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魔女コルタ・エル・バカラオ(鱈切り)
テーブルの上に、腐った南極イバラガニの死体が置かれている。
コルタは思う。
移民の連中が喰う様な蟹だ。
あの連中は自分達の事を魔女(ブルハ)などとは言わない。
暴力男(コンパドリート)だとか、余所者(グリンゴ)だとか言うのだ。
思うに、彼らは彼らなりの幼さを持って、
かつて、事に挑んだんじゃないだろうか?
そう完璧という訳でもなく、
一から何かを作ろうとしたのかもしれない。
まぁ、どの道、意味は同
ある大罪人の独白(前狂言)
永年の中で培われてきた遷移の遺産を、
あるいは人間の愛そのもの、
ある程度、ご都合の主義のものも、
竜舌蘭の名が示す様な真実のやつも、
そこから得る酒も含めてだが、
それらは全て屠殺され、叫び声をあげ、
ラザロの様に腐敗する。
そんな死を上演させる合図となる様な
呪われた錆びた土気色のラッパが目の前にあるとして、
それを吹くか?否か?と問われた時、
俺はその楽器を吹いた。
大変申し訳ないのだが、
魔女マリー・ド・アスティコット(蛆虫のマリー)
■マリー・ド・アスティコット(蛆虫のマリー)
フランス出身
ジャンは、とても人から愛される日雇い耕作人(ジョナリエ)だった。
持っている財産は馬小屋の様な家と、
ニンニクで作ったお守り位なもので(牝鶏七羽と交換して手に入れた)、
子供の頃、プティット・エコール
と呼ばれた学び舎に行く暇すら親から与えられなかった彼は、
学識なども全く持っていなかったが、
誰の話でも真剣に聞く優しさと、他人の気持ち
リュウゼツラン(番外編)
スガラムディ村の魔女達の起こした嵐で
根を失ったアガベが、
乾燥した赤土の崖の上で横たわっていた。
「乾いてゆく・・」
醜悪な日差しからの搾取により、
水を失い、草は果てようとしていた。
だが、その時、運よく雨季がやって来た。
幾日も幾日も大地に雨が降り注ぐ事になったのだ。
その雨から生まれた黒魔術の様な濁流に、
沢山の虫や、蠕虫達が流され、
崖の下の海へ落下していった。
「哀れな命は・・・、
自
魔女エスケレード・ポードリ
■エスケレード・ポードリ
ポルトガル出身
エスケレード・ポードリは、
やっぱり魔女の集会に所属はしていたけれど、
それはとても小さな規模のもので、
若い魔女であるポードリは、
そのコミュニティに入ったばかりの新入りだった。
とはいえ利発で、要領の良いポードリは、
そのコミュニティの中でそれなりに努力して、
自分のやるべき事、
やっておいた方が周りの魔女達に好感が得られるような事
(つまり、それも
魔女ウオイ・デ・ジャブチ(赤足亀)
■ウオイ・デ・ジャブチ
ブラジル北東部ピアウイ州出身。
ウオイにはなりたいものが何も無かった。
信仰心も無く、ミサでも与えられたパンを取りこぼしてしまう彼女を
人々は、人生の消えゆく松明の灯りの様だと言い、
虚しい食卓の皿の上のカメ「ジャブチ」の様だと言い、
彼女はいつの間にか
カメのウオイ(ウオイ・デ・ジャブチ)と呼ばれる様になった。
彼女は勉強嫌いだったので、勉強も全くする事はなかった。
魔女ペス・カンポサント(墓の魚)
■ぺス・カンポサント(墓場の魚)
カスティーリャ地方出身
ドイツ文学の研究者。
いつも黒い服を着ているのは、
敬愛している詩人インゲボルグ・バッハマン(詩人)に対して
喪に服している為。
彼女は三人姉妹の末っ子として生まれた。
裕福な両親から、姉妹の中で最も人形の様に愛されたが、
それは彼女の最も気に喰わない事だった。
しかし、詩が好きで、詩学を学んでいた彼女は、
ある日、唐突に悟った。
「私
魔女ゾエ・ド・ラ・ヴォルド
■ゾエ・ド・ラ・ヴォルド
フランス・ピカルディ出身
地方の名門の三女として生まれる。
生まれた時から世の中を[死んだ魚達の生簀]と感じ、
世界を冷たい目で眺めていた。
その独特の目つきと態度により、
周囲から[死んだ魚の令嬢]と囁かれる。
妖術や学問に興味を示し、
特に植物学、中でもアザミ(カルド)の研究に偏執的な才能を発揮する。
植物学により、この世の心理を解き明かそうとする為、
その姿勢は
魔女カラバサ・ベネノサ
■カラバサ・ベネノサ
重度のアル中魔女で、
[酒を飲んで酔わないと、悪魔も妖術の世界も見えない]
という三流の魔女。
青い舌のカラス(テカレット)が使い魔。
多くの良識ある人達は彼女に、
「酔わなければ見えないお前の世界など、幻覚に過ぎない」と言った。
だが、それに対して彼女は笑って言った。
「酔わないで見える世界なら幻覚ではない、なんて、
なんで思えるのですか?
あなた方、酔ってるのでは?
魔女ラ・ガンティエール
■ラ・ガンティエール
イタリア系フランス人。
この世で最も年経た魔女。
ラ・ガンティエールは昔、犬を飼っていた。
彼女は自分の相棒である犬に言った。
「いいかい?思想を持ってはいけないよ。
思想ってやつは、捕らわれると、
その為に自らを飲み込む大波に向かっていく
[生きる事]とは矛盾した生き物になっちまうんだ」
しかし、やがて犬は社会主義の思想を持ち、
スペイン内戦の義勇軍に参加する為にスペイ