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さよならレヴィ=ストロース

第一章「喪われた指環」第4話

 車内ではボビー・ダーリンの「beyond the sea」が流れていた。タケルは退屈なのか3DSの「マリオカート」をやっている。時折顔を上げて
ー焼肉屋まだ?
 と訊いてくる。ヒロアキは笑いながら
ーもう少しだよ
 と答えていた。久しぶりに帰ってきた東京の街はなにかしら孤独な印象をヒロアキに与えていた。人はたくさんいるし周りに建っているビル郡は巨大だ。しかしなぜか孤独だ。車を運転しながらヒロアキはそんなことを考えていた。30分ほど車を走らせようやく「叙々苑」が見えてきた。シートベルトをおもちゃみたいにいじくっているタケルに向かって
ーおーい、着いたぞー
 と声をかける。妻のヨシミは笑いながら
ーよっぽど焼肉が食べたかったのね。拗ねちゃって
と言った。駐車場に車を停めると3人は吹きすさぶ風も気にせ店へと向かった。店内は思っていたほど混んでいなかった。店員に
ー予約はしてないんですが、大丈夫でしょうか
と声をかけると大丈夫だと返答があったのでヒロアキはウェイティングリストに苗字を書いた。店員に声をかけられるのを待っている間タケルはヒロアキに
ーねえ、オーストラリアってどんな国?コアラとかいるの?
と質問をしていた。ヒロアキは
ー広くて海が綺麗で、暖かいところだよ。コアラは見なかったなあ
と質問に答えていた。しばらくすると店員に
ーお待たせいたしました。ナリタさん9番の席へどうぞ
といわれたので3人は9番の席へと向かった。席に座るとさっそくタケルは
ーカルビが食べたい!壺漬けカルビ
とヒロアキにせがんだので壺漬けカルビを注文した。店内は暖房がほどよく効いており快適な感じがした。料理が運ばれてくるのを待っているあいだヒロアキはタケルやヨシミにオーストラリアで過ごした日々のことを話していた。現地で社員たちと食べたヤギの肉の味やサンゴ礁沖で泳いだことなど。その話を興味心身で2人は聞いていた。

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