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レポート:[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)出版記念セミナー〜ホラクラシーの本質と人間性

今回は、フレデリック・ラルー『ティール組織』にも紹介された組織運営法『ホラクラシー(Holacracy)』の新訳版出版記念企画のレポートです。

今回のウェビナーにはホラクラシー(Holacracy)開発者ブライアン・J・ロバートソンを迎えて行われ、モデレーターは本書の監訳者である吉原史郎さん、逐次通訳を桑原香苗さんが務めてくださりました。

2018年に出版されたフレデリック・ラルー『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』は、2018年に出版されると10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞しました。

また、2019年9月には、著者となるフレデリック・ラルー氏を日本にお招きしたTeal Journey Campusというプログラムも開催されました。

肩を組み合う主催チームとフレデリック・ラルー氏
左から下田理さん吉原史郎さん、ラルー氏、藤間朝子さん嘉村賢州さん

このように、国内の新しい働き方、組織運営のあり方について探求するムーブメントが高まる中、ホラクラシーに関する情報は手に入りにくい状況が続いていました。

2016年に出版されていた旧約版ホラクラシーは、2018年の時点で一般に流通しておらず、ホラクラシーに関心を持った人々はオンラインストア上で高額になった中古本を購入するなどの状況が続いていたのです。

旧約版書籍英語原著(ペーパーバック)

私自身、2019年にはオランダで開催されたホラクラシーのトレーニング・プログラムに参加し、ブライアンと直接コミュニケーションする等してその知見を学んできましたが、国内で学べる機会や探求を深める機会がないことにもったいなさを感じていました。

しかし、2023年6月、英治出版から新訳版として『HOLACRACY(ホラクラシー)人と組織の創造性がめぐりだすチームデザイン』が出版されたことで、これまで情報に手が届きにくかった方が触れられるようになりました。

また、ウェビナー冒頭に編集者である下田理さんは、新訳版出版に際して以下の3つの新しくなったポイントについて紹介してくださいました。

1、用語の全面的な見直し
国内で既にホラクラシーを実践している人々に馴染みやすい用語への見直しを、監訳者・吉原史郎さんの観点をもとに行われています。

2、図やステップの再デザイン
一見、複雑に見えるホラクラシー独自の運営ステップ等を、読みやすさを重視したデザインへ再デザインがなされています。

3、オリジナルコンテンツ
監訳者・吉原史郎さんによるポイント解説やコラムといったオリジナルコンテンツを挿入することにより、実際にホラクラシーを取り入れる際の注意点や、原著や旧約版では描写されていない経営者、組織の一人ひとりの内面を取り扱う重要性についても紹介されています。

2017年に初めてホラクラシー(Holacracy)を知った私にとって、大幅に情報が更新された新訳版書籍や、それをきっかけに開催された今回の企画は嬉しい限りです。

以下、そもそもホラクラシー(Holacracy)とはどのようなものか?ウェビナーでブライアンは何を語ったのか?についてまとめていきたいと思います。


ホラクラシー(Holacracy)とは?

ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。

フレデリック・ラルーティール組織(原題:Reinventing Organizations)』にて事例に取り上げられたことで、役職に伴う階層構造型の組織から、自律的な運営を行う組織へと移行するための方法・哲学として国内においても実践事例が増えつつあります。

ホラクラシーは、2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン)社のブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)と、トム・トミソン(Tom Thomison)により開発されました。

Holacracyの語源は、アーサー・ケストラー(Arthur Koestler)が提唱した Holon(ホロン:全体の一部であり、 且つそれ自体が全体性を内包する組織構造)という概念に由来します。

ホラクラシーを導入した組織では、組織の全員がホラクラシー憲章(Holacracy Constitution)にサインして批准することで、現実に行なわれている仕事を役割(Role)継続的に行なわれている活動(Accountability)として整理し、 仕事上の課題と人の課題を分けて考えることを可能にします。

ホラクラシーにおける組織構造は『Glass Frog』という独自開発された可視化ウェブツールを用いて、以下のようにホラーキー(Holarchy)なサークル図によって表されています。(可視化ツールは他にもHolaspiritというサービスも国内では多く活用されています)

2023年7月時点のHolacracyOne社のサークル図

ホラクラシーを実践する組織において仕事上、何らかの不具合が生じた場合は、それをテンション(tension)として扱います。テンション(tension)は、日々の仕事の中で各ロールが感じる「現状と望ましい状態とのギャップ、歪み」です。

