新訳版ホラクラシー1冊を2時間で読み解き、対話したABD読書会:人間性の回復をもたらす組織運営法
今回の記録は、ブライアン・J・ロバートソン著『[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー) 人と組織の創造性がめぐりだすチームデザイン』をオンライン読書会で読み解いた際の気づきや学びについて、私視点から振り返ったまとめです。
2016年に出版されたものの、長らく絶版となっていた旧約版『ホラクラシー(Holacracy)』。
2023年6月14日、英治出版より復刊・新訳版として出版されることとなり、実践を続けてきた私にとってはとても嬉しい知らせでした。
私にとってこのホラクラシー(Holacracy)は、組織の権限を分散しつつも、一人ひとりの存在、一つひとつの役割に尊敬と感謝を感じながら組織の目的実現に向かうことを可能にする組織運営法です。
ホラクラシー(Holacracy)には数々の組織運営メソッド、仕事の進捗管理術、ファシリテーションの技法、コミュニケーションの方法論が組み込まれています。
それらを丁寧に一つひとつ実践し、身につけていくだけでも日々の業務や職場の雰囲気に影響を与えていく様を、私自身も目撃してきました。
先日、ご縁をいただいて新訳版ホラクラシーを読み解く対談企画にゲストとしてお招きいただき、参加された多くの皆さんと原典・原点に立ちかえる機会をいただくことができました。
また今回も、この書籍を扱ったABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎)にご招待いただき、参加された皆さんとお話しできたのがとても嬉しく思います。
ABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎)とは?
今回の読書会は、アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎という読書会運営方法で行いました。
アクティブ・ブック・ダイアローグ®️(以下、ABD)は、有志の研究会がこれまでの読書会の限界や難しさを検討し、能動的な学びが生まれる読書法として探求・体系化したメソッドであり、ワークショップの1手法とも言えます。
ABDの開発者である竹ノ内壮太郎さんは、以下のような紹介をしてくれています。
2017年、その実施方法についてのマニュアルの無料配布が始まって以来、企業内での研修・勉強会、大学でのゼミ活動、中学・高校での総合学習、そして有志の読書会など全国各地で、様々な形で実践されるようになりました。
ABDの進め方や詳細については、以下のまとめもご覧ください。
今回のABDのプログラム構成
ABDはその目的、選書、参加者の集まり方、活用できる時間などにより、さまざまなバリエーションの実施方法が存在します。
そのため、今回のプログラム構成についても簡単に触れたいと思います。
今回のABDで扱った範囲は一冊ほとんどすべて(解説者・吉原史郎さんによる前書き・コラムは除く)。
まず、事前準備として、本書の購入と担当部分のまとめをGoogleスライドに入力しておき、当日はリレープレゼンからスタートする形式でした。
開催時間の2時間を、よりグループに分かれての対話のためにゆったり取れるスタイルです。
全員で行ったチェックインの後に、それぞれがまとめた箇所をプレゼンしながら繋いでいくリレープレゼン。
その後、5分間の小グループでの対話の後、全体での対話の時間となりました。
今回の気づき等を一人ひとりが共有しあうチェックアウト後も、いわゆる放課後時間が設けられ有志による対話が継続されました。
ホラクラシー(Holacracy)
ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。
フレデリック・ラルー『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』にて事例に取り上げられたことで、役職に伴う階層構造型の組織から、自律的な運営を行う組織へと移行するための方法・哲学として国内においても実践事例が増えつつあります。
ホラクラシー(Holacracy) は、2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン)社のブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)と、トム・トミソン(Tom Thomison)により開発されました。
Holacracyの語源は、アーサー・ケストラー(Arthur Koestler)が提唱した Holon(ホロン:全体の一部であり、 且つそれ自体が全体性を内包する組織構造)という概念に由来します。
ホラクラシーを導入した組織では、組織の全員がホラクラシー憲法/憲章(Holacracy Constitution)にサインして批准することで、現実に行なわれている仕事を役割(Role)と継続的に行なわれている活動(Accountability)として整理し、 仕事上の課題と人の課題を分けて考えることを可能にします。
ホラクラシーにおける組織構造は『Glass Frog』という独自開発された可視化ウェブツールを用いて、以下のようにホラーキー(Holarchy)なサークル図によって表されています。(可視化ツールは他にもHolaspiritというサービスも国内では多く活用されています)
