Anna.
私が見ている此の夜の海は、孤独色した真っ黒な夜空を溶かしたみたいに、冷たくて壮大だ。
誰かの悲鳴と沈痛が目一杯に詰めこまれた
『黒 くろ Black』と書かれた絵の具のチューブを、
他の色が混ざらないように、優しく、ゆっくりと絞り出してゆく。それは空明に吸い込まれては、哀しく生滅する。
ねぇ、アンナ。
私たちは死んだら、このまま消滅して、記憶を失くしたまま新しい誰かになっていくのかしら。
それも悪くないわね。
ねぇ、アンナ。
私は、ときどき、宇宙から何もかも消え去ってしまった世界を想像して、すごくこわくなるの。
私はね、自分に前世があると信じてる。
私は、国を救った英雄だったかもしれない。
私は、大量の人間を、狂気と混乱に至らしめた、大犯罪者だったかもしれない。
私は、病気に苦しみ、その一生を病院の一室で過ごした、儚げな少女だったかもしれない。
そんなふうに、「魂」というあらゆるモノの、存在の核のようなものが、人間という「容れ物」を借用し、生き続けている。
私たち人間というのは、容れ物にすぎないのよ。
「私たち人間は、新しく物を創り出せるし、自然を操作することもできるぞ。」そうやって力を誇示することなんて無意味なのよ。だって、私たちは神さまから創られた操り人形にすぎないのだから。
でもね、アンナ。
宇宙から何もかもが消え去ってしまった世界。
そこでは、ワタシの持っている"魂"は容れ物を探し、行くあてのない真っ暗闇の中を彷徨うの。
泣き喚くの。それは、行くあてもなく走り続ける夜行列車みたいなものよ。光の見えない闇の中を、風雨を凌ぎながら真っ直ぐに進んでいる。
あぁ、アンナ。
私は夜行列車に乗り、いつか貴女に会いに行こうと思う。
それまでどうか、回り続けていてね。
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