このテンションを、ホラクラシーにおいてはガバナンス・ミーティング(Governance Meeting)、タクティカル・ミーティング(Tactical Meeting)という、主に2種類のミーティング・プロセスを通じて、および日々の不断の活動の中で随時、不具合を解消していきます。

さらに詳しくは、日本人初のホラクラシー認定コーチであり新訳版の解説者である吉原史郎さんの以下の記事及び、新訳版出版に際してホラクラシーのエッセンスについて語られた動画にもご覧ください。

私自身のホラクラシー実践について

私自身が、この新しい組織運営のあり方について関心を持ったのは、2016年の秋から冬にかけての頃でした。

2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』。

ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスは、フレデリックラルー著『Reinventing Organizations(邦訳名:ティール組織)』にインスピレーションを受け、新しいパラダイムの働き方、社会へ向かうために世界中の実践者が学びを共有し、組織の旅路をサポートしあい、ネットワーク構築を促進することができる場として催されました。

いち早く日本人として参加していた嘉村賢州、吉原史郎といった実践者たちは、この海外カンファレンスの報告会を開催することとなります。

2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD』の報告会は、2016年10月19日に京都、10月24日、25日に東京にて開催され、嘉村賢州、吉原史郎の両名は組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。

※日本におけるフレデリック・ラルー『ティール組織』出版は2018年1月24日。

これ以降、当時私が参加していた特定非営利活動法人場とつながりラボhome's viは『ティール組織』探求を始め、同年2016年11月以降、『Reinventing Organizations』の英語原著を読み解く会も始まりました。

2016年12月の「reinventing organizations」読み解き会

また、2017年6月以降はhome's vi自体をティール・パラダイム的な運営へシフトするため、『ティール組織』で事例に挙げられていた組織運営法であるホラクラシーの導入を行う運びとなりました。

英語原著新訳版書籍

当初は、NEXT-STAGE WORLD以降、嘉村らとコミュニケーションしてきたメンター、ジョージ・ポー氏(George Pór)にご協力いただき、またミーティング・プロセスの伴走はホラクラシーの実践を深めていた吉原史郎さんに参加してもらうことで進めていきました。

私自身は2017年7月以降、ホラクラシー(Holacracy)のファシリテーターとして実践を積み始めました。

これ以降、私にとっての新しいパラダイムの組織づくりの探求は、ホラクラシーを軸に進んでいきます。

2017年11月、2018年8月には、ホラクラシーワン創設者トム・トミソン氏(Tom Thomison)、ヨーロッパでのホラクラシーの実践者であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)らを招聘したワークショップのスタッフとして参加し、いち早く関心を持たれた国内の実践者の皆さんと海外の知見を分かち合う機会を持つことができました。

2019年9月には、ホラクラシーの開発者ブライアン・ロバートソン(Brian Robertson)が講師を務める5日間のプログラムにジョインし、そのエッセンスや源泉に触れることを大切にしてきました。

ホラクラシー開発者ブライアン・ロバートソン

この間、さまざまなラーニング・コミュニティやプロジェクトチームが立ち上がり、それらのプロジェクトメンバーの一員として参加する過程で、ホラクラシー実践におけるファシリテーションや組織の仕組みづくりについての実践を積み重ねてくることができました。

今回、新訳版書籍の出版をきっかけに、再びブライアンと会えたことは本当に嬉しく思います。

以下、今回のウェビナーで語られた内容で特に気になったポイントについてまとめてみたいと思います。

何が、パーパス実現に役に立つのか?

ブライアンが今回、語っていた中で一貫していたメッセージは『何が、組織のパーパス実現に役に立つのか?』という観点でした。

ブライアンはホラクラシーについて以下のように述べています。

ホラクラシーは組織運営のフレームワークであり、OS(オペレーティング・システム)。組織のパーパスを実現する上での、ひとつのツール、選択肢です

ここでまず、ブライアンの言うパーパスとはどういったものなのかを新訳版著書からも引きながら、ブライアンの真意に迫ってみようと思います。

ホラクラシーにおけるパーパスとは?

