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日記0435あるいは匕問゛

無常、とはよく言ったものだ。川の流れを見て思ったのならば、なかなかの慧眼だと思う。

先輩は遅刻して現れた。ごめんごめんと、ごめんを二度繰り返して。

「川眺めてたんで、大丈夫です。面白いですね、川って……、無常というか、切ないというか。……無常の反対は通常ですかね?」

先輩に、少しおどけて尋ねてみる。

「ゆうじょう、じゃないか?」
「友情ですか?」

たしかに、友情は不滅の香りがする、なんとなくだけれど。

「ちがうちがう、有常。有限会社のゆーに、常日頃の常で」 
「あー、あ、調べてみたら常住が対義語らしいですよ」
「あ、そう」

ひどい後輩だと、我ながら思う。

「しかしお前が6年も勤めるとはなぁ」
「我慢強いですよね、我ながら」 
「いや、フツーだよ」

先輩は酒のせいか、照れくさいのか、顔が赤い。

「ふざけんじゃねえよ っていうか お前のせいでどれだけ俺が迷惑 被ったと思ってるんだこの野郎と言うか なんつうのかな お前の態度っていうのか いちいち むかつくんだよなあ なんて言うか気に障るようなことだけを選び抜いて話してるようなさ 昔からそうなのか お前の育ち方が原因なのか むかつくような本当にな 酒の席だからって言っていいこと悪いことがあるって言うのは分かってるけどな なんつうのかな もう我慢できねっていうかさ マジでふざけんなよ って思ってんだよな 俺はよ 本当によ なんつーかお前ってやつは ため息しか出ないな」

ああ、怒っていたのか。

「すみません」
「響かないんだよな 俺の言葉がよ 一度もよ なんつーか やる気がないのかな 何なんだろうな お前はさあんまり 真剣じゃないんだろう 物事に向き合ってないんだろうな なめてるだろ 俺をよ ずっと舐め腐ってんだろ くそっ お前は二番だよ アイツが辞めなきゃこんな思いしなくて済んだのによ なんでお前が居座ってんだよ お前の喜びを考えて仕事振ってんだぞ 俺は 何もできないお前によ どれだけ俺がお前のために尽くしてやったか 考えたこともねえんだろ 何度 調子に頭下げたか 何度 クライアントに俺が代わりに頭を下げてやったかわかんねえんだろ何とか言ってみろよ」
「頼んでないですよ」
「は?」
「頼んでないです」

店員が運んできた黄色いジュースを、僕は拒絶した。

「すみません、続きをどうぞ」



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