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自選短歌・其の四 「月と蛇」

秋雨にけぶる十月胸中に君の面影探す新宿

背に咲いた百合のタトゥーに口付けを
今はどいつに愛でられている

憧れたヒーローよりも得意気に
仮面を被り生きてる日々だ

傷付かず傷付けぬようバランスを
取ろうとしててすべて失う

ワンカップ小銭で酔えるおいちゃんの
人生訓で胃もたれもする

うまいこと言ってやろうと意気込んで
考えている顔の悍(おぞ)まさ

「しんどいわ」つぶやきかけてすぐ消して
吾の苦しみ吾のものなり

「恋なんて重いくらいでいいのよ」と
言ったあの子が逃げ出す重さ

恋文も美談にならぬ時代だよ
晒し晒され堕ちてくロミオ

おおロミオ OKようこそジュリエット
致死量の愛 ボトルで入れるね

プリンセスには成れないよジュリエット
だってロミオは王子じゃないの

季節とかトレンドだとか旬だとか
俺だけ置いてすべてが変わる

「いい歳ね」「男のくせに」「ちゃんとして」
三十七歳今日もしんどい

傷付いて気付けたこともあるんだよ
気付くこととは傷付けること

百合の花 サガン クンデラ 月と蛇
君の一部をいまも探して

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