アナベル・リィ

「編集力」+「偶有性」+「翻訳論」などを軸に小説を書いたりエッセイを書いたりする。

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  • エッセイ風小説「虹」

    私が書いたエッセイ風小説「虹」をまとめています。

最近の記事

眠り

今日は眠かった。昨日もおとといも眠かった。蝶がサナギに退化したように一日中眠り続けていた。眠ったら夢を見た。夢の内容は思い出せないけど水飴のようにとろけるような夢だった。朝起きると非通知番号から電話が2件来ていた。電話には出なかった。江國香織とフランソワーズ・サガンの小説を交互に見ながら午後は過ごした。夜カエルになった男についての奇妙な映画を見た。映像はモノクロだし俳優の演技もお世辞には良いとは言えないけど印象に残る映画だった。朝起きるとカエルになってたら嫌だなぁと思いなが

    • 螺旋構造のムカデ 花火は終わったが 狐につままれたような顔して 水中に小魚が集まってくる 藻が絵の具みたいに溶け合って 夜はコンクリートに埋められて 死神たちが踊りを踊っている てふてふよ なぜお前は神様のやうに 笑ってはくれないのか 鉛筆の芯を 少しずつ削っていくように 俺の心は削りとられていく 夏 放火魔の昼休みは短い(蝉の一生!) この詩を書きなぐっている間にも 俺の兄妹は屠られているだらう プールに浮かんでいる浮き輪だよ これは比喩で

      • さよならレヴィ=ストロース

        第一章「喪われた指環」第4話  車内ではボビー・ダーリンの「beyond the sea」が流れていた。タケルは退屈なのか3DSの「マリオカート」をやっている。時折顔を上げて ー焼肉屋まだ?  と訊いてくる。ヒロアキは笑いながら ーもう少しだよ  と答えていた。久しぶりに帰ってきた東京の街はなにかしら孤独な印象をヒロアキに与えていた。人はたくさんいるし周りに建っているビル郡は巨大だ。しかしなぜか孤独だ。車を運転しながらヒロアキはそんなことを考えていた。30分ほど車を走らせよ

        • さよならレヴィ=ストロース

           第1章「喪われた指環」第三話  工場で働いている田町菊蔵は今朝も仕事でミスをした。自分では取るに足らない小さなミスだと思っていたが工場長からは罵声が飛んだ。菊蔵は内心「クソが」と思いながらも工場長に何度も謝った。工場の機械油の匂いが染み付いた作業着のまま昼休みに近くの弁当屋に行った。弁当屋の店員は菊蔵を見るなり ーはあ、菊やん、また怒られたね  と笑いながら言った。菊蔵は ーなんでわかった  とぶすっとした表情をしながら訊いた。店員は天ぷらを揚げながら ー顔を見ればわかる

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        • エッセイ風小説「虹」
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        記事

          さよならレヴィ=ストロース

          第一章「喪われた指環」第2話 その日もアルトは砂場で遊んでいた。砂場にはアルトの他にも数人の幼稚園児がいて、砂の城を作ったり泥団子を作ったりして遊んでいた。アルトは友人のトネリコと砂の城を作るのに夢中だった。Minecraftというゲームである配信者が城を作っているのを見てアルトも城を作って見たくなったのだ。 ートネリコ、もうちょい水を多く入れて アルトはトネリコに話しかけた。トネリコはアルトの熱中ぶりに少し呆れたように ーアルト、もし城を作ったとしても誰かに壊されちゃ

          さよならレヴィ=ストロース

          さよならレヴィ=ストロース

          第一章 「喪われた指環」編 第1話 成田空港に降り立ってみると冬の寒さが身に染みた。久しぶりに日本へ帰ってきたが日本は寒い。オーストラリアに滞在していた1ヶ月はTシャツで過ごすのが普通だった。ヒロアキは空港で待っていた妻のヨシミと息子のタケルに英語で挨拶した。 ーlong time no see, (久しぶり)How have you been?(元気だった?) 妻のヨシミはそれに無言で頷くと愛犬を抱擁するようにヒロアキをきつく抱きしめた。 ーおいおいやめてくれよ。今

          さよならレヴィ=ストロース

          笠原メイと死んだバイク

          「流れというのが出てくるのを待つのは辛いもんだ。しかし待たねばならん時には、待たねばならん。そのあいだは死んだつもりでおればいいんだ」_村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」より引用 5年前私は死んでいた。 比喩的にも現実的にも死んでいた。 大学を中退して何もやることはなくアルバイトもせずにひたすら毎日ゲームをしていた。 本当に起きてからずっとだ。朝起きて朝食を食べたらプレイステーションを起動する。そしてただひたすらゲーム(グランド・セフト・オートやメタルギアソリッド)

