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エッセイ

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私は君を弔う言葉を知らない

私は君を弔う言葉を知らない

二十歳にもならない人間が死んだことについてずっと考えている。

年下のお通夜に行く機会なんて、あるとしても到底先のことだと思っていた。
6月半ば、知人が死んだ。
たった19歳だった。

今年の4月に初めてお会いした彼の印象は、場を明るくすることに長けている“底抜けに明るい”少年だった。
モデル(被写体)と劇団をやっていて、ファッションやメイクに造詣の深い少年。
私の認識はそれ以下でも以上でもなかっ

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《平成享年六月四十九日》(2019)

《平成享年六月四十九日》(2019)



かれらを見送って四十九日が経った
私は棺桶に入り損なったので髪の毛をあっちに置いてきた

孤独にかしづいて雨上がりの青を洗うとき私は必ず一人になる
スクランブル交差点を歩く歩幅もきっともう忘れてしまったからせめて一人分の傘を広げていた
けれどこうやって手を放したから
ことばを集めながら濡れそぼって愛を畳んでいる

幼稚園の先生が書く私の名前がこの世でいっとうきれいな文字だった
あの頃からずっと

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そのダサいネイルでしぬのか

そのダサいネイルでしぬのか

負けん気が強いと言われる。
10年来の親友は私を「肉を切らせて骨を断つ女」と例えた。
膝を叩いてなるほどと言ったが厳密には「肉を切られるくらいなら自ら骨を断つ女」の方がより正確かもしれない。
どちらにせよ字面の上ではともに深手を負って死んでいるのは確かである。

私は前日にその翌日着る服を決めるということがどうしてもできない。なのでやらない。
その当日の気持ち(前の晩の気分で代替することはできな

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食べかけの昼飯を持ったまま飛ぶことはできない

食べかけの昼飯を持ったまま飛ぶことはできない

少しでも涼しければ、隙を見て出てくるらしかった。
猛暑の今年は油断していたが少し気温が低いと思えば飛んでいる。
友人が仕留める。
横の動きで叩くと逃げられやすいが縦の動きだと仕留めやすいのだと言う。
潰した手に黒くはりついて、血はついていなかった。
払うとへろへろと地面に落ちて、何事もなくなった。

「この間は1日に3件も起きて、ひどかったな」
鉄道会社勤めの友人が呟いた。
「あれって、どういう人

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平成最後の夏まで生きてしまった私から、受験生の夏の私へ

平成最後の夏まで生きてしまった私から、受験生の夏の私へ

拝啓 受験生の私へ

盛夏の候、貴殿におかれましてはますますご清栄というほどでもないというか私もあまり元気なわけではないですね暑いので。
受験生、17歳の夏。
いかがお過ごしでしょうか。

受験生になったばかりの夏はまだきちんと現実味がなくて、ぶっちゃけあまり受験を意識して勉強していなかった頃かと思います。
あなたは最終的には、冬まで全くマークしていなかった関西の某私大に進学を決めます。

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