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日記0432あるいは快尿

「快便があるなら快尿って言葉もあるんですかね?」
「さあなぁ」

我が社の健康診断は変わっていて、効率のため、三人ずつ検尿をする。

「木村さん、めっちゃでますね」
「オレンジジュース……、がぶ飲みよ、がぶ飲み」
「え、ビタミンとっちゃだめですよ、検査前」
「マジか?」

検尿コップから黄色い尿がボタボタと溢れる。

「ちょっと、木村さん、溢れてますって」

よく見ると、検尿コップだけではない。あらゆる便器が逆流し、水かさが増え、溢れている。

「なんだよ、これ、なんなんですか」
「止まんないよなぁ、止まんねぇよ、なあ、どうしてくれるんだよ、こんなによ、おい、どうしてくれるんだよ、どうしてこうなったんだ、お前のせいか、おれのせいか、運命なのか?被害者か、加害者か、どうだ、なぁ、おい、どうなんだよ、おい、ちがうな、おれは病気か、病気なのか?ちがうよな、まともだよな、おれ、何も変じゃないよな、大丈夫、大丈夫、何も心配いらないよな、なんも、なんもいらないよ、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、本当にマジで。元気、ほんと。やってける、マジ、大マジ、ね、うん。何も、健康健康。よっしゃーーー!おーい、なぁ、こっち来いよ、なぁ、頼むよ、ねぇ、おーい、おーい、おーーーーーいどうなんだろうな もうちょっとわかんなくなってきたな 結構難しいと思うんだよね なんか色々考えてるけど考えてる ふりはしていてなんかもう 結果は出ていると思うんだ そもそも 検査なんて必要ないレベルで俺の病気みたいなところというのかな 違うな生活習慣というところかな そもそも生活が正しく清く 正しく送れていない時点で 私の体がもう限界だということはね まあある程度は予想がついているものだと思うんだよ 結構体というのは精神と結びついているから もしかしたら精神というものの方が先に傷ついていたのかもしれないし あるいは精神にのっとって体がだんだん 腐っていくような そういう状況なのかもしれないけれど ともかく 私はまあ不老不死を目指しているけれどもね これから先どうなるかわからないし それこそ 事故 なんていうものは余計もできないからね そういうことを考えてしまっているわけだよ 会社は優しいね 本当にこうやって毎年毎年検査をしてくれるわけだから 健康診断 素晴らしき余計なお世話 社員の心を気遣って何だっけかな 毎年一度のメンタルヘルスケア だった結果 そういうものもやっているらしいんだよ でもそういうものってあんまり意味がない気もするんだよね だってそうだよね俺が全部に対してハイに答えたからイイエで答えたから たったそれだけ わかるはずもないじゃないか 自宅で答えられることなんて たかが知れているよね  2択で答えられることなんてさ 難しい な 何だか自分でもよくわかんなくなってきているところはあるのだろうね こういう風に頭をぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる回転させているようで その実 何も考えていないのかもしれない そうすると何も考えていないということはどういうことなのかと思っているんだけれども さてはて何も考えてない 考えている そうだね 考えている状態っていうのがもし 物質とかそういうものによって引き起こされているというのなら こういう風な状態 それこそ不安定な状態というの脳の物質が自分に対して影響を与えているということになるだろうね でもそれが全て 物質なのだとしたら 予測可能なことでもあるはずだ 運命論じゃないけれどもね そうすると人間の自由意志 というのはある種の化学反応なのか それとも 何だろう それこそ スピリチュアルではないけど 精神的なものなのかという話になるけれども 少なくとももしこれが全て 物理法則 だったりとかして 全て予測されていたりとかどういう行動を取ろうと まあ どういう行動を取るかが全て決まっている予知できるものなんだとしてもそれを私自身は認識できない まるで自分で選んだかのような道 自分で選んでいる そういう風な感覚がある時点でもう何というのかな その全てが決まっていること 運命とかそういう考えはしなくていいと思うんだ 俺が選んだ道 自分が選んだ道 私が選んだ道 あなたが選んだ道 そういう風な考え方で間違っていないんじゃないかな タッチすると選んだ道が本当に正しいかどうか ここで 正しかったんだ 間違っていなかったんだ 安心できる そういったところが求められるのかなという風に思うんだけれども 果たして 安心だとか ここでいいんだっていうことが自分の求めていることなのか っていうところは結構 問題だよね そもそも 俺という人間が本当に求めていることは何なのか って言ったら難しいけれども みんなはよくなんだろうね 結構メンタルが強いとか安定してるとか言ってくれてはいるものの結構自分というものの 脆さ みたいなところには 最近 気づき始めているからね 誰かが言っていたけれども そう 一人遊びの得意な寂しがりや というところもあるだろうね そう思うと結構 私自身は寂しがり屋なのかもしれない 私にとっての寂しさというのは 人といる時というよりかはむしろ逆だ人と一緒にいる時にこそ 発生するものなんだよね 難しいね こういう風にずっとベラベラ喋ってる言葉が文字にどんどんどんどんなっていくそうこれって 音声認識でやっているんだよ ずっとスマホにこんな言葉は話しかけている 何に聞こえてる おいおい 結構 性格に文字が打ててるような気もするけれども どうなんだろうね 間違ってるところもあるだろうし これを読み返そうだなんて思わないかもしれないし でもこういう風にペラペラペラペラペラペラしゃべっている そういう私の姿を想像されると思うと 少し恥ずかしい気もしてくるね まあそういうところもあっていいんじゃないかな 新たな一面を見せるって言うところも 大事なことだと思うけれどもね さてはて こっから先は どうしようかな 私の考えとか自分の……」

木村さんは壊れてしまった。尿は今も勢いよく、止まることはない。

「ひどい……」

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