魔女達のユーモラスな物語

オペラ楽団「墓の魚」に登場する200人の魔女一人一人のユーモアと風刺あふれる物語を描い…

魔女達のユーモラスな物語

オペラ楽団「墓の魚」に登場する200人の魔女一人一人のユーモアと風刺あふれる物語を描いていきます。 スペイン風オペラ楽団「墓の魚」公式サイト http://site-1295095-2445-4622.mystrikingly.com/

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魔女ドマンドルクス・ド・ラ・パリュ2

【堆肥を運ぶ荷車】

    • 魔女コルタ・エル・バカラオ(鱈切り)

      テーブルの上に、腐った南極イバラガニの死体が置かれている。 コルタは思う。 移民の連中が喰う様な蟹だ。 あの連中は自分達の事を魔女(ブルハ)などとは言わない。 暴力男(コンパドリート)だとか、余所者(グリンゴ)だとか言うのだ。 思うに、彼らは彼らなりの幼さを持って、 かつて、事に挑んだんじゃないだろうか? そう完璧という訳でもなく、 一から何かを作ろうとしたのかもしれない。 まぁ、どの道、意味は同じだ。 墓地で概念を掘り起こす様な者という意味では、 魔女もヤクザ者も変わらない

      • 魔女カルタ

        ■■■あるドイツのサバトでの会話■■■ **グローデンフェルト神父** 娘よ。 お前のその目の玉。 入れたり、出したり、 取り外しがきくとはな。 そんな器用な事、何処で覚えた? 夜に教会の灯(ランタン)を 消しに来る様な連中は幾人も見てきたが、 そんな芸を披露する魔女など初めて見る。 **カルタ** なんだ? 夕暮れにドーフシュタス(路地)の辺りを ウロウロしている奴がいるなと思っていたら、 ついには、こんな所まで迷って来たのか? 随分と奇怪な影を背負って、 魂(のど)に

        • ある大罪人の独白(前狂言)

          永年の中で培われてきた遷移の遺産を、 あるいは人間の愛そのもの、 ある程度、ご都合の主義のものも、 竜舌蘭の名が示す様な真実のやつも、 そこから得る酒も含めてだが、 それらは全て屠殺され、叫び声をあげ、 ラザロの様に腐敗する。 そんな死を上演させる合図となる様な 呪われた錆びた土気色のラッパが目の前にあるとして、 それを吹くか?否か?と問われた時、 俺はその楽器を吹いた。 大変申し訳ないのだが、 この場合、第三者の意見などあまり意味を成さない。 ほとんどの人間は、 そもそも目

        魔女ドマンドルクス・ド・ラ・パリュ2

          ある南米の独裁者

          海は、煉獄の深淵まで続く巨大な聖堂だ!! そこでは厳格なミサが毎夜、繰り返される。 ただ単調に。 奉献に始まり、 途中の「暗闇の朗読」(ルソン・ド・テネブレ)、 終焉のミサ(イテ・ミサ・エスト)まで カイアシ類達は歌うのだ。 言葉(シナクシス)が省かれ、 淡々と儀式(エウカリスティア)だけが行われるミサは そう、 人間味の無いミサだ!! 骨のミサだ。 稀に短いミサ・ヴレヴィスが展開され、 しかし、そういった異音の儀式も、 繰り返されていく濁流の中で 通模倣であると気づく。 即

          魔女マリー・ド・アスティコット(蛆虫のマリー)

          ■マリー・ド・アスティコット(蛆虫のマリー) フランス出身 ジャンは、とても人から愛される日雇い耕作人(ジョナリエ)だった。 持っている財産は馬小屋の様な家と、 ニンニクで作ったお守り位なもので(牝鶏七羽と交換して手に入れた)、 子供の頃、プティット・エコール と呼ばれた学び舎に行く暇すら親から与えられなかった彼は、 学識なども全く持っていなかったが、 誰の話でも真剣に聞く優しさと、他人の気持ちを理解し、 それを慰められる繊細さを持っていた。 何より、彼の一番の財産は、 自

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          リュウゼツラン(番外編)

          スガラムディ村の魔女達の起こした嵐で 根を失ったアガベが、 乾燥した赤土の崖の上で横たわっていた。 「乾いてゆく・・」 醜悪な日差しからの搾取により、 水を失い、草は果てようとしていた。 だが、その時、運よく雨季がやって来た。 幾日も幾日も大地に雨が降り注ぐ事になったのだ。 その雨から生まれた黒魔術の様な濁流に、 沢山の虫や、蠕虫達が流され、 崖の下の海へ落下していった。 「哀れな命は・・・、 自分が何処に行くかなど考えない。 ただ、無意味にその絶望の水に自ら飛び込んでいくの

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          魔女エスケレード・ポードリ

          ■エスケレード・ポードリ ポルトガル出身 エスケレード・ポードリは、 やっぱり魔女の集会に所属はしていたけれど、 それはとても小さな規模のもので、 若い魔女であるポードリは、 そのコミュニティに入ったばかりの新入りだった。 とはいえ利発で、要領の良いポードリは、 そのコミュニティの中でそれなりに努力して、 自分のやるべき事、 やっておいた方が周りの魔女達に好感が得られるような事 (つまり、それもやるべき事だ)をすっかり覚えて、 二年目の今ではすっかりコミュニティの一員となっ

