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かみさまの捨てた靴


かみさまは気が長い。



おそろしく長い。




千年でも二千年でもえがおで


「靴がもどるまでまつ」




そう言いました。






巷では「かみさまの捨てた靴」


そう呼ばれるその靴は


実はかみさまが天のお祭りの日に落としてしまった靴でした。




だれかが「かみさまの捨てた靴」と言い



そのままそう呼ばれるようになっていき



かみさまもそのことは知っていました。




その時落ちた場所は砂漠の果てでした。


ほんとうは砂漠の中心でしたが、落としてから約五百年はそこは果てと呼ばれていて人々は近づきませんでした。



五百一年目にそこを通った旅人が一人目の「かみさまの捨てた靴」を拾った者でした。




旅人は街でその靴を娘をつれた母親に売りました。


母親が二人目の拾った者となり



娘がやがてそれをもらい三人目となりました。



かみさまは全く焦っているようすはありません。



なぜならかみさまには百人目の青年がそれを履きながら天まで尋ねてくるところまで見えていたからです。




それまで靴は色々な人に拾われ大切にされて大切にしたひとも喜びがやってくる



そんなようすを見るのがかみさまの休日のしあわせなすごし方でした。




家の者から家の者へ



また売りに出されては別の国へ



ある時は家を建てる職人のもとへ



ある時は遠くの国の数々のめずらしいものを集める商人のもとへ



ある時は生まれた時から同じ家に住んでいる老婆のもとへ



ある時はふしぎな魅力をもつ踊り子のもとへ




ある時は有名な貴族のもとへ



ある時は信頼される牧師のもとへ



ある時は働きものの教師のもとへ




ある時は先の短い哲学者のもとへ




ある時はお酒のすきな画家のもとへ




ある時はねこを飼う音楽家のもとへ





九十七人目




九十八人目






そして九十九人目の拾った者のときです。





百人目の青年でこの靴の旅は終わります。






百人目の青年は英雄です。





盛大なお祝いの会をして、かみさまの娘と婚約させるシナリオが導かれていました。





九十九人目の拾った者はある街で商売をする男でした。




男はじぶんの息子にその靴を渡すつもりでいました。




男は百人目の青年の話を街のうわさできき、森にその靴を隠しました。



じぶんで履かずに数十年隠し続けます。




そのあいだに隣りの隣りの田舎町でその百人目の青年は産声をあげました。



雪のしんしんとふる寒い日でした。




青年は少年の頃になると「かみさまの捨てた靴」の話はどこからともなく聞かされて知っていました。




友人とその頃から靴を探しはじめて、隣りの隣りの街の商売をする男が靴を森に隠した話まで運良く辿りついていました。




しかし、その男が靴を譲る気がないと知り青年になる頃には全く靴に興味を示さなくなり旅に出ていってしまいました。





男の息子も年頃になり男は早々に靴を息子に履かせます。



これで百人目。男は一安心。







それから月日は流れ





その靴はまだ世を巡っているそうです。





うやむやになった百人目の英雄は




実はあれから裸足の青年をかみさまから追いかけてかみさまから娘との結婚をお願いしたそうです。





かみさまの娘は優しく美しく青年は断る理由もなく、そのまま娘と一緒に旅をつづけました。













めでたし めでたし。








読んでくださりありがとうございます ♡ ゆかこ💌🖋🧸