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レポート:ソース・プリンシプル&マネーワークの提唱者のピーター・カーニック、ビジョンワークのバーバラを迎えて、吉原史郎さんと探究する学びの場

本記事は、有限会社人事・労務が主催した、ソース原理(Source Principle)提唱者ピーター・カーニック氏(Peter Koenig)とピーターのパートナーであるバーバラ・クンツ氏(Barbara Kunz)の招聘イベントについてレポートしたものです。

2022年10月に出版され、国内で初めてソース原理(Source Principle)について体系的に紹介する書籍となった『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力(英治出版)』は、日本の人事部「HRアワード2023」書籍部門にて入賞を果たし、その注目を高めつつあります。

HRアワード受賞後、『すべては1人から始まる(原題:Work with Source)』著者のトム・ニクソン氏(Tom Nixon)が登壇する受賞記念イベントも開催されましたが、今回の企画はソース原理(Source Principle)提唱者がHRアワード受賞後、初めて国内でオープンに語る場でもありました。

全三部で構成された当日は、全体のモデレーターを有限会社人事・労務の金野美香さん、ピーターやバーバラへの問いかけやソース原理(Source Principle)の基礎編の紹介をNatural Organizations Lab株式会社の吉原史郎さん、当日の通訳をCLUB SDGs主宰の福島由美さんに務めていただきながら進められました。


本企画に関する前提共有

今回の企画の中では、『ティール組織(Reinventing Organizations)』『ソース原理(Source Principle)』をはじめとする用語や、それらに対する理解を前提に進められているため、以下、簡単に紹介します。

ティール組織(Reinventing Organizations)

『ティール組織』は原題を『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』と言い、2014年にフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって紹介された組織運営、経営に関する新たなコンセプトです。

書籍内においては、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。

フレデリック・ラルー氏は世界中のユニークな企業の取り組みに関する調査を行うことよって、それらの組織に共通する先進的な企業のあり方・特徴を発見しました。それが、以下の3つです。

全体性(Wholeness)
自主経営(Self-management
存在目的(Evolutionary Purpose)

この3つをラルー氏は、現在、世界に現れつつある新たな組織運営のあり方に至るブレイクスルーであり、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介しました。

国内におけるティール組織に関する調査・探求は、2016年に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』に遡ります。

ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスに日本人としていち早く参加していた嘉村賢州さん、吉原史郎さんの両名は、東京、京都で報告会を開催し、組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。

その後、2018年に出版されたフレデリック・ラルー『ティール組織』は10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞した他、今回の企画の登壇者のお一人である吉原史郎さんは、同年『実務でつかむ! ティール組織』を著されています。

2019年にはフレデリック・ラルー氏の来日イベントも開催され、『ティール組織』の国内への浸透はその後、ビジネス・経営における『パーパス』『パーパス経営』などのムーブメントの隆盛にも繋がりました。

フレデリック・ラルー氏は、書籍以外ではYouTubeの動画シリーズを公開しており、書籍で伝わりづらかった記述や現場での実践について紹介しています。

ソース原理(Source Principle)

ソース原理(Source Principle』とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威影響力創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。

2019年の来日時、『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏によって組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となって初めて知られることとなったソース原理(Source Principle)。

フレデリック・ラルー氏もまた、ピーター・カーニック氏との出会い、学びを通じて、2016年出版のイラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分で記載している他、『新しい組織におけるリーダーの役割』と題した動画内で、このソース原理(Source Principle)について言及したということもあり、国内で注目が集まりつつありました。

その注目度の高さは、本邦初のソース原理に関する書籍の出版前、昨年8月にトム・ニクソン氏の来日が実現する、といったことからも見てとれます。(オンラインでのウェビナーの他、北海道・美瑛町、東京、京都三重屋久島など全国各地でトムを招いての催しが開催されました)

2022年10月、ピーター・カーニック氏に学んだトム・ニクソン氏によるすべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力が出版されて以降も、ソース原理(Source Principle)に関連したさまざまな取り組みが国内で展開されています。

今年4月にはソース原理提唱者であるピーター・カーニック氏の来日企画が実現し、システム思考・学習する組織の第一人者である小田理一郎さんや、インテグラル理論・成人発達理論の研究者である鈴木規夫さんとの対談、企画の参加者との交流が活発に行われました。

