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目目、耳耳

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2021年9月の記事一覧

身に覚えのない風景(無題/カーソン・マッカラーズ)

身に覚えのない風景(無題/カーソン・マッカラーズ)

「人は何もかも計画することなんてできないんだよ」

――本文より引用

このセリフだけは、よく覚えていた。

覚えていたというか、ぼくのどこかで痕になって、膿んでじゅくじゅくした音を立てるのを聞いていた。そのくせ、空であらすじを辿ろうとすると、上手くいかない。

『無題』(カーソン・マッカラーズの20代のころの習作。未完成のまま、後年未発表作品集としてまとめられた。)は、アンドルーという青年の追憶

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世界を臨む唯一の方法――菅原敏『季節を脱いで ふたりは潜る』に寄せて

世界を臨む唯一の方法――菅原敏『季節を脱いで ふたりは潜る』に寄せて

日々を、肌で感じる。汗ばむ腕の夏。粟立つ背の冬。時々、風に突き刺され。壊れ物を扱うように、あなたが触れ。

目を閉じても開いても、季節は巡る。時間は確実に進んでいるとか、よくわからないけど。季節は、肌が教えてくれる。あなたに目隠しされながら。想うことはたくさん。

しんとした部屋が、自分の中にある。(誰の中にもある?)空っぽのことがほとんど。枯葉が降り積もることもある。雪で埋もれることもある。誰か

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「秘すれば花」について(当麻/小林秀雄)

「秘すれば花」について(当麻/小林秀雄)

美しい「花」がある、「花」の美しさという様なものはない。

――本文より引用

美しい花がある。美しい人がいる。けれど、それを語ることはできない。ある人は、その造形を語る。ある人は、その身に宿す魂を語る。けれど、そういうことではないのだ。どれを語られたところで、違和感を覚える。誤ってはいないし、おそらく共感もする。でも、何から何まで同意できない、といえばいいのか。

ぼくにも、美しいと思う人がいる

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「海」へ「想」う。(私の船長さん/M.B.ゴフスタイン)

彼はきっと自分の運のよさに
びっくりすることだろう!

――本文より引用

幼いころ、本棚にある本やぬいぐるみに、タオルをかけてから眠っていた時期がある。彼らが、寒がるんじゃないかと思って。

それは、子どもによくあるアニミズム(だったっけ)かもしれないけど。ずっと目を開けて、ずっと座りっぱなしの彼らが、ぼくが眠っている間は、同じように眠っているんじゃないかと。今でも、そんな気になるときがある。

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蜜と腕(片腕/川端康成)

蜜と腕(片腕/川端康成)

大切なものを他人に預ける行為は、何を指すのだろう。あなたを信用している証なのか。それとも、あなたになら壊されてもいい、その願いなのか。

「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを右手に持って私の膝に置いた。

――p119より引用

娘は、自身の右腕を男に預ける。右腕は着脱式で、肩から外しても、腕にはちゃんと血が通っている。だから、自身の一部をそっくりその

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