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本の話

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#最近読んだ本

『話の終わり』の終わり

『話の終わり』の終わり

話の終わり THE END OF THE STORY
リディア・デイヴィス/岸本佐知子 訳 (白水Uブックス)

 終わらない話の終わりの話。リディア・デイヴィス神も岸本佐知子さんも、歳下の恋人がいる(いた)んだろうなと思った。そうだったら素敵だ。

 リディア・デイヴィスという生ける神は、超短編で有名(?)なので本作が唯一の長編である。『暗夜行路』が唯一の長編であとはほぼ短編ばかり書いていた志賀

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一年の始まりはハヤカワepi文庫を読まないといけない病に罹っている

一年の始まりはハヤカワepi文庫を読まないといけない病に罹っている

 宿痾である。

 書くのを忘れたけど、去年はラッタウット・ラープチャルーンサップの『観光』をよんだ。
 今年は『悪童日記』である。

悪童日記 Le grand cahier
 アゴタ・クリストフ/堀 茂樹 訳 (ハヤカワepi文庫)

 この作品は、ハヤカワepi文庫のおすすめ本を調べているといつも名前が上がる名作だった。なのでいつか読もうと想いつつもどこか敬遠していた。戦争の話で、重たいもの

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偶然の音楽、読了の感覚。

偶然の音楽、読了の感覚。

 The Music of Chance / Paul Auster 1990
『偶然の音楽』(ポール・オースター/柴田元幸訳 新潮文庫)

 うまくいかないのが人生。そして実質太宰。

 ポール・オースターの小説を読むのは『ムーン・パレス』以来だった。

 今回は贖罪の物語だと思った。

 ジム・ナッシュは父親の遺産が手に入ってアメリカじゅうを旅する。そして偶然出会った行き倒れの賭博師ジャック・

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読書する身体

読書する身体

――あるいは『数学する身体』の感想文的ななにか。

はじめに 世界のすべてを知るには人の一生は短すぎるし、知ることができても僕の脳ではそれを処理することはできない。そんなことを思って、人間の矮小さを感じる。世の中にはよくわからないことが無限にあって、すべて知ることが不可能にしても知りたいから本を読むのだ。少しだけでもわかった気になりたい。
 本をひとつ読んで自分の認識している世界が広がったとき、そ

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『アンナ・カレーニナ』を読んだ、華麗にな。

『アンナ・カレーニナ』を読んだ、華麗にな。

 まず初めに言いたいのは、登場人物が多すぎる!
 そして長すぎる!
 でも面白すぎる!

 完

 ――と言いたいところだがそんな単純な小説ではない。
 ドストエフスキーなんかもそうだけど、帝国ロシアではロシアのデカさを象徴するがごとくに長い小説を書かないといけない使命みたいなのを感じてしまうのだろうか。あるいは寒いから引きこもってやたら長い小説をひたすら書く以外にすることがないのか。しかも面白い

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夜を駆ける

夜を駆ける

朝顔の観察日記(140) 小学生のとき、たしかにそんな事をした覚えがある。誰しもそうだろう。日本人なら。それはそれで恐ろしい話だ。毎年日本中で小学生たちが何輪の朝顔の花を観察しているのだろう。観察されているのは小学生の方ではないか。それはそれとして、子供の頃のそんなかすかな記憶が僕たちにはある。にもかかわらず、朝顔について何を知っているというのだろう。何を覚えている? どんなふうに芽をだして、どん

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燃えよ剣を読んだ件

燃えよ剣を読んだ件

 これは土方歳三という男の生きざまを描いた小説。

 今回も土方は勝てなかったよ……。と思ったけど、もはや勝ち負けではない。戦の中に生きて死ぬ。剣に生き剣に死ぬ。戦のための戦。そんな境地だと作中に述べられていたので、その意味では土方の勝利なのだ。勝利という概念はもはやないんだけど。

 ていうか今回はってなんだよ。

*****

 たまには、幕府サイドも奮起して、徳川慶喜も「大政奉還? 知らん。

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素粒子

素粒子

 ミシェル・ウエルベック『素粒子』を読んだ。

 以下ネタバレを含む感想です。

まさかエピローグになって本編が始まるとは思わなかった。 少なくとも読者にとってはそうだった。小説的には確かにエピローグなんだけど……。それまでのプロローグ、第一部、第二部、第三部は長大な序章で、エピローグが本編だと感じた。

 僕は最初SF小説だと思って読み始めた。第一部は若い頃の話で青春小説じみていた。第二部では歳

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i (西加奈子)読んだ。

i (西加奈子)読んだ。

 西加奈子さんの小説を読むのは初めてだった。良い小説だった。

 この小説には普段僕がよく思うことが書かれてあった。
 例えば、ワールドトレードセンターに飛行機が突っ込んだとき、東北で地震が起きたとき、主人公は巻き込まれはしなかった。そして、「生き残ってしまった」「なんで私じゃないの」と感じてしまう。
 シリアで生まれてアメリカ人の父と日本人の母に養子として引き取られ、自分の代わりに引き取られなか

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カブールのその

カブールのその

 宮内悠介『カブールの園』を読んだ。

 以下感想

 アメリカの大地あるいは街に漂っている亡霊が憑依して書いている、僕の宮内悠介のイメージ。でもこの人アジアを放浪してたんだよねって思ってたら、子供の頃はニューヨークに住んでたってサ。なるほど。いろんな亡霊が憑依しているから実態は不明で、宮内悠介という概念がフィクションなんじゃないかと思える。
 解説にも書いてあったけど、英語と日本語の間で揺れる感

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思うこと

思うこと

 twitterにも書いたけど、鷺沢萠『帰れぬ人びと』を読んだ。

 以前から読みたかった天才のデビュー作を含む短編集。その感想やらなんやら。

第一部『川べりの道』
 これがデビュー作。十八ぐらいの少女が書く文章じゃない。こんな文章が書きたい。そう思う。その圧倒的な才能に世間は皆嫉妬した。でも解説に書いてあるように、十代の終わりの大人になる前の老成した感覚(そんなものあったか?)をもって描かれて

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