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さよならレヴィ=ストロース
第一章 「喪われた指環」編 第1話
成田空港に降り立ってみると冬の寒さが身に染みた。久しぶりに日本へ帰ってきたが日本は寒い。オーストラリアに滞在していた1ヶ月はTシャツで過ごすのが普通だった。ヒロアキは空港で待っていた妻のヨシミと息子のタケルに英語で挨拶した。
ーlong time no see, (久しぶり)How have you been?(元気だった?)
妻のヨシミはそれに無言で頷
笠原メイと死んだバイク
「流れというのが出てくるのを待つのは辛いもんだ。しかし待たねばならん時には、待たねばならん。そのあいだは死んだつもりでおればいいんだ」_村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」より引用
5年前私は死んでいた。
比喩的にも現実的にも死んでいた。
大学を中退して何もやることはなくアルバイトもせずにひたすら毎日ゲームをしていた。
本当に起きてからずっとだ。朝起きて朝食を食べたらプレイステーションを起
短編「worlds end」
罫線を引くこと。補助線を引くこと。私がIに教わったことのすべてだ。
Iは私が高校に進学するまえに首を吊って亡くなった。遺書はなかった。
Iについて知っていることはそれほど多くない。塾の講師をしていて、さつまいもパンが好きでよく夜更かしをしていることくらいだった。
Iが死んだあとも私は普通に高校に通っていた。仲のいい友人は一人もいなかったがいじめに遭うこともなく普通に暮らしていた。心のどこ