新訳版書籍において、パーパスに関して吉原史郎さんは以下のように解説をされています。

私は2015年に、フレデリック・ラルーの著書『Reinventing Organizations(組織の再考案)』に出合い、一心に読み込みました。これは生命体的な組織のあり方を提唱し世界的に注目され、2018年にも日本語版『ティール組織』(英治出版)として出版されました。そのなかで何度も出てきたのが「エボリューショナリーパーパス(Evolutionary Purpose)」という言葉です。フレデリックは「エボリューショナリーパーパス」をティール組織の根幹をなすものとして位置づけています。

この言葉を考案したのが本書の著者であり、ホラクラシーの提唱者であるブライアン・ロバートソンでした。フレデリックはホラクラシーをティール組織の1つと位置づけ、ブライアンのエピソードを多数取り上げています。

[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー) 人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインp1

『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』では、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。

フレデリック・ラルー氏の調査によって浮かび上がってきた先進的な企業のあり方を基に3つのブレイクスルーが発見されており、

全体性(Wholeness)
自主経営(Self-management
存在目的(Evolutionary Purpose)

以上の3つが、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介されました。

では、ティール組織にも取り上げられるパーパスという言葉を考案したブライアンは、パーパスをどのようなものとして捉えているのでしょうか?

どの組織にも、この世界で他の誰よりも発揮し続けることができるような、ポテンシャルやクリエイティブな能力がある。それは、歴史、社員、リソース、創業者、ブランド、資本、つながりなど、組織が活用できるあらゆるものによって実現できることだ。

それが、私が「パーパス」という言葉に込めたもの、いわゆる存在理由だ。

[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー) 人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインp66

探しているものはすでに存在していて、見つかるのを待っている。子供の人生の目的と同じで、組織のパーパスとは決定される類いのものではないのだ。ただこう自問すればいい。

「この会社が現在置かれている状況や、手元にあるリソースと人材とキャパシティ、提供する製品やサービス、会社の歴史、市場空間などの要素に基づいて、世界のために何かを創り出したり表明したりできるような、この会社が持つ最も深いポテンシャルは何だろう?なぜ世界はそれを必要としているのだろう?」

[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー) 人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインp67

そして、パーパスとホラクラシーの関連については、ブライアンは以下のように述べています。

権限分配型のモデルに移行するにつれて、パーパスはあらゆるレベル、あらゆる活動分野において意思決定の拠り所となる。

[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー) 人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインp68

ホラクラシーの真の狙いは、組織がそのパーパスをよりよく実現できるようにすることにある。

[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー) 人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインp68

このように捉えてみると、組織のパーパスがなぜEvolutionaryなのか、その変化していくものである、という質感もより具体的に捉えることができます。

組織体の変化の中で、共同創業者のうちの1人が去る、あるいは新入社員を迎えるといった、所属する人材の変化によっても表現できるパーパスに変化が現れます。

また、その組織が置かれている産業や市場空間の変化によってもまた、表現できるパーパスに変化が現れることが予想できます。

ホラクラシーへのよくある誤解:マネジメントと階層型ヒエラルキー

ブライアンはウェビナーの中で、ホラクラシーによくある誤解としてマネジメントと役職による階層型ヒエラルキーの存在について言及していました。

よくある誤解の1つは、『ホラクラシーを実践するとは、マネジメントを手放すものである』という誤解です。

マネジメントをブレイクダウンしていくと、意思決定の方法をはじめとしてさまざまな要素がありますが、ホラクラシーは指示命令を行うことなくそれらを実現していくもの。

マネジャーを必要としないマネジメント」という表現もブライアンは使っていました。

「パーパスに奉仕すること(serving the purpose)」が最も大切なことです。(権限がロールに分散され、上下関係をなくし、)平等でなければならないという考え方も、そうすることがパーパスの実現に役立つからです』

よくある誤解の2つ目は、『階層型ヒエラルキー』に関する誤解です。

ブライアンは、『もし、最も組織運営に最適だと考えられるなら、従来型のマネージャーをロールとして作ることができる』と発言しています。

ただし、それに続けて『そうすることが本当に、一番効果的なのか?を検討することが大切』と話していました。

『組織のパーパスに対して、どのような組織形態のあり方が最善なのか?』
『誰がある仕事に対する権限を持ち、意思決定を行うべきか?』

これを組織として明確化しておくことは、どのような組織形態を取ったとしても、その組織のパーパス実現に効果的である、というのです。

ホラクラシー実践の旅路で何が起こるのか?