          笠原メイと死んだバイク

          句集「認識の海」

          春の海にて花粉を懀む 認識論(epistemology)は間違つている 膝小僧が痛い グレゴール・ザムザはいいよな働かなくてよくて 愛国者達に捧ぐ 味噌ラーメンのばらあど お前らがもう忘れたもの 初めて嗅いだ海の匂い

          句集「認識の海」

          蟻塚・朱色の手

            蟻塚 朱色の手 蟻塚 渋谷駅のホームで人を待っているKは腕時計を見た。秒針は47分を差している。茜色に染まった駅のホームは血のように真っ赤だ。Kはなかなか人が来ないことに苛ついていた。地面を蟻が這っている。その蟻の群れを見つめていた時蟻がこちらを見たような気がした。Kは驚いて地面を凝視したがその時にはもう蟻は消えていた。地面にはただコンクリートで覆われた道路があるだけだった。秒針が15分を差した時やっと人がやってきた。人はKに待ち合わせ時間に遅れたことをしきりに謝

          蟻塚・朱色の手

          逆弦定理

          昔、地球には神がいたとされる。今は死滅した本というデッドデバイスに記されていたのでたしかなことはわからないけど、たしかに「神」はいた。  いつものように学校に通っているとマンホールの蓋が開いていた。私は気になってマンホールを覗いてみた。当然のことながら真っ暗でよくわからない。ずっと覗いていると地下に落ちそうな気がした。私はマンホールの蓋を閉めた。  学校につくとクラスメイトの春擬きがほかの級友たちと何か騒いでいる。私が「どしたん?」と訊くと春擬きは狂犬病にかかった犬のよ

          偶有性の森で

          何から書き始めればいいのか。 そうだまず偶有性がある。偶有性とは「存在することもしないこともありえるものの在り方」(Wikipediaより引用)のことを言う。要は「ありえたかもしれないしありえなかったかもしれない」事象のことだ。在る世界がoneだとすれば偶有性の世界はanotherである。シュレディンガーの猫に例えるなら「生きている猫」が世界Aだとするならば「死んでいるかもしれない猫」が偶有性Bである。偶有性という言葉は古代ギリシアの哲学者アリストテレスが提唱した。私の思想

          バイブレーター

          「消費税率が来年度から3%上がり…」 テレビからアナウンサーの不快な声が聞こえてきたのでチャンネルを切り替えた。ザッピングしてるとテレビはまるで私の意識みたいだなと思う。 チャンネルを切り替えても切り替えても似たような番組ばかり流れるので私はテレビの電源を切った。ついでにエアコンのスイッチも。 ベッドに寝転がりスマホの画面を眺める。スマホもテレビと同じくらい空虚だったが私の嗜好に合わせたコンテンツが供給されるので飽きない。フィルターバブルと言うやつだ。「フィルターバ

          バイブレーター

          場所と屍体

          冬のある日に熊に襲われる 冬の日に水泳場でアイスクリームを食べるということ 三点リーダを省略するなカマキリの屍体 彼ら/彼女らを救出しなければ三人称の俯瞰した青空

          偶有性と翻訳の森で

           今日は久しぶりに小説を書いた。一日のスケジュールに小説を執筆する時間を作ってみた。時間は在るものではなく作るものだという言葉があるが全くその通りで時間というものは存在するものではなく制作するものだ。  最近筋トレをすることが多くなった。理由としては筋肉を鍛えたいとか腹筋を割りたいとかいろいろあるが一番の理由は筋トレをすると疲れて眠くなるということだ。頭がぼんやりして適度な眠気がある状態が好きだ。脳科学の言葉でこの状態を変性意識状態というらしい。この変性意識に入ってる状態だと

          偶有性と翻訳の森で

          短編「worlds end」

           罫線を引くこと。補助線を引くこと。私がIに教わったことのすべてだ。  Iは私が高校に進学するまえに首を吊って亡くなった。遺書はなかった。  Iについて知っていることはそれほど多くない。塾の講師をしていて、さつまいもパンが好きでよく夜更かしをしていることくらいだった。  Iが死んだあとも私は普通に高校に通っていた。仲のいい友人は一人もいなかったがいじめに遭うこともなく普通に暮らしていた。心のどこかにIの存在が棘のように刺さっているということもなかった。 Iと私は肉体関係を

          短編「worlds end」

          詩「デッドエンドの冒険」

           中心の歌  あるいは歩いていく 死んだ魚たちが  ら行で立ち止まって 形容詞と助詞の区別さえつかずに  仮死の祭典だ 亡霊どもが呻きながらぞろぞろと這いずり回る  中心の歌は彼方には響かない 圏論の可能性について  四六時中考えている ぼくと君の可能性よりも  靴下を履かないで じろじろと見られている    偉そう  夜ってだけで偉そうにするな  気持ちが悪い  朝ってだけで偉そうにするな  吐き気がする  ポエトリーリーディングみたいな言葉しか吐き出せなくなったら  

          詩「デッドエンドの冒険」