日本での流れに先立ち、ソース原理(Source Principle)が世界で初めて書籍化されたのは、2019年にステファン・メルケルバッハ(Stefan Merckelbach)A little red book about source』のフランス語版が出版された時でした。

その後、この『A little red book about source』は2020年に英訳出版され、2021年3月に『すべては1人から始まる』の原著であるトム・ニクソン著Work with Sourceが出版され、本書が『すべては1人から始まる』として日本語訳され、英治出版から出版されました。

『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」の入賞も果たし、ビジネスの領域においての注目も高まっていることが見て取れます。

このような背景と経緯の中、ソース原理(Source Principle)の知見は少しずつ世の中に広まりつつあります。

ソース(Source)

トム・ニクソン『Work with Source(邦題:すべては1人から始まる)』を参照すると、ソース(Source)とは、あるアイデアを実現するために、最初の個人がリスクを取り、最初の無防備な一歩を踏み出したときに自然に生まれる役割を意味しています。

The role emerges naturally when the first individual takes the first vulnerable step to invest herself in the realisation of an idea.

Tom Nixon「Work with Source」p20

また、本書中の用語解説では、『脆弱なリスクを取って、ビジョンの実現に向けて自らを投資することで、率先して行動する個人のこと』と説明されています。

An individual who takes the initiative by taking a vulnerable risk to invest herself in the realisation of a vision.

Tom Nixon「Work with Source」p249

ステファン・メルケルバッハ氏の書籍においては、この役割を担うことになった人について、特に「ソース・パーソン(source person)」と呼んでいます。

A source is a person who has taken an initiative and through that has become the source of something: we can call this a "source person".

Stefan Merckelbach「A little red book about source」p17
Stefan Merckelbach「A little red book about source」
Tom Nixon「Work with Source」

トム、ステファンの両者に共通しているのは、ソース(Source)は特別な人だけがなれる役割ではなく、誰もがソース(Source)である、というものです。

アイデアを実現するために一歩踏み出すことは、社会を変えるような大きなプロジェクトの立ち上げに限りません。

自身の研究課題を決めること、就職を思い立つこと、ランチを作ること、休暇の予定を立てること、パートナーシップを築いていくこと等、日常生活の様々な場で誰しもが何かのソース(Source)として生きていることを両者は強調しています。

This applies not only to the major initiatives that are our life’s work. Every day we start or join initiatives to meet our needs, big and small.[…]Whether it’s making a sandwich or transitioning to a zero-carbon economy, we start or join initiatives to realise ideas.

Tom Nixon「Work with Source」p30

We take initiatives all the time: deciding on a particular course of study, going after a certain job, starting up a business, planning a special dinner. I can initiate a friendship or partnership, change my housing situation, make holiday plans, decide to have a child. Or I might step forward to join a project sourced by someone else.

Stefan Merckelbach「A little red book about source」p17

なお、ステファン・メルケルバッハ氏の書籍は来年春に邦訳出版予定であり、2024年1月にステファンの来日が決定しています。詳細については、以下の記事もご覧ください。

第一部:基礎編

第一部はピーターおよび吉原史郎さんからソース原理(Source Principle)についての前提や、体系化されてくる背景などについてお話を伺いました。

ピーター・カーニック氏の探究の旅路

ピーター・カーニック氏はイギリスのロンドンに生まれ、20代半ば以降はスイスのチューリッヒを活動の拠点とされています。

彼自身の言葉によれば、彼は『お金が大好き』。

それは、小さい頃からずっとそうであり、幼い頃から学生時代、そして学生時代以降にも多くのお金を稼ぎ、若くして経済的な成功を収めたビジネスマンだったそうです。

現在は、お金と人との関わり、お金をきっかけとした内面の変容、歴史的・文化的・社会的・精神的に深くシステムとして根付いたお金そのものに関する探求を続け、人々にその知見を提供されています。

不動産業界で成功したビジネスマンとしてキャリアを進んでいたピーターは、クライアントたちとの交渉の中で相手側が不合理な判断・意思決定を行う場面を目にしてきたといいます。

このことをさらに突き詰めていくと、『お金と人の関係』がビジネスにおける成功、人生の充実に大きく影響していることに気づき、ピーターによる『お金と人の関係』の調査が始まりました。

