魔女ラ・ガンティエール
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魔女ラ・ガンティエール

魔女達のユーモラスな物語

■ラ・ガンティエール
イタリア系フランス人。

この世で最も年経た魔女。

ラ・ガンティエールは昔、犬を飼っていた。
彼女は自分の相棒である犬に言った。
「いいかい?思想を持ってはいけないよ。
思想ってやつは、捕らわれると、
その為に自らを飲み込む大波に向かっていく
[生きる事]とは矛盾した生き物になっちまうんだ」
しかし、やがて犬は社会主義の思想を持ち、
スペイン内戦の義勇軍に参加する為にスペインに渡ってしまった。
そして、それっきり帰ってくる事はなかった。
「あれ程、思想を持つなと言ったのに」
彼女はとても残念がった。
やがて時が経ち、彼女に友達が出来た。
その友に彼女は言った。
「いいかい?思想を持ってはいけないよ。
思想ってやつは、持っちまうと、
その為に大切な人を裏切って、駆け出して、
長生きがとにかく出来なくなるから」
しかし友は[愛を貫きたい]という思想を持ってしまい、
嵐の夜に溺れた魚を助ける為に川に飛び込んで、
二度と浮かんでくる事はなかった。
「あれ程、思想を持つなと言ったのに」
彼女はとても悲しんだ。
やがて、彼女には恋人が出来た。
彼女は自分の愛する恋人に言った。
「いいかい?思想を持たないでくれよ。
思想ってやつは、残酷だ。
自分の手に余る沢山の荷物を人に抱えさせるものだから、
みんな生きていけなくなってしまうんだ」
しかし、恋人は[正しい道を生きたい]という思想を持ってしまい、
ある日、暴漢に襲われている人を助けようとして、
刺されて死んでしまった。
「あれ程、思想を持つなと言ったのに」
彼女は泣き崩れた。

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その後も、彼女には沢山の大切な人間が出来たが、
皆、何処かで[思想]を見つけ、
彼女をおいて、いなくなってしまった。
魔女達の集まる集会では、誰よりも長い年月を生きた彼女を
他の魔女達は口々に讃えた。
「素晴らしい!!
きっと永遠に生きるに違いないよ。
あやかりたいものだ。」
「あのエル・マゴットや、ラ・カラですら、
寿命という点においては彼女に及ばない!!」
しかし、彼女は言った。
「私は長生きなどしていない。
[思想を持たない]私は、そもそも生きていないのだ。
だから死ぬ事もなく、歳月を積み重ねる事もない。
そこにあるのは無だ!!
枯れた木の身体が、また次の木になる様に、
ただ、存在をしていただけだ。
なぜなら、人が[生きている]という事は
[思想を持つ]という事だからだよ。
[思想を持たない]私を、誰か殺す事が出来る者はいないのかい?」
しかし魔女達は、彼女の言っている事を理解しなかったし、
口々にただ彼女を讃えた。
「あやかりたいものだ!!」
そこに、たまたま通りがかった聖ロクスが、彼女に言った。
「[思想を持たぬのなら死なない]という事がお前の魔法ならば、
いつかはお前も死ぬだろう。婦人よ。
なぜならお前は[思想を持たぬという思想]を持っているからだ」
それを聞いて、彼女はようやく救われた。
そして言った。
「なるほど。
思想を持つ事が[生きる]事で、生きるが故に人は死ぬ。
だが、それでもどんな邪悪さすら、
どんな思想を持ち、右や左に行った者すら、
結局は神の愛と哀れみにすがるのだなぁ」

どんな異なる思想の先にも、
愛に飢えた心がある、というお話。





スペイン・オペラ楽団「墓の魚」
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