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誰のなかにもあなたはいたんだ







あなたへの愛に気がついたとき
海や風や花々や
通り過ぎゆく名前も知らない人々が
ぐんとわたしに近づいて
そしてあなただけが遠くなった

あれほど幸せを願ったあなたなのに
こんなに許すことができなくなってはじめて
あなたが泣く理由がわかったの


あなたはいつも突然に
壊れたように泣きだした


だけどそれは
ふいに泣きたくなるわけじゃなかったんだね


あなたはいつも
泣くのを我慢していたんだね



あなたが涙をこらえるたびに
グラスの底から
ふるえながら湧き出ていた美しい泉


今もとめどなく水があふれるそのグラスは
なにかを語るように
あなたの机に置かれたまま



誰のなかにもあなたはいたんだ


人に好かれなくて
こんなにくやしかったことはない


あなたはいつもあなたの話をしたあとに
ちがう人について語りはじめた

まるでわたしのなかのあなたを
べつの誰かで塗り替えるように



だけどもう
そんなことはしなくていいから


わたしももう
自分の気持ちが報われることなど考えないから


もう一度ここに降りてきて





あなたは石に刻まれた文字になる

あなたひとりを愛する代わりに
ほかのすべてを愛するしかなくなった



だって
誰のなかにもあなたはいるのだから


あの日 あなたは
それをわたしに伝えたくて
泣いたんでしょう




大丈夫
愛する強さを信じるよ


あなたのグラスを満たした水は
わたしがすべて飲み込むからね

今度こそ
逃げないでこの世界を愛するからね




あなたの祈りを叶えるために

あなたがもう
泣きたいときに泣けるように





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