぎ捨てていく着飾っていく

ニセモノは大抵キラキラまぶしくて
君の狡さも愛してくれる

手放したから手に入れる手のひらに
おさまるものは限られている

結末を選んだ順に春がくる。
別々に咲く花なのでしょう

振り切って駆け抜けて春とめないで、
もっと遠くの違う私へ

こんなはずじゃなかったはずのその先に

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雪の短歌 「警報級の光の粒だ」

雪の短歌 「警報級の光の粒だ」

まばたきの瞬間まつ毛の先っぽに
触れてたような光の結露

この身体でお拭きなさいとワイパーの
隙間に積もる雪のハンカチ

雪の降らない島に生まれた僕が
空を仰げば触れる光

あなたにも見せてあげたい白だけど
街のすべてを染めて隠した

大都会、白く染め行く立春の
警報級の光の粒だ

短歌連首 「マッチング・トーキョー」

短歌連首 「マッチング・トーキョー」

オレンジの光に誘われ走り出す
トーキョー・恋セヨ・電波塔ナリ

シモキタが知らないうちに整備され
吾の知らない街に変わった

ビルの間に東京タワーは身を隠し
僕らのキスを見ないふりした

書を捨てよ?勿体無いよメルカリで
売れば街まで行く金になる

マッチして尻尾を振ったら腰も振る
東京アニマルプラネットなう

たぶん風吹くとき僕らそこにいて
気付いたくせに気づかないふり

街灯が照らす無機質モノ

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連作短歌「92年夏。六歳」

連作短歌「92年夏。六歳」

コマネチで泣くほど笑った父がいた
蝉も泣いてた初夏の病棟

父さんが少しのあいだ留守にする
家はまかせて長男だもん

病棟の裏手の森にキジムナー
いるらしいんだ僕とよく似た

クワガタを集めるために蜂蜜を
差し入れみたいに抱えた七月

大声で笑って叫んで怒ってる
廊下のおじさんたちが朝から

ジャッキーチェンみたいに木登り
落っこちて心配される病院の庭

ママとパパどっちが好きと言われても
ママが

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自選短歌「深海の夢」

自選短歌「深海の夢」

君といた記憶に潜る深海で
溺れぬように泳がぬように

毎日が漂うだけの夜の海
夢の波間に星を仰いで

波風にさらされたのは息継ぎを
諦めらきれず手を伸ばすから

月明かり滲む海原に海月(くらげ)が
ゆらりゆれてるきらりとひかり

立ちどまり動けないまま若さだけ
絡めとられる浦島太郎

シーラカンス「本当」のこと
知り得たかい 心の海底遺跡で君は

ゆるやかに呼吸を止めておだやかに
泡(あぶく)とな

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自選短歌「はないちもんめ」

自選短歌「はないちもんめ」

みんな寝ている教室の窓辺から
見る夏雲とプールの匂い

ベランダに閉じ込められて笑ってる
十四の俺のあだ名〈スマイル〉

長過ぎた変声期まだ覚えてる
声にならない吾の悲鳴を

遊戯王カードだったら強いのに
俺のターンが来ないババ抜き

担任が仲良くしろと皆に言う
吾だけいないホームルームで

軟骨のピアスもパーマ金髪も
中二の俺を守るシールド

夏休み明けに刈られて丸坊主
ピアスの痕がやけにまぶし

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自選短歌・其の四 「月と蛇」

自選短歌・其の四 「月と蛇」

秋雨にけぶる十月胸中に君の面影探す新宿

背に咲いた百合のタトゥーに口付けを
今はどいつに愛でられている

憧れたヒーローよりも得意気に
仮面を被り生きてる日々だ

傷付かず傷付けぬようバランスを
取ろうとしててすべて失う

ワンカップ小銭で酔えるおいちゃんの
人生訓で胃もたれもする

うまいこと言ってやろうと意気込んで
考えている顔の悍(おぞ)まさ

「しんどいわ」つぶやきかけてすぐ消して
吾の

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自選短歌・其の三 「黄昏をとめたい」

自選短歌・其の三 「黄昏をとめたい」

月曜の朝からぜんぶやめちまえ
それができたら誰も死なない

朝晩と中島みゆきで励まされ
ユーミン聴いて泣いてる馬鹿だ

「難しい問題ですね」そうですね
予定調和が居心地いいね

チラシだけやたら過剰な映画見て
B級の意味噛み締めている

「ショーシャンクの空に」を見てから思うこと
ビールの美味さはロケーションだと

西洋人のフリした東洋人たちが
大口開けてチップをねだる

「正解」があちらこちらに

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自選短歌「アイラブユーを」

自選短歌「アイラブユーを」

東京は雨雲かかる中秋の月を濁して夜は深まる

ホッピーとハッピーが似てると笑う
君と飲んでる吾はハッピー

君のこと知ってるようで知らなくて
泣いてる君には月見だいふく

お互いの名前を足してキープした
ボトルのようにすぐにからっぽ

直感が冴える悲しみ夜の淵
届け届くな我がテレパシー

明日には変われるような気がしても
眠ずに迎えた同じような朝

似合うよと貴方が褒めたイヤリング
枕の下にひとつ

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自選短歌「あまりにも夏」

自選短歌「あまりにも夏」

空の青 海の蒼さに南風(ぱいかじ)は
僕の青さを撫でて吹きゆく

プリズムに抱かれて散る夏の午後
クリームソーダの泡(あぶく)のように

二人して飲んだオリオンビールから
君に見せたいブルーが香る

指笛に呼ばれるように手をかざし
潮風(うすかじ)撫でるエイサーの夜

中華街、キンパイビールに歓喜した
恋は夏色まるで台湾

出会う前からの約束 
ジャームッシュ映画で恋の付箋回収

煙に巻く 浮気心

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