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魔女ガラパタ

■南フランス出身。
ガラパタ、あるいはガラパダと呼ばれる魔女。
彼女には以下の話が伝えられている。

ガラパタは植物に関するまじないを得意とする魔女だったが、
多くの同じ門徒の者達が自然と調和し、
人間と距離を置く魔女達であったのに対して、
彼女は人間社会に積極的に関わり、人を愛する故に、
人に害を為す事に自然の知恵の全てを捧げる魔女であった。
人々は、彼女を邪悪な魔女として恐れ、
ガラパタは人々を愛しい対象として求めた。
大量のドクニンジンが彼女の悪事、
すなわち悪業(マレフィカ)の為に使われ、
沢山の善人達が彼女に酷い目に遭わされたのだった。
例えばジャン・ド・ラ・ヴォルドという名士は、
彼女の住む小さな田舎町に訪れた時に、
彼女によって、森の日陰に生える
紫色のサトイモをビールに入れられ、
口から大量の針を吐き出す羽目になり、三日間苦しんだ
(彼はそれ以来、二度とこの町に来る事が無くなったので、
これは村にとっては大損害となった)。

ところが、彼女にとっては、
それが人々と交流する唯一の手段だったものの、
村人達は彼女を、ただ厄介者として憎む事しかなかった。
近隣の羊飼いの魔女ド・ラ・パリュの様に、
人間達に時として知恵を貸し、愛される事も無かったし、
邪悪ではあったが、ディエゴ先生の様に、
社会的地位によって、敬まわれる事もなかった。
それがガラパタには、日々の余計な悲しみを募らせるのだった。

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やがて、ガラパタも歳を取り、
往年の元気も無くなっていたある時、
彼女の家に、たまたま魔王が夜勤明けで、寝床を借りに来ていた。
彼女は魔王に言った。
「おお、魔王よ!!
私も、もうおしまいだ。
いよいよ死が近づいているという訳だよ!!
それこそペロの様に不死の魔女というわけじゃないし。」
そこで魔王は言った。
「何か、言いたい事があるのかね?」
ガラパタは答えた。
「あるとも!!
思えば昔、私は父を愛していたが、
父は私を愛してくれなかった。
私は、父に愛される為にはどうしたらいいか、
朝晩、色々考えたものだが、結局わからなかった。
ある日、父がいつもの様に、私を殺そうと、
私の首を絞めたので、私はドクウツギの汁をかけて父を殺した。
自分で調合した自分だけの毒で、父を殺した時、
私には、それが愛なのだと感じたのだ。
それが私が世界を愛する方法だとわかったのだ。
だが、それが私の愛だったのだとしても、
誰かに愛される方法ではなかったのかもしれない。
例えば教会の連中みたいな善人共にさ。
ああ!!魔王よ!!
歳をとるというのはそういう事だ!!」
魔王は、本来はここで悪い事を言うべきだったのだが、
つい彼女に同情してしまい(眠かったのだ)、本心で言ってしまった。
「その糞親父にかけた毒が、
地獄の炎だったら良かったのになぁ」
彼女は続けて魔王に聞いた。
「魔王よ、お前は悪の元締めかもしれないが、
時として真実も言うのだろう?
そして何でも多くの事を知っているじゃないか!!
だから教えておくれ。
人を愛するという事は、どういう事をすればいいのか?
私は、自分の人生をかけてもわからなかったその答えが知りたいのだよ!!」
魔王は答えた。
「お前は何も間違っていない。
真実の多くは、お前達には役に立たないのだよ。
そういうものなのだ。
人間達というものは、赤いニンジンを愛するのではなく、
赤い様に見えるニンジンを愛するだけなんでな。」
それでも魔女は魔王に言った。
「それでもお前は真実を知っているのだろう?
教えてくれ!! 死にゆく年寄りの後生だと思って!!」
そこで魔王は根負けして言った(眠かったのだ)。
「ならば、アルビの山岳地帯に生えている
ある種の図々しいマムシグサ(アルム)を二、三房だけ摘み取り、
それを村の湿地帯に埋めるがいい。
それがお前が行える真実の善行というものだ。」

早速、彼女は魔王の言うとおりに、アルビの山に行き、
図々しいマムシグサを二、三房だけ採ってきて、
自分の村の湿地帯に埋めた。
ところが、そのマムシグサは、あっという間に湿地中に広がり、
他の植物達を皆、枯らしてしまった。
その枯れた植物達の中には、村人達にとって
貴重な薬草も、食卓の香草も含まれていたし、
中にはそのまま絶滅してしまった哀れな草もあったので、
村人達は、ガラパタの悪業を口々に責め、罵った。
誰もが彼女を憎み、恐ろしい魔女の仕業だと軽蔑した。
だが、その時にはもうガラパタは、人々の声が聞こえる状態ではなかった。あらゆる冒涜や、都合のいい善意や、偽りの届かない
真実の眠りに就こうとしていたのだ。

やがて100年後に世界中に疫病が流行り、
[アルビの山にだけ生えている、ある種の図々しいマムシグサが
その病に効く特効薬だ]という事を突き止めた人々は
(図々しいからこそ、疫病に効くのだ!!)、
アルビの山に向かったが、
その山のマムシグサ達は、大きな土砂崩れで、
全て枯れてしまっていた。
しかし、やがて人々は、そこから離れた小さな村の湿地帯に、
沢山の図々しいマムシグサが生えている事に気づいた。
そのマムシグサは多くの人々の命を救い、
教会の男達は、[正しい行いをしている善人の為に
神が起こした奇跡だ!!]と喜んだ。
誰も、それが邪悪な魔女の善行だとは気づかなかった。
善人達は、邪悪な魔女ガラパタの墓に唾を吐き、
神の奇跡を讃えた。




スペイン・オペラ楽団「墓の魚」
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