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燃えよ剣を読んだ件

 これは土方歳三という男の生きざまを描いた小説。

 今回も土方は勝てなかったよ……。と思ったけど、もはや勝ち負けではない。戦の中に生きて死ぬ。剣に生き剣に死ぬ。戦のための戦。そんな境地だと作中に述べられていたので、その意味では土方の勝利なのだ。勝利という概念はもはやないんだけど。

 ていうか今回はってなんだよ。

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 たまには、幕府サイドも奮起して、徳川慶喜も「大政奉還? 知らん。慶喜アタックを喰らえ」って薩長を滅ぼしてもよかったんだ。列島を恐怖に陥れた慶喜であった。土方は強いやつが現れたと、俺はあいつを倒すと息巻いて突進するが大敗を期す。形成を立て直すため北上する。
 そして日光で土方が召喚獣【葵三代】を召喚。徳川家康の霊が憑依した土方歳三によるネオ徳川幕府に慶喜はやられてしまう。
 戊辰の役が起こらなかった世界線では、函館の五稜郭がついに五芒星を完成させ、蝦夷の守護を完成させる。佐久の五稜郭、龍岡城では 着々と悪魔召喚の五芒星が完成されようとしていた。中山道は岩村田宿から南へ3里ほどにあるこの龍岡城には行方をくらませていた将軍徳川慶喜が密かに身を隠していた。土方に対抗しようと慶喜は坂本龍馬や伊東甲子太郎といった志半ばで討たれた士の無念を集め、尊王も攘夷も倒幕も思想など関係なく、打倒土方、打倒家康のための悪魔召喚の準備を行っていた。
 その頃江戸では、意思を持った刀が操った首なし死体による人斬りが世間を恐怖に陥れていた。その正体は近藤勇の虎徹である。近藤の虎徹に沖田総司の魂が宿って人を斬る。操られた肉体は近藤勇その人である。自分の首を探してさまよう近藤。人を斬っては首を据え斬っては据え、首無し死体が列をなす。死後衰えるどころか京の日々を思い出した沖田総司の剣はますます勢いを増す。甲州街道を進み、甲陽鎮撫隊として板垣退助に負ける予定だった近藤勇は自身の首切り死体と出会い、斬り合うも、剣に(臥せっているはずの)沖田の魂を認め、正気を取り戻させる。2本の虎徹を携えた近藤は佐久に慶喜が落ち延びたと噂を聴きつけ薩長の生き残りをともに叩くため馳せ参じる。
 すでに土方のことしか頭にない慶喜をもはや敵とみなした近藤はこれを斬り捨てる。慶喜の首を得た近藤勇は江戸に戻り、慶喜は初めて江戸城に入城を果たす。もう一方の近藤は慶喜の遺した五芒星を完成させ、日光の土方を守護する精霊を呼び出す。源さんこと、かつての同志、井上源三郎にあやかり源之丞と名付けた精霊は土方の養子となり次代将軍と囁かれることになる。しかしその後病に倒れ齢35にして消滅してしまう。噂とは違い、もし仮に生き延びたとしても、将軍の地位は滅びるまでの150年間土方家康歳三が守り通したので将軍になることはなかったであろうという意見も多い。
 日光の土方。近藤勇改め、近藤佐久守昌宜。江戸城の虎徹。3つの頂点を持つ結界は、後の列強諸外国から列島を守ったと伝えられている。今から1500年前のことだ。

 ということを考えたりした。

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 土方歳三が主人公だから仕方ないのかもしれないけれど、近藤と歳三、と表現されると、そこは土方でええやんとなる。
 どこまでが史実で、どこまでがフィクションなのかはわからないが、物語として非常に面白かった、司馬遼太郎の本を読んだのは、小学生の頃の『二十一世紀に生きる君たちへ』という教科書に載っていたもの以来だ。ちょっと土方とか沖田とか新選組を美化し過ぎなんじゃないかとか、山南敬介は嫌いだとかそういう感情が描かれがちで、山南さんに対する風評被害がすごいみたいに思う。けど、これは土方歳三が主人公の小説なのだ。だからしかたない。
 小説を読んでいて、こんなにニヤリとしたり、笑ったり悲しんだりしたのは久しぶりかもしれない。それは司馬遼太郎の力で、歴史の力で、土方歳三の力だ。ありがとう。達者で。


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 個人的に思うのはこの一連の戦争で一番頭が良かったのは徳川慶喜かもしれない。ひとりでひょいひょいとかわして最後は趣味の写真のために生きた。表舞台からひっそりと消えていったしたたかな人物なのかもしれない。30年後ぐらいに参議院議員をやっていたとかいなかったとか。
 当時の慶喜は、政治なんて興味ないぜ、やってらんねぇぜ、ってなったのかもしれない。
 大政奉還するのは、250年続いた徳川幕府を終わらせることで、それはとても重大な決断だったと思う。だからこそ、今でもメジャーな徳川将軍の一人として名が残っているのだ。そして結局彼は最後の征夷大将軍になった。そうなることをわかっていて大政を奉還したのではないか。海外の列強に立ち向かうには、幕府なんて組織では太刀打ちできず、滅ぼされる運命にあったかもしれない。それが見えていて、未来のことも読めてしまった頭の良い人物だったに違いない。そして、列強や国内異分子による殲滅を回避する意味でも、政治から距離をとった。それは賢い選択だったのではないか。そう思う。
 次は徳川慶喜が主人公の小説を読みたいな。


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