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          魔女ガラパタ

          ■南フランス出身。 ガラパタ、あるいはガラパダと呼ばれる魔女。 彼女には以下の話が伝えられている。 ガラパタは植物に関するまじないを得意とする魔女だったが、 多くの同じ門徒の者達が自然と調和し、 人間と距離を置く魔女達であったのに対して、 彼女は人間社会に積極的に関わり、人を愛する故に、 人に害を為す事に自然の知恵の全てを捧げる魔女であった。 人々は、彼女を邪悪な魔女として恐れ、 ガラパタは人々を愛しい対象として求めた。 大量のドクニンジンが彼女の悪事、 すなわち悪業(マレ

          魔女ウオイ・デ・ジャブチ(赤足亀)

          ■ウオイ・デ・ジャブチ ブラジル北東部ピアウイ州出身。 ウオイにはなりたいものが何も無かった。 信仰心も無く、ミサでも与えられたパンを取りこぼしてしまう彼女を 人々は、人生の消えゆく松明の灯りの様だと言い、 虚しい食卓の皿の上のカメ「ジャブチ」の様だと言い、 彼女はいつの間にか カメのウオイ(ウオイ・デ・ジャブチ)と呼ばれる様になった。 彼女は勉強嫌いだったので、勉強も全くする事はなかった。 数字を並べた所で、彼女にとっては何の意味もなさなかったし、 カステロ・ブランコが

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          魔女ペス・カンポサント(墓の魚)

          ■ぺス・カンポサント(墓場の魚) カスティーリャ地方出身 ドイツ文学の研究者。 いつも黒い服を着ているのは、 敬愛している詩人インゲボルグ・バッハマン(詩人)に対して 喪に服している為。 彼女は三人姉妹の末っ子として生まれた。 裕福な両親から、姉妹の中で最も人形の様に愛されたが、 それは彼女の最も気に喰わない事だった。 しかし、詩が好きで、詩学を学んでいた彼女は、 ある日、唐突に悟った。 「私がこの世に生まれたのは、愚かな両親に愛を求め、 自分の本当の姿を見てもらう為じゃ

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          魔女ゾエ・ド・ラ・ヴォルド

          ■ゾエ・ド・ラ・ヴォルド フランス・ピカルディ出身 地方の名門の三女として生まれる。 生まれた時から世の中を[死んだ魚達の生簀]と感じ、 世界を冷たい目で眺めていた。 その独特の目つきと態度により、 周囲から[死んだ魚の令嬢]と囁かれる。 妖術や学問に興味を示し、 特に植物学、中でもアザミ(カルド)の研究に偏執的な才能を発揮する。 植物学により、この世の心理を解き明かそうとする為、 その姿勢は悪魔にも疎まれる。 女性が学問をする事に反対する家族との仲はどんどん悪化し、

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          魔女アクトゥリス

          ■アクトゥリス イタリア出身。 自分の教養にこだわった魔女。 伝わる彼女の物語は以下の様なものである。 アクトゥリス伯母さんが死んだ。 伯母さんは広い世界へ飛び出して、自由を得る為に、 愚かな男に束縛などされない為に英語を勉強した。 だけど、家の金庫には彼女に使う分のお金が無かったので (お爺さんがアサリを沢山買ってしまったのだ!!)、 彼女は大学に行く事ができなかった。 彼女の飼っている雄鶏が言った。 「教養がない!!」 そうだ。教養が無いと人生を楽しく生きる事は

          魔女カラバサ・ベネノサ

          ■カラバサ・ベネノサ 重度のアル中魔女で、 [酒を飲んで酔わないと、悪魔も妖術の世界も見えない] という三流の魔女。 青い舌のカラス(テカレット)が使い魔。 多くの良識ある人達は彼女に、 「酔わなければ見えないお前の世界など、幻覚に過ぎない」と言った。 だが、それに対して彼女は笑って言った。 「酔わないで見える世界なら幻覚ではない、なんて、 なんで思えるのですか? あなた方、酔ってるのでは? 私は酒に酔っておりますが、 あなた方は社会に酔っておられる。」 人々は彼女の言う

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          魔女ラ・ガンティエール

          ■ラ・ガンティエール イタリア系フランス人。 この世で最も年経た魔女。 ラ・ガンティエールは昔、犬を飼っていた。 彼女は自分の相棒である犬に言った。 「いいかい?思想を持ってはいけないよ。 思想ってやつは、捕らわれると、 その為に自らを飲み込む大波に向かっていく [生きる事]とは矛盾した生き物になっちまうんだ」 しかし、やがて犬は社会主義の思想を持ち、 スペイン内戦の義勇軍に参加する為にスペインに渡ってしまった。 そして、それっきり帰ってくる事はなかった。 「あれ程、思想

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          魔女エル・マゴット

          ■エル・マゴット 全てのフランス魔女達の棟梁(頭目)。 本名はマリー・ヴォアザン。 幼少の頃より、天才、異様児と呼ばれ、 あらゆる分野の習得に異様な速さを示す。 しかし反面、精神は未熟で短気な面が目立ち、 特に異様な程の負けず嫌いで、 同世代の子供達と勝負しても、勝つ為に手段を選ばない、 負けた者を徹底的になじるなど、 他者に対しての思いやりに欠けていた性悪な性があった。 その為、徐々に周囲からは疎んじられる様になる。 両親は彼女が五歳の頃からニンジンを好んで食べた事か