ホラクラシーを実践する組織において仕事上、何らかの不具合が生じた場合は、それをテンション(tension)として扱います。テンション(tension)は、日々の仕事の中で各ロールが感じる「現状と望ましい状態とのギャップ、歪み」です。
このテンションを、ホラクラシーにおいてはガバナンス・ミーティング(Governance Meeting)、タクティカル・ミーティング(Tactical Meeting)という、主に2種類のミーティング・プロセスを通じて、および日々の不断の活動の中で随時、不具合を解消していきます。
ホラクラシーについては、日本人初のホラクラシー認定コーチであり新訳版の解説者である吉原史郎さんの以下の記事及び、新訳版出版に際してホラクラシーのエッセンスについて語られた動画にもご覧ください。
私自身のホラクラシー実践について
私自身が、この新しい組織運営のあり方について関心を持ったのは、2016年の秋から冬にかけての頃でした。
2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』。
ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスは、フレデリックラルー著『Reinventing Organizations(邦訳名:ティール組織)』にインスピレーションを受け、新しいパラダイムの働き方、社会へ向かうために世界中の実践者が学びを共有し、組織の旅路をサポートしあい、ネットワーク構築を促進することができる場として催されました。
いち早く日本人として参加していた嘉村賢州、吉原史郎といった実践者たちは、この海外カンファレンスの報告会を開催することとなります。
2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD』の報告会は、2016年10月19日に京都、10月24日、25日に東京にて開催され、嘉村賢州、吉原史郎の両名は組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。
※日本におけるフレデリック・ラルー『ティール組織』出版は2018年1月24日。
これ以降、当時私が参加していた特定非営利活動法人場とつながりラボhome's viは『ティール組織』探求を始め、同年2016年11月以降、『Reinventing Organizations』の英語原著を読み解く会も始まりました。
また、2017年6月以降はhome's vi自体をティール・パラダイム的な運営へシフトするため、『ティール組織』で事例に挙げられていた組織運営法であるホラクラシー(Holarcacy)の導入を行う運びとなりました。
当初は、NEXT-STAGE WORLD以降、嘉村らとコミュニケーションしてきたメンター、ジョージ・ポー氏(George Pór)にご協力いただき、またミーティング・プロセスの伴走はホラクラシー(Holarcacy)の実践を深めていた吉原史郎さんに参加してもらうことで進めていきました。
私自身は2017年7月以降、ホラクラシー(Holacracy)のファシリテーターとして実践を積み始めました。
これ以降、私にとっての新しいパラダイムの組織づくりの探求は、ホラクラシー(Holacracy)を軸に進んでいきます。
2017年11月、2018年8月には、ホラクラシーワン創設者トム・トミソン氏(Tom Thomison)、ヨーロッパでのホラクラシーの実践者であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)らを招聘したワークショップのスタッフとして参加し、
2019年9月には、ホラクラシー(Holacracy)の開発者ブライアン・ロバートソン(Brian Robertson)が講師を務める5日間のプログラムにジョインし、そのエッセンスや源泉に触れることを大切にしてきました。
この間、さまざまなラーニング・コミュニティやプロジェクトチームが立ち上がり、それらのプロジェクトメンバーの一員として参加する過程で、ホラクラシー実践におけるファシリテーションや組織の仕組みづくりについての実践を積み重ねてくることができました。
対話による気づき・学び
以下、今回のABDの対話の中での気づき・学びについてまとめます。
ホラクラシーがうまく機能しない、いくつかのパターン
今回の対話の冒頭では、ある実践経験をお持ちの方からホラクラシーがうまく機能しないパターンについてのお話を事例として共有いただくことができました。
書籍の中でも、ホラクラシーが馴染まないケースとして、以下のようなケースが挙げられています。
その記述を見てざわついたというその方は、『かつての私自身が典型的な非協力的ミドル層であり、ホラクラシーはクソだ!という抵抗勢力でした』というお話しをいただいたのです。
しかし、そのお話も詳しくその背景を伺っていくと、どのような組織でも起こりうることのように思われました。
曰く、ある日出社した時にホラクラシー憲章に権限移譲する書類に署名することとなり、ホラクラシー実践を始めることになるまでの昨日と今日とで、まったく違う会社に来たような感覚に陥った、というのです。
このような意識を共有せず、ホラクラシー憲章へのサインを行うことで突然、それまで持っていた権限を失い、仕事のやり方も変わるとなれば、皆さんはどう感じられるでしょうか?