40年前の時点では、そのようなことを教えている大学やビジネススクールもなければ、ビジネスの領域においても『お金と人の関係』に関心を持っている人もおらず、いかに利益を拡大するか?いかにコストカットをするか?に重点が置かれていたと、ピーターは語っています。

『お金と人の関係』の調査と並行し、創業者や起業家たちのビジョンや取り組みについて、何十回も小規模なワークショップを重ねる中で、お金に対する価値観・投影ついて診断・介入できるシステムであるマネーワーク('moneywork')が体系化され、その過程でソースワーク(Source Work)が生まれてきたとのことです。

そして、マネーワーク('moneywork')は自身の内面を扱うインナーワークに比重が置かれており、ソースワーク(Source Work)はアイデアを実現するためのアウターワークに比重が置かれていると言います。

なお、ソース(Source)に関する知見と実践については先述のようにトム、ステファンの2人によって2冊の書籍として出版されており、お金と人との調査に関する研究成果はピーター自身が『30 Lies About Money: liberating your life, liberating your money』という書籍にまとめ、現在は邦訳が進んでいます。

ここまでの一連の流れとイニシアティブを貫いている、ピーターの人生の目的が「ビジネスの中に愛を生み出すこと(create love in business)」です。

IT’S ALL ABOUT LOVE
Peter Koenig says his personal purpose in life is to create love in business,

Tom Nixon「Work with Source」p26

当日のイベント中にもピーターは、『なぜ働くのか?それは良い暮らし、良い人生を送るためだ』とし、『生きることと仕事をすることに分断はなく、仕事の時間と家族の時間という分断もなく、それらは1つ。それらの根底には愛がある』『愛してやまないことをやりましょう(Do what you love!)』といった表現でお話しされていました。

ソースの生み出すフィールド(field)

自らが愛してやまないことに取り組むソース(Source)に関連して、ピーターは良きソース(Source)が生み出すフィールド(field)についてもお話しされていました。

良きソース(Source)とは、自分自身が愛してやまないことに取り組んでいるのと同時に、そのソースの発するエネルギーに惹かれて集まり、協働するようになった人々もまた楽しめていたり、彼らが成長・発展していけるよう注意を払っている存在、愛してやまない活動に取り組むための環境をつくっている存在だというのです。

このような環境をピーターは単にフィールド、またはエネルギーフィールド(Energetic Field)とも表現していましたが、トム・ニクソン氏は書籍の中でクリエイティブ・フィールド(Creative Field)と表現して紹介しています。

クリエイティブ・フィールド(creative field)」とは、『ビジョンを実現するために必要な人やその他のリソースを引き寄せ 、努力を束ねることで一貫性を生み出す魅力的なフィールドのことを指し、ソース(Source)イニシアティブ(initiative)を取ることで確立されるものです』

Creative field
The field of attraction that draws in the people and other resources needed to realise a vision and creates coherence by binding an effort together. Established when a source takes the initiative.

Tom Nixon「Work with Source」p249

また、一般的なリーダーの仕事として認識される「部下のエンパワー」や「権限の移譲」なども引き合いに出しつつ、『リーダーの仕事とは、一人ひとりの創造性が発揮されていき、Callingを生きられる環境や土台を作ることではないか?』とピーターはお話しされていました。

一人ひとりの創造性が発揮されるような環境、土台を作ることでアイデアが生まれ、それがプロジェクトとなり、新しい製品やサービスづくりにつながっていく。

実際の畑に例えるなら、人参やきゅうりのような野菜や果物に「育て!」というのではなく、勝手に育っていけるような環境を整えることがリーダーの仕事ではないか?とお話しされていたのも印象的です。

一人ひとりの創造性が発揮され、ソースとして活動できるようになる中で、ある組織においては『そんなことがこの組織に何の役が立つのか?』ということも起こるかもしれません。

営業だというのに、社内のカフェコーナーでコーヒーばかり飲んでいるじゃないか』という人も、リラックスした雰囲気を社内にもたらしてくれていたり、その雰囲気が人当たりの良さとして営業先に評価されていることもあるかもしれません。

自分自身が愛してやまないことに取り組んで楽しみつつ、自分のフィールドにいる人が一体何を表現したがっているのか?に気を配り、それを表現できる場、環境を準備することがリーダー、ソースの仕事ではないか?