いざ、ホラクラシーを実践するとなった際には、組織の上司部下の関係性や文化を変えることになる難しさがある、ということもブライアンは話しています。

誰かが大変な意志決定をしてくれることへの慣れは楽で、その意識は変える必要があります。個人として、リーダーシップの発揮の仕方として、新たな変容が必要になるでしょう。

ホラクラシーでは、全員がリードして、全員がフォローを行います。従来の上司と部下の関係は、上司が親、部下が子どものような関係です。もし自分が親なら、子どもが自分の人生をリードできるようになるためにどうすればを考える旅になります。

※読みやすさのため、筆者による再構成をした部分があります

この言葉は、新訳版書籍内では以下のような表現で語られています。

この英雄的リーダーに依存するパラダイムの限界は今では私にも見えるがそれはリーダーがどれほど面倒見が良くカリスマ的で無視無欲であろうともそのリーダーの能力によって全システムの限界が決まってしまうと言うことなのだ。

[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー) 人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインp292

ホラクラシーは、意識が高く、自覚のある、よきリーダーであることの価値を私からも、他の誰からも取り除くわけでは無いことは確かだ。ただそのニーズをもっと多くの人たちに分配し到達不可能な理想ではなく扱いやすい範囲のものにするだけなのだ。(中略)これに関して言うとホラクラシーの原動力は親子間の共存関係ではなく、むしろ同僚同士の対等な関係だ。私たちはパートナーであり各人は組織のパーパスに責任を持ちそのパーパスを実現するための自分のロールにも責任を持つ。

[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー) 人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインp295

ホラクラシーが組織文化にもたらす劇的な転換は、相当な犠牲を伴う。権力をリーダーに託し、指示を待ったり、自分の意思決定に許可をもらったりするほうが楽だと言う人もいるだろう。そういう人たちにとってホラクラシーは、居心地の良い隠れ家を手放し、権限とそれに伴うすべての責任を積極的に引き受けることを意味する。ある意味、もっとむき出しで無防備になり、影響受けやすくなると同時に、たとえ会社全体から見てほんの小さな一部のロールであっても、そのロールを本当の意味でリードすることが必要になる。

[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー) 人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインp295-296

ホラクラシーの実践が世界にもたらすものとは?

また、ウェビナー中、ブライアンは組織とパーパスの関係についてさらに以下のように述べていました。

組織の役割は、何かを世界に実現しようとすること」です。

Evolutionary Purposeとは何か?それは、

『人類は世界に対して、どんな奉仕・貢献ができるのか?』
『思い描くすべてが実現可能だとしたら、あなたは世界に何をもたらしたいのか?』


と言う、問いへの答えになるものです。

※読みやすさのため、筆者による再構成をした部分があります

ここから、ブライアン自身の現在の探求および、彼の人間性に迫る問いがモデレーターの吉原史郎さんから投げかけられました。

組織・会社は、自然とどう調和していけるのでしょうか?

ブライアン自身の人間性、現在の探求に迫る問いとして史郎さんから初めに投げかけられたのは、『組織・会社は、自然とどう調和していけるのでしょうか?』というものでした。

この問いに対してブライアンは、自分自身の内面に向き合うことを中心に語ってくれていたように思います。

人は自分が大切にしたいもの・思いやりを寄せるものを大切にします。

『どうやって人々の意識を開いていくか?』
『「他者へのケアの心を道を開いていくか?』


個人や会社が世界にどんな影響与えるかを意識することが大事でしょう。他の人を無理やり変えようとすることは、できません。自分がそのモデル(模範)になり、自分自身が意識を広げて、それがどんな影響与えるかを示す。

そのあり方に対する他者からの好奇心が共感を生むのではないでしょうか。

※読みやすさのため、筆者による再構成をした部分があります

これに続けて、ブライアンは自分の意識を広げていくための3つの実践について語ってくれました。

1、瞬間瞬間へのアウェアネスを高めること
若い頃は伝統的な長期間に及ぶ瞑想を実践していたものの、近年では「瞬間ごとに自分の内面に意識を向ける」ことを意識しているとのことです。

2、コミュニティでの内省
家族よりも深いつながりを持った友人たちのクローズドなコミュニティ、「パーパスへの奉仕」で繋がる仲間たちと行う内省は、
自分の日々の行いが正しいのか?
どのようなシャドウ(影)があるのか?
そのような問いに対し、自分を映す鏡になる、とのことです。

3、サイケデリックスの探求・実践
定期的に、人の意識に作用して変容させる物質の接種を行い、通常の意識状態とは異なる状態を探求している、とのことです。ブライアン自身、人類の意識の拡大に重要なのではないか?と話していたのが印象的でした。

現在、欧米社会ではシロシビンやLSDのマイクロドーシング(微量服用)によって創造性や生産性を高めて仕事に従事する人が増えており、サイコセラピーへの適用も進み始めています。

とは、ケン・ウィルバー『インテグラル理論』監訳者であり、知性発達学者の加藤洋平さんの言葉です。以下のリンクも参考までにご覧ください。

紹介してくれた実践は、ホラクラシーにどのように統合できるでしょうか?