幸い、このお話を共有いただいた方は、今となってはホラクラシーを実践してきた中でよかった点……特に『組織のパーパスを実現するために、それ以前はあったその他の余計な手続きなどを省略して実践できるようになった』等のポイントを挙げていただくこともできました。
混沌とした状態への恐れと、権限が分散されることによる安堵
上記のようなホラクラシー実践の上でうまく馴染まないケースのお話もあり、対話では混沌とした状態に陥る恐れをどう乗り切れるのか?といった話題が取り扱われました。
また、書籍の中では『犠牲の根絶』『リーダーの解放』といったように、組織に所属する人々にとって解放感や安堵につながるような表現も散見されます。
これは、どういったことなのか?といったことも対話の中で深めていくこととなりました。
仕事上の役割(ロール)と人間にまつわる物事(ソウル)を分けて考える、とは?
ホラクラシーでは、仕事上の役割(ロール)と人間にまつわる物事(ソウル)を分けて考えることが重要とされ、本書中にも以下のような表現があります。
また、本書中のChapter 10、311ページには『インテグラル理論』の提唱者ケン・ウィルバー(Ken Wilber)の四象限にも通じる四象限の図を見ることができます。
対話の中では、このロールとソウルという少し耳慣れない表現について探求する時間も多かったように思いますが、これに関しては体感も伴う更なる探求や、個々人の体験の深堀なども必要になるように感じました。
テンションを出し、丁寧に扱われるという安心感・信頼感
最後に放課後時間の中でも最後に扱われたテーマは、テンションを出し、それがしっかり受け止められ、扱われるという安心感・信頼感についてでした。
きっかけは、参加者の方の『そもそも、出してはいけないテンションがあるのではないか?と思ってしまっている』『出されたテンションを自分はどう扱っていいかわからない、ということが起こるかもしれない』というお話をいただいたことでした。
まず、テンションとは何か?について原典に当たると、以下のような表現が見つかります。
以上のように、ブライアンはテンションを感じることは人間にとって最も素晴らしい能力であると考え、ホラクラシーにおける組織構造や役割、仕事の進め方は、テンションに基づいて行われていくと説明してくれています。
また、感じたテンションを場に出すこと、それらを受け止めて扱うことについて、監訳者である吉原史郎さんは以下のように解説してくれています。
このように、ホラクラシーはロール(役割)とソウル(人間)を組織内において分けて考えつつも、その実、とても人間性を尊重したプロセスであることがわかります。
しかし、いざ感知した違和感を場に出すとなった時、重要となるのはその場や組織における人間関係、信頼感、安心感などです。
ホラクラシーにおいて、本当に『人間としての尊重』や『人間性の回復』といったような状態へ向かうためには、丁寧にテンションを扱おうという姿勢を組織全体の文化として醸成していく、ホラクラシーを推進する人自らがその姿勢を示していくといったことを時間をかけて探求していくあり方が大切なように感じます。
私自身、ホラクラシーに惹かれ、可能性を感じていたのはまさにこのポイントですが、改めて確認できるありがたい機会となりました。
参考リンク
以下、今回の記録をまとめる上で思い浮かんだ参考情報等のリンクをまとめようと思います。
第13期 一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会 認定ファシリテーター養成講座
アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)という読書会運営手法について、その背景にあるファシリテーションの技術・哲学、目的に向けたワークショップデザインの方法論などについて、体系的に学ぶことができる協会主催のプログラムです。
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