対談レポート:人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインとは〜[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)出版記念セミナー
今回は、『[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー) 人と組織の創造性がめぐりだすチームデザイン』の監訳を務められた吉原史郎さんと、一般社団法人Integral Vision & Practice代表理事・鈴木規夫さんの対談イベントに伺った際のまとめです。
株式会社アントレプレナーファクトリー(enfac)が主催した今回の対談は、鈴木規夫さんが聞き役となり、吉原史郎さんへ監訳者としてのメッセージを伺うという濃密な時間となりました。
今回の対談については、まず、私自身がどのような興味関心から、どういった経緯で参加するに至ったのか、その文脈とともにまとめていきたいと思います。
ホラクラシー(Holacracy)とは?
ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。
フレデリック・ラルー『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』にて事例に取り上げられたことで、役職に伴う階層構造型の組織から、自律的な運営を行う組織へと移行するための方法・哲学として国内においても実践事例が増えつつあります。
ホラクラシー(Holacracy) は、2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン)社のブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)と、トム・トミソン(Tom Thomison)により開発されました。
Holacracyの語源は、アーサー・ケストラー(Arthur Koestler)が提唱した Holon(ホロン:全体の一部であり、 且つそれ自体が全体性を内包する組織構造)という概念に由来します。
ホラクラシーを導入した組織では、組織の全員がホラクラシー憲法/憲章(Holacracy Constitution)にサインして批准することで、現実に行なわれている仕事を役割(Role)と継続的に行なわれている活動(Accountability)として整理し、 仕事上の課題と人の課題を分けて考えることを可能にします。
ホラクラシーにおける組織構造は『Glass Frog』という独自開発された可視化ウェブツールを用いて、以下のようにホラーキー(Holarchy)なサークル図によって表されています。(可視化ツールは他にもHolaspiritというサービスも国内では多く活用されています)
ホラクラシーを実践する組織において仕事上、何らかの不具合が生じた場合は、それをテンション(tension)として扱います。テンション(tension)は、日々の仕事の中で各ロールが感じる「現状と望ましい状態とのギャップ、歪み」です。
このテンションを、ホラクラシーにおいてはガバナンス・ミーティング(Governance Meeting)、タクティカル・ミーティング(Tactical Meeting)という、主に2種類のミーティング・プロセスを通じて、および日々の不断の活動の中で随時、不具合を解消していきます。
ホラクラシーについては、日本人初のホラクラシー認定コーチであり新訳版の解説者である吉原史郎さんの以下の記事及び、新訳版出版に際してホラクラシーのエッセンスについて語られた動画にもご覧ください。
私自身のホラクラシー実践について
私自身が、この新しい組織運営のあり方について関心を持ったのは、2016年の秋から冬にかけての頃でした。
2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』。
ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスは、フレデリックラルー著『Reinventing Organizations(邦訳名:ティール組織)』にインスピレーションを受け、新しいパラダイムの働き方、社会へ向かうために世界中の実践者が学びを共有し、組織の旅路をサポートしあい、ネットワーク構築を促進することができる場として催されました。
いち早く日本人として参加していた嘉村賢州、吉原史郎といった実践者たちは、この海外カンファレンスの報告会を開催することとなります。
2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD』の報告会は、2016年10月19日に京都、10月24日、25日に東京にて開催され、嘉村賢州、吉原史郎の両名は組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。
※日本におけるフレデリック・ラルー『ティール組織』出版は2018年1月24日。
これ以降、当時私が参加していた特定非営利活動法人場とつながりラボhome's viは『ティール組織』探求を始め、同年2016年11月以降、『Reinventing Organizations』の英語原著を読み解く会も始まりました。
また、2017年6月以降はhome's vi自体をティール・パラダイム的な運営へシフトするため、『ティール組織』で事例に挙げられていた組織運営法であるホラクラシー(Holarcacy)の導入を行う運びとなりました。
当初は、NEXT-STAGE WORLD以降、嘉村らとコミュニケーションしてきたメンター、ジョージ・ポー氏(George Pór)にご協力いただき、またミーティング・プロセスの伴走はホラクラシー(Holarcacy)の実践を深めていた吉原史郎さんに参加してもらうことで進めていきました。
