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散文

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散文(のようなもの)をまとめました
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#愛

理由もなく ただ好きだと

理由もなく ただ好きだと

わたしがどんなにかっこよくふるまっても
かっこいいねってあなたは言わない

わたしがどんなにかわいい服を着ていても
かわいいねってあなたは言わない

ただ生きているだけでいいよって言ってくれる

わたしがどんなに優しい言葉を紡いでも
優しいねってあなたは言わない

わたしがどんなに立派なふりをしても
えらいねってあなたは言わない

ただ素敵な生き方だねって言ってくれる

あなたはかっこよくてかわい

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愛はいつも

愛はいつも

恋や夢に破れても

愛に破れることはない

愛はいつも叶うもの

わたしが信じているかぎり

決して裏切られはしない

愛はただ

独りでにほほ笑むものだから

わたしからあなたを憎むことは

永遠になく

わたしからあなたを失うことも

永遠にない

そう思うとこわくなかった

愛することも 孤独な日々も

ほほ笑んでいればこわくなかった

あなたの罪を背負って死ぬこと

萩尾望都「トーマの心臓」のあらすじです。

シュロッターベッツ・ギムナジウムの優等生、ユリスモール・バイハン(ユーリ)。彼はある朝、一学年下の美しい生徒、トーマ・ヴェルナーが足を滑らせて陸橋から落ち、亡くなったことを耳にします。素直で可愛いトーマは、学校の生徒たちにとって、恋神・アムールのような存在でした。

誰もが不幸な事故としてトーマの死を悼むなか、ユーリは友人のオスカー・ライザーから、トーマ

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希望

希望

希望を抱くことでしか
あたしには
世界と向き合う術がない

なにも終わらないでほしい

春も 夏も 秋も 冬も
なにも終わらないでほしい

満月も 新月も
雨の日も 晴れの日も
なにも終わらないでほしい

あの歌も あの映画も あの物語も
なにも終わらないでほしい

あまりにも多くの時間が
流れていってしまうから

あたしたちは
この一瞬のために息をして

はやくここへ来て

思い出になる前に

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誰のなかにもあなたはいたんだ

誰のなかにもあなたはいたんだ



あなたへの愛に気がついたとき
海や風や花々や
通り過ぎゆく名前も知らない人々が
ぐんとわたしに近づいて
そしてあなただけが遠くなった

あれほど幸せを願ったあなたなのに
こんなに許すことができなくなってはじめて
あなたが泣く理由がわかったの

あなたはいつも突然に
壊れたように泣きだした

だけどそれは
ふいに泣きたくなるわけじゃなかったんだね

あなたはいつも
泣くのを我慢していたんだね

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滅ぶ美、その永遠性

昨日、用事があって市役所に行ったとき、駐車場のアスファルトの上に散らばる鮮やかな桜の花びらにふと意識が向きました。
それと同時に、作家の渡辺淳一さんがエッセイ集「退屈な午後」のなかで、桜の美しさと憂鬱さについて綴っていたことを思い出し、帰宅して読み直してみると少しだけ思うところがあったので、本の引用を交えてここに書き残しておきます。

✎︎__________________

渡辺さんは、桜があ

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魂の森

魂の森

わたしとあなたが死んだあと

わたしとあなたはただ光

見渡すかぎり ただ光だけ

果てしない時が流れる魂の森で
わたしはあなたを見つけます

その肌の熱がなくとも

その瞳の輝きがなくとも

その声が聞こえなくとも

数えきれない光のなかから
わたしはあなたを見つけます

なぜそれができるかわかりますか

それはね

ひどく内気そうに見えて
じつはそうではないのがあなただから

優しいのに気が強

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霧雨

霧雨

霧雨の降りかかる静かな森の中で
物言わぬ大きな木にもたれかかるように
肩を寄せあって目を閉じていた八月の夜

胸元から古い木の香りがした
ホワイトムスクのような
濡れた樹木のような 重く深い香り

夜の湿気で肌が濡れるよう

帰れば とわたしが呟くと
帰れないよとあなたは言った

こんなにちがう生き方をしてきたのに
わかり合おうとする人、人、人

あの夜 わたしの夏は死んだ
あなたの可愛いまつげが

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珊瑚色

珊瑚色

報われない努力はあっても、報われない恋はあっても、報われない愛なんてものは存在しない。愛した時点で報われたんだ。たぶんそれまでのすべてが。
秋の光の中であなたの姿を脳裏に思い描く時、その存在の不確かさに私はつい首を傾げてしまう。あなたのことを、まるで遠い昔に死んでしまった人のように感じるの。明日また会う約束をしていても、思い出はもう何もかも終わっているから。あなたに想いを馳せること。それはきっと死

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