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ドキドキ!連載中作品

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新連載小説 | Swim in the Sky - ep3

新連載小説 | Swim in the Sky - ep3

◀︎◀︎◀︎ ep02

派手なネオンから少し離れた一角にある、芸能人が集まることで有名なクラブ。他とは一線を画すその店は、チャチな装飾などもなく、地下へ伸びる階段の上にしっとりと控えめなネオンの店名が輝くだけだ。
その裏口が見える位置に車を停めると、安東がそちらへレンズを向けた。姿勢を低くしているから、外から見たら俺しか乗っていないように見えるだろう。
俺は居眠りでもしているかのように背もたれに

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新連載小説 | Swim in the Sky - ep2

新連載小説 | Swim in the Sky - ep2

◀︎◀︎◀︎ ep01

「俺の仕入れた情報によると、工藤亜里香は今、六本木にいる」
カメラのレンズを調整しながら、助手席に座る安東が言った。運転手より先に乗り込みすでに寛いでいる彼は、四十を超えているにも関わらず今でも若い女の子と楽しく遊び、そこから得た情報を余すことなく活用しているような男だ。やっと成人したような女の子達にとっては、この若々しくて、かつどことなく謎めいたワルい雰囲気が魅力なのだ

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新連載SS | Swim in the Sky - ep1

新連載SS | Swim in the Sky - ep1

この世に産まれついた時ありったけの声で泣くのは、産まれてしまったことを嘆くためだと、そういう言葉もあるくらい、生きることはそれだけでこんなにも辛い。

神保町の商店街のアーケードを明大通り方面に歩いていると、見慣れない看板が目に入ってふと立ち止まる。

「スカイスイミング体験」

スカイダイビングの一種だろうか。こんな雑多なビルの玄関口に置かれたチープな看板に不似合いな大空の写真。晴れ渡る青はこん

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箱庭 10

箱庭 10

住まいは、6畳ほどの居間と台所、トイレといった最低限のものしかなかった。風呂はここにはないらしい。居間には真新しい畳の匂いがしていて、住んでいて心地のよい場所だ。
畳の上に布団を敷いて寝ているのだろう。少し高くなったところに、カバーこそ古臭い柄だがふかふかの布団が三つ折りに畳んである。介護ベッドではないが、本人に気づかれないように楽な暮らしをサポートしているらしい。
居間と台所の間にも当然段差なん

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箱庭 9

箱庭 9

「よくこんな風に空襲くるの?」
壕から出ると、おばあちゃんは家の中に招いて、井戸水を縁が欠けた湯飲みいっぱいに入れてくれた。おばあちゃんは頭につけていた防災頭巾を下ろして、わたしの向かいに腰掛ける。
「そうさ、あんたらのところも来るだろ?」
「え?あ、うん。そうだね。でもここみたいな感じじゃないから、その、驚いた」
「そうかい?山の方はこっちより少ないのかね」

ここではあんな風に空襲警報が鳴るの

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箱庭 8

箱庭 8

翌週はひとりで「きずな」に行った。
お母さんの車を借りて、お土産には味噌を買って、それっぽく見えるようにプラスチックケースから出して、100円均一で買った小さな壺に詰める工夫も忘れない。

エレベーターから降りるとこの前とほとんど同じような風景が並んでいた。ただ時間が早かったせいか、まだ人出は少ないようだ。
「まだ寝てるのかなぁ」
スマホを開いて時間を確認すると、時刻は10時に差し掛かろうとし

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箱庭 7

箱庭 7

「ただいまぁ……」
家に帰ると、時間は20時を過ぎていて、お父さんとお母さんがカレーを食べていた。
テレビでは、今人気の若手女優がトーク番組にゲスト出演している。今ハマっているのは、アメリカ発のスイーツらしいが、いかにもハイカロリーなそれは、本当に食べているのか嘘くさい。ならなんでそんなに細いのか。

「おかえり、夕飯食べる?」
「うん、食べる。何も食べてない」
わたしが席に着くと、お母さんは台所

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箱庭  6

箱庭 6

翌日、わたしは図書館に向かった。
駅前の大きな公園の中にある市立図書館は、夏休みということもあって、子どもたちで賑わっている。お母さんと絵本を読む幼稚園児、児童書を真剣な面持ちで読みふける小学生、受験勉強や夏休みの宿題をする中学生、入り口の談話室で屯して怒られる高校生。
そんな姿を横目に、昭和18年の様子がわかりそうな書籍を漁った。
ここ1、2年調子の悪いクーラーのせいで、一日中熱中症の危険に晒さ

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箱庭 5

箱庭 5

それから3時間ほど待っていたが、おじいちゃんは帰って来なかった。当たり前だ。おじいちゃんが死んでからもう15年も経っている。
一体誰か来るのだろうかと期待して待っていたが、その様子もないので今日のところは家に戻ることにした。

「じゃあそろそろ、わたしたちはお暇しますね」
お母さんがそう声をかけると、おばあちゃんは
「あらそうかい?お父さん遅くて……折角来てくれたのにごめんねぇ」
と言って、お土産

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箱庭 4

箱庭 4

「すいませ〜ん……」
店の中は薄暗く、洗濯糊の匂いがしている。並べられたマネキンには、懐中時計やループタイが似合いそうなレトロなスーツから、真っ黒な詰襟の学ランやセーラー服などの学生服、着物や喪服まである。
不思議と外の音はあまり聞こえなかった。

「はい、いらっしゃいませ〜」
居住スペースだろうか、奥の座敷の戸が開いて、前掛けで手を拭きながら女性が現れた。
「え、おばあちゃん?」
分かっていた

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箱庭 3

箱庭 3

地図にあった中央の廊下、いや大通りと呼ぶべきだろうか。長く真っ直ぐと伸びる道の両脇には、昭和初期のような木でできた建物が並んでいる。天井には空が映し出され、ゆっくりと雲が流れている。
まるで昭和をモチーフにしたテーマパークのようだ。
道端でたむろして話し込んでいるおばあさんたちは、着物の袖をたくしあげてたすき掛けにしている。何度も洗濯したらしい色の褪せた着物や手に持っている豆腐の入った鍋、腰から下

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箱庭 2

箱庭 2

おそらく小学生の頃だったと思う。教科書か、読書の時間か覚えていないけれど、授業で姥捨山の話を読んだ。先生が話してくれたのかもしれない。
息子と老いた母親が二人で細々と暮らしていたその村では、ある年齢に達した老人を子供がおぶって山に連れていき、そこに置いて帰る、という話だ。
幼心に、育ててくれた恩を忘れて母を捨てる息子の悲しみと、息子のために姥捨てを受け入れる母のやさしさに、切なくて悲しくて、自分の

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箱庭 1

箱庭 1

下の階からお母さんの叫び声が聞こえる。虫の声さえ静まった真っ暗闇の階下から聞こえるそれは、別に特段珍しいことじゃない。深夜3時くらいになると、ほとんど毎日聞こえてくる声だ。
わたしはそれを聞くと、決まって大きな溜息をついてから、また目を閉じる。もうそんな中でも眠れるようになってしまった。

お母さんの名誉のためにいうが、別にお母さんの頭がおかしくなってしまったわけではない。
原因は、一階の和室にい

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