こんな話を、当日のピーターは温かな雰囲気を醸し出しつつお話しされていたように思います。

ソースとサブソースとの関係性

上記のソースのフィールドの話から、ソースとサブソースの関係性に話は移っていきました。

ソース原理(Source Principle)においては、ソースが活動を始めると、サブソース(sub source)またはスペシフィック・ソース(specific source)という役割を担う人が現れます。

サブソース(sub source)またはスペシフィック・ソース(specific source)とは、あるソースのビジョンや価値観に共鳴し、あるソースの活動の特定の部分において、ソースへの深いリスペクトをしつつ、創造的に取り組むようになったパートナーと言える存在です。

では、サブソースが本当に自分の取り組みたいことをやろうとした結果、ソースの表現したいものと食い違いが発生したり、サブソースがソースのもとを離れる、といったことが起こった時にはどのように対応するべきなのでしょうか?

この点に関してピーターは、『ソースの生み出すフィールドには境界があること』『ソースの役割の一つに、境界内で起こっていることを見ることがある』と話してくれました。

あくまでフィールドは、始まりのソースが生み出したものであり、フィールド内の活動がちゃんと「らしいこと」、そのフィールドに属するものであることを担保することは重要です。

しかし、ソースとサブソースの表現したい活動が一致しなくなった場合には、取りうる対処法は2つ。1つはサブソースがソースに訴えかけ、ソースの活動、フィールドに貢献するものだと説得すること。もう1つは、サブソースは別のソースとして独立し、去ることです。

一人ひとりの創造性が発揮され、ソースとして活動できるようになる中で、ある組織においては『そんなことがこの組織に何の役が立つのか?』ということも起こるかもしれません。

例えば、トヨタのある社員が「我が社はチューインガムを作るべきだ!」と熱弁を始めたとしたらどうでしょう?

一見、馬鹿馬鹿しいと感じるアイデアかもしれませんが、本当にトヨタが実現したい未来を突き詰めて探求した場合、チューインガムを事業として作り始める未来もあるかもしれません。

そして、もしチューインガムと既存の自動車産業を統合して事業展開を始めたとしたら、トヨタとしての創造性のフィールドは拡大されたことになります。

このようにフィールドとは固定化されたものではなく、伸び縮みするものでもあります。

また、仮に説得がうまくいかなかった場合、そのサブソースはフィールドを出て、自分なりに活動を始めるソースとして活動していくこととなります。

もし、その上司なりリーダーがソース原理(Source Principle)に理解のある人であれば、出ていく人を力づけ応援するでしょう

そんなふうにピーターが仰っていたことも印象的でした。

このニュアンスに関しては、ステファンもまた彼の書籍の中で以下のように説明しています。

一方、スペシフィックソースが、参加しているプロジェクトの進化によって、自分自身のビジョンや個人的な価値観を発展させることができないと確信した場合、その結果に直面し、プロジェクトを離れ、自分の願望にもっと合うものに参加(または創造!)する必要があります。いずれにせよ、現状を十分に認識することで、プロジェクトはもちろんのこと、離脱する本人にとっても、前に進むためのエネルギーと勢いを回復する機会になります。実際、誰かが正当な理由で現場を去り、そのことをお互いに理解していれば、プロジェクトの中で一緒に達成したすべてのことだけではなく、去る人のソースの進歩を祝うことさえできるのです。

On the other hand, if a specific source becomes convinced that the evolution of the project he's participating in won't permit him to develop his own vision and personal values, he should face the consequences and leave the project to join (or create!) one that is a better fit with his personal aspirations. In either case, fully recognizing the way it is will allow the project, as well as the person leaving it, the opportunity to recover the energy and momentum to move forward. In fact, when someone leaves the field for good reasons and there's mutual understanding of this, there can even be a celebration, not only of all the things they've achieved together within the project, but also of the advancement of the leaving person's source.