私自身は2017年7月以降、ホラクラシー(Holacracy)のファシリテーターとして実践を積み始めました。
これ以降、私にとっての新しいパラダイムの組織づくりの探求は、ホラクラシー(Holacracy)を軸に進んでいきます。
2017年11月、2018年8月には、ホラクラシーワン創設者トム・トミソン氏(Tom Thomison)、ヨーロッパでのホラクラシーの実践者であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)らを招聘したワークショップのスタッフとして参加し、
2019年9月には、ホラクラシー(Holacracy)の開発者ブライアン・ロバートソン(Brian Robertson)が講師を務める5日間のプログラムにジョインし、そのエッセンスや源泉に触れることを大切にしてきました。
この間、さまざまなラーニング・コミュニティやプロジェクトチームが立ち上がり、それらのプロジェクトメンバーの一員として参加する過程で、ホラクラシー実践におけるファシリテーションや組織の仕組みづくりについての実践を積み重ねてくることができました。
成人発達理論とティール組織
ティール組織とインテグラル理論
一般社団法人Integral Vision & Practice代表理事である鈴木規夫さんとのご縁は、私が『ティール組織』という組織、経営、社会に関するアイデアを探求してきたことがきっかけでした。
フレデリック・ラルー著『Reinventing Organizations』は、日本では2018年に『ティール組織』という邦題で出版され、500ページを超える大作でありながら、2023年現在では10万部を超えるベストセラーとなりました。
本書の中でラルー氏は人類誕生以来の組織構造の変化の歴史を、思想家ケン・ウィルバー(Ken Wilber)の意識の発達理論・インテグラル理論(Integral Theory)を用いて説明していたため、より良い組織づくりのための研究領域として成人発達理論と呼ばれる領域によりスポットが当てられるようになりました。
そして、『ティール組織』出版以降、国内ではケン・ウィルバーの絶版本が再度出版される、新たな邦訳本が出版される等、発達理論および意識の変容に関する書籍が相次いで出版されました。
このような流れの中で、2011年の時点でインテグラル理論および意識の発達段階を対人支援・ビジネスの領域で活用する書籍『インテグラル・シンキング』を出版されていたのが、鈴木規夫さんでした。
『ティール組織』出版以降、いわゆる成人発達理論がビジネスの領域に広く紹介されるようになり、安易に人を測定する物差しとして活用される危険性も高まりました。
という視点が欠けたままでは、物差しは偏った使われ方をしてしまいます。
このような中、鈴木規夫さんはケン・ウィルバーに限らず、ロバート・キーガン(Robert Kegan)、ザッカリー・スタイン(Zachary Stein)、スィオ・ドーソン(Theo Dawson)、スザンヌ・クック・グロイター(Susannne Cook-Greuter)といったさまざまな学派、流派に属する研究者たちや研究・実践の潮流を踏まえつつ、実際に対人支援の領域で成人発達理論を活用するとはどういうことかについて、2021年に著書を出版されました。
上記のような背景も手伝い、私自身も理解を深めていくために読書記録としてまとめています。
社会の文脈・構造と成人発達理論
『インテグラル理論』を提唱したケン・ウィルバーをはじめ、意識の発達段階の研究者の多くが、ある集団、ある組織、ある社会における慣習・文化・意識段階が個人に対して大きな影響を与えていることを言及しています。
私自身もまた、『ティール組織』に端を発した人の意識について探求を進めているうちに、人々を取り巻くより大きな構造……産業構造、政治、経済といったものが人の意識に及ぼす影響について理解を深めていく必要性を感じていました。
日本において、いち早く『ティール組織(Renventing Organizations)』の潮流を海外から伝えてくれた先駆者であり、『実務でつかむ!ティール組織』著者の吉原史郎さんもまた、鈴木規夫さんらとの親交を深める中で同様の問題意識に直面されたのかもしれません。
吉原史郎さん、鈴木規夫さん、加藤洋平さんの鼎談企画である『成人発達理論とティール組織 各分野の専門家による対談〜Reinventing Civilization 「文明の再発明」に向けて〜』は、まさに人や組織を取り巻く「文明そのもの」について再考しようという意図から開催された、と認識しています。
この3名による鼎談の中では、社会の構造とお金(マネー)というシステムについて議論が交わされました。
この『Reinventing Civilization 「文明の再発明」に向けて』という鼎談企画の後、私は再び人の意識・社会の構造・お金(マネー)というテーマに巡り合うこととなりました。
今年4月に加藤洋平さんは『成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋』を出版され、鈴木さんが聞き役として出版記念の対談企画が実施されたのです。
「人間の成長に関する問題が永続しているのは、なぜなのか?」という問いを出発点として新著の執筆を始められた加藤さん。
対談の中では、「人間の成長に関する問題を生み出している問題・構造・文化」、「個人やひとつの組織を超えたより大きなコンテクスト(文脈)」にまず気づくことや、構造・文化・コンテクストに疑問を持つことなどについて扱われました。
今回、対談された吉原史郎さんと鈴木規夫さんとは、このような文脈の中でご一緒してきていました。
そして、そのお二人が今回、ホラクラシー(Holacracy)という題材をもとに対話を進めていくこととなりました。
人と組織の創造性がめぐりだすチームデザインとは?
