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日記0446あるいは困惑蒟蒻
「人は一人では生きていけないよ」
その言葉を打ち破るべく、たった一人で生きている男がいた。久辺守泰、148歳。存命である。
「母親の父も吸わず、社会にも参加せず、文字通り、いや文字にも触れたことがないので文字通りにすらなれなかった御人だ。
いや、未だ痕跡しか発見されていないため、彼にな人という概念もないだろう。
ただ、人間の文化に触れたことはある。
あるはず、だ。
彼は蒟蒻を捧げられて
日記0445あるいは理性と利己心
タバコの箱。その内側に、たった一言「ごめんなさい。」とだけ書き残して、彼は消えた。
小さい男だった。小人、とまではいかないが、私よりも背が低く、ということは、人間という種において小さい方ということになるはずだ。
「君は身長の高い男のほうが好きでしょう。」
「身長よりも筋肉のある男が好き。腕が太いとなお良いね」
私はふざけてそう返したが、彼は悲しそうに笑った。彼の腕は細く短い。
「ずいぶんと
日記0444あるいはツルツル民家
「どうして、自殺なんかしてしまったのでしょうね」
朝から重たい話題だ。私は愛想笑いをしてからパンをかじる。笑わなければよかったと後悔した。
「ワタシがいけなかったのかしら」
疑問形ではあるけれど、ほとんど、確信のような響きがあった。口の中が渇く。
『自殺じゃない』
私の背後に立つ、男の霊が囁く。
『この女に殺されたんだ』
男はきちんと足があった。霊に足がないというのは、たぶん
日記0443あるいは湖に立つ白波のような
「心残りがあるとするならば……」
持って回った言い方をすることで、自分を守る準備を固める。
「死んだあと、みんなの反応を見られないことかな」
死をチラつかせ、同情や心配をされることを喜ぶ。
本当に気持ち悪い奴……。
「心より嫌悪を表します」
切った腹から、臓物が溢れる。最初は真ん中から、次に傷痕を押し拡げつつ端からドロドロと。
「白波の……」
辞世の句を詠む元気があるのなら、そんな
日記0442あるいは肉詐欺家風そして
「だいたいわかった」
私はぼんやり宙を見ながらひとり呟いた。悟った、とは違う、だいたいわかったという高慢な諦観にも似た感情。
「わかったわかった」
しっていることの範囲は狭い。でも、知り尽くせたと思えるのなら。
「わかったよ」
予想通りがつまらないなら、お前が混沌になるしかない。
「できるかな?」
強い風が吹く。盗っ人たちが列をなして狭い部屋に入っていき、色んなものを運び出す。
「
日記0441あるいはクタバレゴミドモ
「な~んでそんなに怒ってるのね?」
「わかんねぇか?」
男は暗い目つきで、爪を齧っている。
「僕には怒りがよくわからないんだ。教えてくれないかな」
「クタバレ、って意味だよ」
「親が不治の病でつらそうにしてて、早く死なせてあげたいって感情も、怒り?」
「なに、トンチンカンなこと抜かしてんだ」
爪がミシリと音を立てて縦に割れる。
「自分の支配下に置けない、目障りで、気持ち悪い、すべてが腹立た
日記0440あるいは清呪具
「ブレード・ランナーみたいだ」
たくさんのチューブに繋がれ、冷たいミミズを血管に流し込まれながら、私は嘘くさい日本の装飾を見上げている。
「この街はきらい?」
「嫌いだね、大を二つ三つ付けたっていい。大嫌いだ」
「好きな場所はあるの?」
「新所沢とあざみ野、それから、木曽」
「一つもわからないわ」
「この街はうるさすぎる」
「こっちにきて」
静寂。たまにピアノの音。
「静かだからってエッ
日記0439あるいは欲田辺
「何もしてないって思っちゃう」
たくさん寝た日、たくさん食べた日、それだけで何かした気になれる私とは違い、大抵の人は「何もしなかった」と思うらしい。
「ふーむ」
私は夢日記をつけている。寝れば寝るほど、記録は増えていく。
日記0438あるいは欲寝多
めちゃめちゃ寝たなぁ、と思って目を覚ますと世界は滅んでいた。いや、私の目に映る範囲だけが壊滅的に、それこそ、瓦礫の山になっていたので、まあ、本当は滅んでないのかもしれないけれど。
「君が生き残ってる、その時点で滅んじゃいないさ」
男勝りな女が瓦礫の下から腕だけをのばし、揺らし、私に話しかける。
「挟まってるの?」
「潰されている、が正しい。助からないだろうね」
「世界は滅んだのか?」
「さあ
日記0437あるいはキービョ
「病院へ行こうね」
熱っぽい身体、手を引かれる。たぶん、親だろうと思う。いや、でも親は手を引いてくれていなかったのだっけ?
「病院……、行かなくていいかな」
「……どうして? つらいでしょ?」
僕は少し考える。
「病院へ行くと、自分が病人だって思い知らされるから……」
「病人だもん、仕方ないって」
病人、そうか。病か。
治さないといけないのはわかっている。
脳を巣食っている何かを取り除
日記0434あるいは伏線怪獣
「アレは、山なんかじゃない……。か、怪獣だったんだ!」
きづいてほしい作者の心と、書き記すまでは隠し通したい作者の心、果たしてどちらが大きいのか。
「どこまで構想しているのか、はたまた、後付け設定や行き当たりばったりなのか……」
最終章か序章か、それすら読者にはわからないだろう。
日記0433あるいは憎肉欲
「肉が食べたい」
肉欲は性的な意味で用いられているため、この場合、焼肉欲が高まったと言うべきなのだろうか?
「いや……。別段、焼肉でなくてもいいな。ハンバーグ、角煮、唐揚げ、チキンでも……」
それこそ生肉でもよかった。となると、やはり肉欲だろうか?
私は焼かずに様々な肉を口に放り込んだ。ぬるぬるとした舌触りと血の匂い。
当たり前に腹を下した。
おうちにかえりたい。
日記0432あるいは快尿
「快便があるなら快尿って言葉もあるんですかね?」
「さあなぁ」
我が社の健康診断は変わっていて、効率のため、三人ずつ検尿をする。
「木村さん、めっちゃでますね」
「オレンジジュース……、がぶ飲みよ、がぶ飲み」
「え、ビタミンとっちゃだめですよ、検査前」
「マジか?」
検尿コップから黄色い尿がボタボタと溢れる。
「ちょっと、木村さん、溢れてますって」
よく見ると、検尿コップだけではない。あ