マガジンのカバー画像

よすけの短編小説まとめ

75
書いた小説を投稿した順にまとめています。短いのから長いの。暗いものから明るいものまで。ほっと一息つけるように。
運営しているクリエイター

#眠れない夜に

【短編小説】無題

【短編小説】無題

894文字/目安1分

 元気にしているかい?

 いや、元気なわけないよね。わかるよ。正確に言うと、体はいたって健康で心もそれなりに落ち着いているけど、何かどうしようもない気持ちになっている。そんなところかな。もっと言えば、むしろ今が一番楽しいと思っているところもあるね。でも、それ以上に楽しいはずの未来を手に入れられずにやきもきしている。当たっているでしょ。
 やることは山積み。ちょっとずつ溜ま

もっとみる
【短編小説】焼き鳥屋の煙―店じまい―

【短編小説】焼き鳥屋の煙―店じまい―

3,087文字/目安6分

 こんな時間まで飲んでしまった。
 俺の他にも人はいたが、すでにみんな帰っている。隣のスーツを着た男も、家族の愚痴やら仕事の愚痴やら今の日本がどうだとか話している座敷の二人も、いつの間にかいない。スーツ姿の女の人は少し飲むなり出ていってしまったし、その後に来た大学生も散々泣いた後に帰っていった。

 いつもわりと静かな店の中だが、一人になると本当に静かになる。他には大将

もっとみる
【短編小説】晩酌

【短編小説】晩酌

1,387文字/目安2分

 今週は特に疲れた。
 毎週毎週思うことだけど、毎週毎週それが更新されていっている気がする。月曜日から金曜日まで、一日の時間を全部使うわけじゃないのに、それがすべてのことのように追われている。
 今の仕事が嫌いなわけじゃない。むしろ好き。会社の人たちだってみんないい人。嫌な人なんてほとんどいない。わたしなりに、会社を大きくするためにどうしようか。どうしたら今よりよくなる

もっとみる
【短編小説】空に落ちる

【短編小説】空に落ちる

951文字/目安2分

 夜の空を見ていると、無性に怖くなる。
 こんなにも月が、星が、この暗闇を照らすのに、わたしはわたしのいる場所がわからなくなる。
 ずっとそのままでいると、だんだん星の一つくらいは掴めるんじゃないかと思えてくる。そうやって空はわたしを誘うんだ。

【短編小説】蛍

【短編小説】蛍

2,816文字/目安5分

 花火の音は遠く、静かな夜を微かに温め、赤、青、緑と空を照らす。
 音を立てず通るぬるい風が、あちこちで鳴く虫の声が、わたしの心をざわつかせる。

 ああ、嫌だな。

 夏は嫌いだ。夜が短いから。
 こうしてベランダでただ外を眺めているのも、夏のせい。祭り囃子も浴衣も嫌いだ。
 わたしは世界に一人、置いていかれたような気分でいる。

 待ち合わせの時間は確か午後の四時だ

もっとみる