Stefan Merckelbach「A little red book about source」p92-93

第二部:実践編

第二部では、ピーターおよび今回の企画の主催である有限会社人事・労務の代表である矢萩大輔さんがそれぞれ、ソース原理(Source Principle)やマネーワーク(Money Work)を実践した事例について伺いました。

有限会社人事・労務の実践例

有限会社人事・労務は、1995年に社会保険労務士事務所として開業後、1999年に「ES組織づくり」をめざすコンサルティングオフィスとして東京都台東区で設立されました。

ES(Employee Satisfaction:従業員満足)を組織における『人間性尊重』の姿勢として捉え、個人の能力を最大限発揮できる「場」としての組織づくりをめざすと同時に、はたらく(傍を楽にする)の原点である農の実践を通じて地域、コミュニティとの繋がりを生み出し、はたらく豊かさの探求を続けられています。

筆者と有限会社人事・労務の皆さんとのご縁は、『JUNKANグローバル探究コミュニティ』という自然と営みと人・組織の関わりについて探求し、実践する有志のコミュニティがきっかけでした。

また、有限会社人事・労務は2023年10月、自社での実践知に基づいた提言として『コミュニティ経営のすすめ―あいだのある組織の作りかた』を上梓されています。

現在の有限会社人事・労務は、コンサルティングオフィスとしての取り組みだけではなく、台東区の地域に開かれたさまざまな取り組みの立ち上げに携わり、活動に参加しています。

台東区・秋葉神社との協働によって生まれた、農地“0”の浅草に“1”をつくろう!と始まった『よみがえれ!浅草田圃プロジェクト』や、農と食でローカルとつながり、地域がつながるコミュニティカフェ「田心カフェ」のオープン、埼玉県越谷でのコミュニティファーム「田心ファーム」での農業の実践など、企業における人事制度・給与制度づくりにとどまらない多様な活動が日々営まれています。

この取り組みの中で、一度人事・労務から別の場所へ移っていった方が別の関わり方として参加されたり、かつてインターンに来ていた人が起業されたりと、さながら生態系が営まれているようにさまざまな関わり方や活動が生まれている、というお話がとても印象的でした。

矢萩大輔さん(大ちゃん)自身が語られたところでは、かつては自身も組織とは組織図で表されるように固定化されたものだと考え、個々人の創造性を十分に見ることができずエンパワメントしようという姿勢で臨んでおられたとのことでした。

しかし、ソース原理(Source Principle)に出会って実践を始めて以降は、『それぞれ人生で愛してやまないことを、この会社でやっていると見たら……』という視点や、先述のようなフィールドの捉え方、マネーワークの実践からの「体育会系的な自分」と「規則や規律、上下関係に縛られない自分」の両極の扱いなど、さまざまな面で物事の捉え方に影響が現れたとのことです。

ピーターのマネーワークの実践例

ソース原理(Source Pirinciple)を語る・実践する上で、ピーターの『お金と人の関係』の調査・研究から生まれたマネーワークは欠かすことができないものです。

なぜなら、世界中で活動するさまざまなソース(創業者や起業家、活動家など)が自身のビジョンを実現しようとなったときに、お金は切っても切り離せないものだからです。

そして、『人それぞれにお金に対して特有の捉え方があること(お金とは〇〇だ)』、『人は時に、「お金がないと〇〇ができない」と自分が本来持っているパワーをお金に投影(projection)してしまうこと』があると、ピーターは長年のお金の研究から発見しました。

この点について、トム・ニクソン氏は以下のように書いています。

あなたがお金についてどんなストーリーを持っているかによって、 あなたにとってお金がどんなものになるかが決まります。そしてそれは、あなたがその物語に執着している限り、あなたにとって真実となります。

Whatever stories you have about money are what money becomes for you. And that will be true for you for as long as you are attached to those stories.

Tom Nixon「Work with Source」p221

本当の意味でお金に動かされている人はいません。人は、お金に投影(project)する力と、お金が語ると信じているストーリーによって動機づけられます。

Nobody is truly motivated by money.
People are motivated by the powers they project on to money and the story they believe the money is telling.

Tom Nixon「Work with Source」p168

ピーターが開発したマネーワーク(Money Work)は取り戻しワーク(Reclaming Work)とも言い、特定の言葉、言語、特定のフレーズを使うことで介入を行い、お金との関係を視野を広げて捉えることを促し、それをお祝いできるプロセスを提供する方法です。

以上のような説明をいただいた後、ピーター自身が取り戻しワークを実践した事例についても伺いました。

2012年くらいのある日、ピーターが主宰するコミュニティのミーティングがハンガリーであった際のことです。

2日半かけて、このコミュニティをさらに育てていくためのミーティングを行う予定だったのですが、ハンガリーのオーガナイザーはこの会合に18歳くらいの息子を伴ってきており、会合が一段落した頃には息子さんはすっかり退屈していて、ブダペストで開催されるというイベントに行くと言い始めたのです。

