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さよならレヴィ=ストロース

第一章「喪われた指環」第2話

 その日もアルトは砂場で遊んでいた。砂場にはアルトの他にも数人の幼稚園児がいて、砂の城を作ったり泥団子を作ったりして遊んでいた。アルトは友人のトネリコと砂の城を作るのに夢中だった。Minecraftというゲームである配信者が城を作っているのを見てアルトも城を作って見たくなったのだ。
ートネリコ、もうちょい水を多く入れて
 アルトはトネリコに話しかけた。トネリコはアルトの熱中ぶりに少し呆れたように
ーアルト、もし城を作ったとしても誰かに壊されちゃうかもしれないんだよ?
 と言った。アルトはそれでも構わないという風に
ー まぁその時はその時さ
 と水をかけながら答えた。風が強く吹いた。遠くで茂っている楓の木々が揺れた。まるでなにかの暗号のように。結局その日は一日中城を作っていた。5時になり公園を去る時トネリコはアルトに言った。
ーもし誰かが城を壊しちゃったとしてもあまり気にしないでね
 アルトは別に気にしない、と答えた。アルトが家に帰るとカレーのいい匂いがした。
ーただいま。今日はカレー?
 と台所で料理をしている母親に訊ねると
ーおかえり。今日はカレーとローストチキンよ
 と答えた。両方ともアルトの大好物だった。アルトは嬉しくなりリビングにあるテレビをつけた。アラブ行きの旅客機が墜落したというニュースが流れていた。アルトは飛行機にまだ乗ったことがなかったのでよく分からなかったが緊迫したニュースキャスターの表情から何か重大な事件が起きているということは伝わってきた。アルトは少し怖くなりテレビの電源を消し2階にある自室に入った。机の上には見知らぬ包み紙が置いてあり表紙には「アルト君へ」と書かれていた。アルトは叔父さんか誰かからのプレゼントかと思い、誕生日は3ヶ月前だったけどなと思いながら包み紙を開けた。中にはただ綺麗な銀色の指輪が入っていた。

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