続いては、ホラクラシーと上記までの実践をどのように繋げるかについて、史郎さんからブライアンに問いが投げかけられました。

まず、前提として『他者に強制しようとせず、自分の情熱を伝えて実践すること』の重要性をブライアンは話してくれました。

実践法については特に、GTD(Getting Things Done)と、ロールとソウルの差異化と統合について紹介してくれました。

GTD(Getting Things Done)とはデビッド・アレン氏が開発した、ホラクラシーのベースとなっているアプローチです。

実践あるのみ」「まずやってみる」が重要ですが、そのための実践法としてGTDが役立つ、とブライアンは話していました。

もう一つ、ロールとソウルの差異化と統合についてです。

新訳版ホラクラシーの311ページには、インテグラル理論で紹介される四象限に通じる、四象限の図がイラストで紹介されています。

そしてホラクラシーにおいては、感情や人間関係、文化といったソウル(soul)の領域と、組織における仕事上の役割や構造といったロール(role)の領域を明確に区別することについて述べられています。

このように、従来型の組織で通常融合している領域、進歩的な組織ではよりいっそう強力に融合していることもある領域が、ホラクラシーでは健全な形に切り離されている。(中略)私はこの区別と、それが指し示すものがとても気に入っている。人間が認識する、これらの非常に異なる領域は、どんな組織の中にもすべてが共存するために、境界が不鮮明になりがちだ。

[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインp311

ホラクラシーが私的な領域や対人関係の領域の価値をおとしめるのではないかと、最初は心配する人たちもいる。しかし、うまく実践されればそんな心配はないし、それどころか、個人をもっと深く敬う気持ちが浸透することをたびたび目にしている。こういう次元の問題に完全に集中して取り組んでいる多くの組織を見てきたが、ホラクラシーはそれよりもはるかに大きな成果を上げているのだ。

それは、これら4つの空間を明確に区別し、空間と空間の間に適切な境界を保つことにより実現する。こうするといずれか1つが他の空間を支配することなしに、すべての空間が共存できる。また無意識のうちに融合したり、境界が不鮮明になったりする状態から、別々だが統合された、健全な結びつきに変わるのだ。

[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインp312

こういった前提に加え、ウェビナー中ではこのようなエピソードをブライアンは紹介してくれました。

数年前のある女性の声です。数ヶ月のホラクラシーの実践の結果、パートナーとの関係についてセラピーでは見出せなかった共依存関係について、理解することができたと話してくれました。共依存のことをセラピーでは指摘されていたが、以前までは理解できなかったと言うのです。

自分の尊厳を保ちながら、内面のシャドウ(影)を投影することもなく、自分の力を使いながら相手と協力できるようになる、という一例です。

※読みやすさのため、筆者による再構成をした部分があります

ホラクラシーは、世界に何をもたらそうとしているのでしょうか?

最後に史郎さんからブライアンへ投げかけられた問いは、『ホラクラシーは世界に何をもたらそうとしているのか?』でした。

これについて、ブライアンは以下のようなメッセージを返してくれました。

私自身もホラクラシーからインスピレーションを受けていますが、確かなことは、ホラクラシーは1つのツールに過ぎないということです。

多くの人がホラクラシーからインスパイアされていることは素晴らしいですが、あくまで道具の1つであるという意識があります。

とはいえ、ホラクラシーの実践によって「働く場が愛に満ちた場になる」。それが実現できれば、世界はもっと素晴らしくなると思います。

再び、私とホラクラシーの実践について

2019年から現在までの探求について

2019年のHolacracy Practitioner Trainingに参加して以降、私は新たにフレデリック・ラルー氏が初めて伝えてくれた『ソース原理(Source Principle)』の探求を始めていました。

ソース原理(Source Principle』とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威影響力創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。

2019年の来日時、フレデリック・ラルー氏によって組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となって初めて知られることとなったソース原理(Source Principle)。

昨年10月には、ピーター・カーニック氏に学んだトム・ニクソン氏による『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』が出版された他、

2023年4月にはピーター・カーニック氏の来日企画の実現、

また、『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」に入賞するなど、少しずつ『ソース原理(Source Principle)』の知見は世の中に広まりつつあるように思います。

