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送信取り消しという緑魔術

送信取り消しさせない男とさせる男

現代のソーシャルメディアの発展が故に起きている弊害がある。それは、送信取り消しという「緑魔術」だ。特に恋愛観関係にある相手とのLINEのやり取りを意味する。何か気持ちの齟齬があったり、急に不安に駆られることがあると、送信取り消しをしたいという気持ちが抑えられなくなるのだ。このエキセントリックな機能に、こんなにも頭を悩まされる日がくるなんて思ってもみなかった。これが、正に送信取り消しの緑魔術である。

特にマッチングアプリで出逢った相手との関係性のプロセスで悩むことが多い。1回目ならまだしも、数回デートを重ねた上で急に返事が遅くなると、その真意が分からなくなるからだ。誰か他に良い人ができたのか、自分の送ったことが良くなかったのか、無性に悩んでしまう。長時間未読になっているメッセージは読まれる必要性がないものと判断し、「それなら消してしまえ!!」と消すに至ってしまうのだ。その方が必要以上に不安に駆られることがなく、なぜか気持ちもすっきりする。そんな時、自分が悪いのか相手が悪いのか分からなくなってしまうことがある。また、こんな機能ができてしまった現代のIT技術を恨みたくなる瞬間でもあるのだ。これが、送信取り消しの緑魔術にとり憑かれている証であるのか。

そして、見た目や中身は関係なく、送信取り消しをさせる男とさせない男のスペックは明確なのである。要するに、女性に過剰なまでの不安要素を与えないということだ。送信取り消しは「不安に思ってますよ」という意思表示の心の内のプラカードでもあるのだから。わざわざ街中のデモのように大っぴらにプラカードを掲げ、自分の心の内を抗議するのも忍びない。自分の不安要素をオブラートに包み、意中の相手を少しでも攻撃しないように心の内を伝えるには、送信取り消しという手段を取りざるを得ないのだ。相手を気遣うための送信取り消しでもある。この意図さえ分かってくれれば、更なる弊害も起きないのにな、と思う今日この頃だ。

なぜなら、送信取り消しのやり過ぎで生じる弊害もあるからだ。やり過ぎると意思疎通が難しくなり、必要以上に相手に気を遣わせることになる。相手が読んでいたとしても、読んでいないフリをして「どうしたの?」と聞かなければいけなくなることもあるのだ。男が女の名前を間違えた直後に送信取り消しをし、こっちが気付いているのに何事もなかった場面を取り繕わなければいけない、あれと同じだ。そして、送信取り消しの頻度が増えると距離を置かれるようになったり、別れを選択しざるを得なくなることもある。そこまで来てしまうと本末転倒としか言えない。それ故、送信取り消しの緑魔術の乱用は禁物である。

今日もスマートフォンを握りしめ、送信取り消しをするか否か、頭を悩ませている。手が動きかけた時に、デートを重ねている相手から「今日は仕事が長引いちゃった〜」とLINEがきた。私はホッと胸を撫で下ろした。たまにある、フェイドアウトのパターンではなかったと。そんな緑魔術に囚われし私に、その魔法が解ける日は来るのであろうか。いつか、送信取り消しをさせない、白馬に乗った白魔術を掛けてくれる素敵な王子様が現れることを願って止まない。緑はもう懲り懲りなのだ。

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