以下、当日の対談の内容の中で特に気になった点についてまとめていきたいと思います。
Holacracy=holon(ホロン)+ cracy(権力・力)
対談の始まりは、規夫さんから史郎さんへ以下のような問いが投げかけられました。
ソシオクラシー(Sociocracy)とは、ホラクラシーの元となった意思決定方法の一つです。
ソシオクラシーもまた、ホラクラシーと同様これまでにアップデートを重ねられてきていますが、現代的な形となり、欧米の組織運営に生かされる形に体系化をしたのは、オランダ人技術者であるゲラルド・エンデンブルグ(Gerard Endenburg)です。
デモクラシー(Democracy)は、民主主義、民主制とも訳される政治体制の一種であり、その語源はギリシャ語のdemos(人民)とkratia(権力・力、支配)です。
そして、ホラクラシー(Holacracy)はホロン(holon)とクラシー(cracy)を合わせた造語です。
ホロン(亜全体、全体子)とは、例えば人体における細胞のように、ある全体(人体)の一部ではあるものの、それ単体で見たときに複数の構成要素(細胞膜やミトコンドリアなど)を秩序立てて統合している全体(細胞)と見ることができるという性質を持つものです。
これらの前提をもとに、史郎さんは以下のように答えられていました。
ホラクラシー、ティール組織、ソース原理の違いとは?
続いて、規夫さんから史郎さんへ、以下のような問いが投げかけられました。
ティール組織(Reinventing Organizations)とはフレデリック・ラルー氏によって提唱された経営コンセプトであり、その中でホラクラシーは事例として扱われています。
しかし、そのティール組織の中で中心的な3つの要素である存在目的・エボリューショナリーパーパス(Evolutionary Purpose)は、フレデリック・ラルーがホラクラシー開発者のブライアン・ロバートソンから着想を得て取り入れている、という背景があります。
ソース原理(Source Principle)もまた、ティール組織著者であるフレデリック・ラルー氏によって初めて日本に紹介された概念です。
ソース原理(Source Principle)とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威と影響力、創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。
不動産コンサルタントとしての経験から『お金と人の関係』がビジネスにおける成功、人生の充実に大きく影響していることに気づき、ピーターによる『お金と人の関係』の調査が始まりました。
その後、お金に対する価値観・投影ついて診断・介入できるシステムであるマネーワーク('moneywork')が体系化され、その過程で人の創造性を扱うソースワーク(Source Work)が副産物的に生まれてきたとのことです。
ソース原理に関する邦訳書籍にはトム・ニクソン著『すべては1人から始まる(原題:Work with Source)』があり、
本書は『すべては1人から始まる』が日本の人事部「HRアワード2023」に入賞するなど、少しずつソース原理に関する認知度は広がっています。
以上のような前提を踏まえ、その中でホラクラシーの持つ独自性について、史郎さんは以下のようにお答えされました。
監訳者として伝えたいメッセージは?
最後、規夫さんから史郎さんへ以下のような質問がありました。
この問いに関して、史郎さんは以下のようなことをお答えされていました。読みやすいよう再構成した都合上、私自身のバイアスが入っている部分があることをご容赦ください。