この、2019年以降続いている一連の探求の中で感じたことは、ビジネスや経営に関する先進的な知見を紹介してくれる海外の実践者たちは、互いに学び合い、切磋琢磨しあうことで世界により良いものをもたらそうとしている、ということです。

フレデリック・ラルー氏もまた、ピーター・カーニック氏との出会い、そして彼からの学びを通じて、書籍においては2016年出版のイラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分で記載している他、

『新しい組織におけるリーダーの役割』と題した動画内で、このソース原理(Source Principle)について言及しています。

ピーター・カーニック氏は、ビジネスにおいて愛を創造すること(to craete love in business)が人生の目的だと語り、

Peter Koenig says his personal purpose in life is to create love in business, and I’ve also come to believe that working with source is a wonderful way to show up and act with love. But what is love?

Tom Nixon「Work with Source」p26

今回、登壇してくれたブライアンもまた、について語ってくれました。

探求を通じて見えてきたもの

このように、私自身が探求を続ける中で、フレデリック・ラルー氏、ピーター・カーニック氏、ブライアン・ロバートソン氏らといった実践者それぞれが独自の探求を重ねながらも、共通するテーマのようなものが垣間見えるようになってきました。

ここ数年、経営やビジネスの領域で取り上げられてきたさまざまなコンセプトがありました。

ティール組織』『心理的安全性』『パーパス』『ホラクラシー』『人的資本経営』『成人発達理論』『SDGs』『DAO』など、さまざまなキーワードがここ数年でもてはやされては次のキーワードへ移り変わっていく様子を目の当たりにしてきましたが、

なぜ、そのようなコンセプトが生まれてきたのか?
どのような時代背景、社会背景がそれらを生み出したのか?
それらの共通点と相違点はどこにあるのか?
何を大切にするための、手法・哲学・コンセプトなのか?

といった問いを十分に吟味し、日々の中に実践として取り入れるには、情報や文脈の複雑性や私たちを取り巻く状況の変化の速度があまりにも高まってしまってしまっているようにも思えます。

だからこそ私は、そういった複雑化しつつある文脈を紐解き、過去から現在、そして未来へと繋がるストーリーとして、微力ながらでも人に伝えていきたいという想いでこのような記録を書き続けているように思えました。

「人と組織のポテンシャルを発揮しうる知見・叡智を、可能な限り自ら調査と実践をしながら理解を深め、次の世代への遺していくこと」

これが、現在の私を動かす原動力であるためです。

そして、もし、それぞれの哲学・手法・コンセプトの根底にある価値観に共通している部分がある場合、自らの正当性を主張して蹴落とそうとするのではなく、互いの違いを認めつつも共存、もしくは棲み分けをしながら、人々や世界に貢献していけるよう促していければ、というのが私の願いです。

ホラクラシーとの出逢い直し

そのような中、今年6月に新訳版ホラクラシーが出版され、いくつもの出版記念イベントが開催されることとなりました。

監訳者・吉原史郎さんが登壇されるイベントに参加してレポートを書き残しているほか、

私自身も登壇者としてホラクラシーの実践について紹介する機会をいただいたり、

自分でも読書会を主催するなどして、2019年以降の探求とホラクラシーの知見が交わる部分や、さまざまな哲学・手法はどのように相互作用を生めるのか?についての探求を仲間たちと進めています。

どのような経営論、組織論、手法、哲学も何らかの必然性や願いを持って生まれてきたものであり、自分たちの現場や文脈、シチュエーションに照らして、それが本当に役立つのか否か?

このような視点を大事にしつつ、今後とも探求を続け、より多くの皆さんと分かち合っていければ幸いです。

さらなる探求のための関連リンク

8/30(水)進化型組織の最前線 欧州の進化型企業を訪ねて 〜欧州7社の実践知から組織の未来を探求〜

『愛、パワー&パーパス:人と組織の進化力を紡ぐ新たな物語』邦訳出版記念企画presented byクリスティアーネ・ソイス・シェッラー&NexTreams

RELATIONS:ホラクラシーの安定した実践までの長い旅路

ホラクラシーに人間性を―ランゲージ・オブ・スペーシズが切り開く新境地

カラビナテクノロジー:「自立」と「多様性」の共存するホラクラシーの実践

レポート:嘉村賢州がギリシャとスイスで学び・探求してきたことを分かち合う報告会【第2回 ティール組織ラボ ゆるトーーーク】

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