すると、オーガナイザーの家族もコミュニティのチームも皆が「イベントに行く」と言い始め、ミーティングどころではなくなってしまいました。これでは、ハンガリーのオーガナイザーを二度と信頼することなどできそうにありません。

ピーターはショックを受け、感情的になっていたものの、この「信頼」について取り戻しワークを行うことにしたそうです。

そう考えた時にまず初めに気づいたのは、自分は「信頼」を人に与えてその人頼りにしており、「自分自身を信頼できていないことを人に投影していた」ということだったそうです。

そして、ピーターは取り戻しワーク(マネーワーク)で活用する特定のフレーズを試みます。

『私は自分のことを信頼していません。』
『私は自分のことを信頼していません。それでOKだ!』
・・・・・・
・・・

フレーズを唱えていく中で、ピーターは『自分を信頼しない方が良いこともある』『自分のことを信頼していない、疑いのある状態を大切にすることは、人生のいろいろなところで役に立つ』ということが見え、体が楽になってきたと言います。(そして笑いも出てきたとか)

続いて、その対極を扱うフレーズもピーターは試みます。

『どれだけ人が私をガッカリさせようが、私は私を信頼している』

詳細なプロセスの説明ではなかったため省略されている部分はあったものの、ピーターはこのような実践から「信頼」について取り扱い、これ以降「信頼」に関する悩みや困りごとが人生から消えた、と仰っていました。

マネーワーク(取り戻しワーク)のフレーズについては、トム・ニクソン『すべては1人から始まる』のPart3でも紹介されているため、そちらもご覧ください。

第三部:関連テーマ編

第三部では、マネーワーク(Money Work)、ソースワーク(Source Work)に続くビジョンワーク(Vision Work)についてバーバラ・クンツ氏(Barbara Kunz)から、また、プロセスワークの実践知をもとに新たな経済・社会・自然資本の循環を試みるSOIL Coinについて自然と人のシステム探究舎・横山十祉子さんからお話を伺いました。

ビジョンワーク(Vision Work)とは?

ソース原理(Source Principle)を自分の人生で実践していくにあたり、マネーワーク('moneywork')は自身の内面を扱うインナーワークに比重が置かれており、ソースワーク(Source Work)はアイデアを実現するためのアウターワークに比重が置かれていると言います。

自分とお金との関係について見直し、投影していた対象からパワーを取り戻すことで初めて自分自身がソースとして生きる準備が整います。

では、そのソースのビジョンをさらにクリアに、さらに広げていくにはどのようなアプローチができるのでしょうか?

バーバラ曰く、ビジョンをCallingとして受け取り、あるいは内側から湧き出してくるものを感じ取って表現するのは私たち一人ひとりの身体です。そして、私たちの身体の責任者は私たち自身です。この身体に備わるチャクラを活性化させる、あるいは開くためのアプローチを呼吸法の実践、瞑想への促し等を通じてビジョンを見ていく、とのことです。

バーバラの元へビジョンワークを受けにきた、ある女性経営者のお話をピーターも紹介してくれました。

そもそも、マネーワークやソースワークの実践に取り組もうという人は、ビジネスのトップリーダーやコーチ、コンサルタントといった志や意識の高い人たちばかりです。中には、あるビジョンを10年〜20年掲げて活動してきたような方もいます。

そんな中でも、その女性は60人のスタッフを抱えるリーダーとして既に実績を上げてきており、バーバラのもとにもビジョンワークを新たに自分が提供できるアイデアとして学びにきた、というスタンスだったとのことです。

果たして、その女性がビジョンワークを受講した後どうなったのでしょうか?

なんと、新たなビジョンが生まれ、その60名のスタッフを抱えた会社を売却し、世界中を飛び回りながらより一層精力的に活動されるようになったというのです。

その女性はビジョンワークを通じて、「この世界のなかで自分は何者としていきるのか?」という問いに向き合い、古いビジョンは役割を終え、新たな人生が始まったのでした。

『私からこの場ですべてお話しするのも今回は難しいので、もし、ご関心のある方はぜひ参加してください』とバーバラは仰っていました。

SOIL Coin(ソイルコイン)とは?

横山十祉子さんは、プロセス指向心理学(Process-Oriented Psychology)およびその知見を対人支援・対集団支援へ活かしたプロセスワーク(Process Work)を、創始者であるアーノルド・ミンデル氏(Arnold Mindell)から学んだバックグラウンドを持ち、それらを国内の企業や社会へと応用しようと活動されてきた実践家です。

プロセスワーク(Process Work)をよりビジネスや組織の領域で活用するためにシステムアウェアネス(System Awareness)という哲学・方法論へと展開させる一方、横山さん(とこさん)は土壌に関する探求をされてきました。

プロセスワークの考え方やその背景にあるユング心理学の捉え方をベースに持ちつつ、『日本人の精神性と土との関係性』や『地表と地中、顕在意識と潜在意識の関連性』、『人の作った社会システムと自然環境のシステムの相違や、それぞれの良さをいかに扱うか?』といったテーマの探求を続けられる中で、筆者とは『JUNKANグローバル探究コミュニティ』をきっかけにご一緒する機会が多くなりました。

そして、JUNKANグローバル探究コミュニティにおいてソース原理(Source Principle)やお金をはじめとする社会システムについての探求もご一緒する中で、ご自身の知見とどのように調和しうるか?などについても以下の動画でお話しされています。

SOIL Coin(ソイルコイン)は、そのような経緯から生まれた、新たな経済・社会・自然資本の循環を試みる通貨であり、取り組みです。

その根底には、『命の源への深い信頼と感謝を循環させていこう』という想いや、『生命の源である土壌。その土壌本位制のお金というものを考えたらどうなるか?』といった問いが込められています。

ピーターはこのアイデアに対して、『普通のお金の感覚で聞いていると、その枠組みすら理解できない。それにあった思考の方法へ変えなくてはならない』と感想をお話しされていました。

また、『自然とのつながりを起点にしつつ、誰もがSOIL Coinを発行し循環させていけることは、私たちが経済システム・金融システムに与えてしまっていたパワーや責任を一人ひとりのもとに取り戻すことにつながるのではないか』といったこともお話しされていて、このことがとても印象的に残っています。

終わりに

この記録をまとめてきた私自身のソース原理(Source Principle)の探求・実践は、たびたびこのまとめの中にも出てきていた『JUNKANグローバル探究コミュニティ』の皆さんとの対話や交流に負うところが多く、こうしてまとめられることに感謝を感じています。

京都を拠点に活動していた、特定非営利活動法人場とつながりラボhome's viでのファシリテーションおよびティール組織(Reinventing Organizations)の探究と実践……

その後の人生のトランジションによって実家の米農家を継ぐこととなり、人と自然の関係性や、自然環境のシステムと人の作る組織や社会のシステムとの違い・それぞれの良さに直面したこと……

また、家族や家業を継ぐことと自分の人生を生きるという狭間で出会ったソース原理(Source Principle)とソースの継承という考え方……

今回の企画に携わっている吉原史郎さんをはじめ、多くの方々とのご縁により、私は昨年、トム・ニクソン氏と対面を果たし、父の想いや遺志を継ぎながら田んぼと向き合い、今を生きているといったことを共有することができました。

そして今、私は『人や組織のポテンシャルを最大限発揮できるようなアイデアをより多くの方へ共有し、次世代に継承していくこと』を活動の方針とし、このような形でレポートにまとめる、企業・団体の皆さんにファシリテーターとして関わるなどの取り組みに携わっています。

上記のような活動は、まさにこれまで私が受け取ってきたものに対しての感謝の表現であり、これらのアイデアがより多くの方に届いていってほしいという願いの現れ、と言えるかもしれません。

そういう意味で、私の人生はソース原理(Source Principle)に出会って大きく変わりました。

今回のレポートが、何か皆さんにとっての気づきや新たな探求のきっかけとなれば幸いです。

さらなる探求のための参考リンク

レポート:ソース原理基礎講座番外編『A little red book about Source』著者ステファン・メルケルバッハ講演会

2024/3/11 (月)社会人が捉えておくべき“お金”とは何か?〜“お金の教育”そのものについて考える〜

2024/3/12 (火)Wao!ソース・プリンシプルとマネーを切り口にピーター・カーニックさんと新井和宏さんを深掘りする会




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