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「人類は衰退しました」実に斬新な未来予測に基づく終末世界

漫画/アニメというものは、未来を舞台にする作品が多い。
鉄腕アトム」も「ガッチャマン」も「宇宙戦艦ヤマト」も「ナウシカ」もも「ガンダム」も「エヴァンゲリオン」も「攻殻機動隊」も、みんな未来のお話。
で、大体のパターン、必ず何らかの形で「よくない未来」なんだわ。
ディストピア、ポストアポカリプス。

あぁ、そういや「北斗の拳」は「199×年、世界最終戦争が・・」というお話だったから設定は未来でなく過去になってしまってるが、でもあれは80年代の作品ゆえ、もちろん作者としては未来のつもりで描いてたはず。

「北斗の拳」におけるモブの皆さん

嫌だよね、こんな未来・・。
多くの作家たちが描く未来のイメージは、主に次の2パターンのどちらかに属するものである。

<パターン①>

世界規模の核戦争等で世界は瓦解し、人類の文明は著しく後退。
無政府状態、無法状態、弱肉強食、すなわち「暴力で一番強い奴こそが王」という原点にまで回帰してしまう。
文明的には、過去の科学の残滓を「ロストテクノジー」として活用。
それを王とその近縁が独占する、古代~中世型の階級社会が成立。
奴隷制も復活。

<パターン②>

科学文明が究極まで進歩した結果、人類の英知をも遥かに上回る人工知能ができたことで、全ての管理/運営をそれに託す形の社会が成立。
結果、電脳を神とする完全な管理社会が完成し、その管理から逸脱することなど事実上不可能な監視社会となる。
権力への対抗手段は「ハッキング」である為、ハッカー=テロリストという構図になっている。

「攻殻機動隊」

①にせよ、②にせよ、どっちにしてもロクな未来ではない。
とはいえ、これらを「どうせ作り話だし、普通にあり得ないでしょ」と嗤うのは少し違うでしょ。
私は①も②も、あり得ない話ではないと思うよ。
大体、「終末」というものはいつか必ず来るんだ。
人類史は、いつか必ず終わる。
きっとそれは我々の代ではないだろうけど、我々の子孫たちのうち、運悪くその局面に立ち会わざるを得ない世代は必ず出てくるんですわ。
それはそれで致し方ないこととして、できればそれが酷い形ではないことを願うだけです・・。

というわけで今回は、上に挙げた①でも②でもない、③のパターンを描いてくれたアニメをご紹介しようと思う。
それが、これです↓↓

「人類は衰退しました」(2012年)

制作/AIC 監督/岸誠二(2012年)

私、これ大好きなんですよねぇ。
「終末」系作品なのに、とてもほのぼのしてて楽しい。
私のオールタイムベスト/ファンタジー編の中で、確実に上位に食い込む傑作である。
何より、OPの変なダンスが好き。

妖精さん

妖精さんのダンスはこの型しかないようで、ひたすらこのループである。
カワイイ。
で、こういうカワイイのが出てくるから少し誤解されがちだが、本作は明確に「終末」系アニメである。
ただ、他作品のように「世界大戦が・・」とか「AIの暴走が・・」等の設定ではないみたいで、そしてハッキリした形での「人類衰退」の言及はない。
一体、何で衰退したんだろうね?

考えられるのは、エネルギー資源の枯渇だろうか?
作中に「電気」は一応あるが、かなり限定的な使用しか許可されてなかったし。
でも、それならそれで代替の何かを研究開発していくのが人類というものだろうに、どうも作中のキャラにそういう気概のようなものはまるで感じられない。
散々手を尽くした上での八方塞がり⇒もうイイや・・みたいなイメージである。
主人公「わたし」も「人類は絶滅します」とハッキリ明言していた。
超頭のイイ彼女がそう言い、尚かつそれを踏まえても達観してるんだから、もはや今後どうこうできるレベルの話ではないんだろう。
人口も実際にかなり減ってるみたいで、「わたし」は一応「国連」の職員というエリートなのに、見ればホント普通の村娘みたいな感じで、ただ質素に暮らしているだけ。

右が主人公の「わたし」(cv中原麻衣)

で、そんな人類はいまや「旧人類」という位置付けらしく、次の地球の覇権を握るのは「新人類」、上の画の左、つまり妖精さんたちということになるらしい。
普通、そういう構造なら

<旧人類vs新人類の戦争>


になるよね?
でも、本作の世界観ではそうならない。
というか作中にこういう奴ら、ひとりも出てこないんだよ↓↓

出生率が落ちてるのか、屈強な若者たち自体もほとんど目につかなかったし、年寄りのオッサンたちばかりが目立つ感じ。

もはや、旧人類は「種」そのものが老いている感じである。

多分、みんな性欲とかもかなり減少してるんだろうなぁ・・。
でもさ、そういうのってめっちゃリアリティある設定だと思わない?
そもそも、「個人」が老いて枯れるんだから、「種」としての晩年もまた「個人」同様、「種」として老いて枯れる(本能レベルが弱くなる)というパターンはあり得なくもないんだ。

この小説を描いた田中ロミオ先生って、めっちゃ賢い人だと思うわ。
このへんの設定は他の作家たちが思いつかなかった境地だし、本能レベルが落ちてるから、人類生存へのモチベもかなり落ちてるわけでしょ?
結果、文明そのものがお年寄り感覚になって衰退・・。

第3話~第4話「妖精さんたちの、さぶかる」

また、未来はやはり人類の本能そのものが変質してるというべきか、それを如実に示したのが第3~4話のエピソードで、この回はBL同人誌を発行したところ、上の画のように異様なほどの大ブームが巻き起こるわけさ(これはコミケに集まった人たちの行列)。
中にはこれを単なるギャグ回と捉えた人もいるだろうけど、いや、多分そうではない。
ここでポイントなのはBL、つまり同性愛にこれほど多くの女子たちが反応したことであり、彼女たちは「恋愛」に憧れつつも、それは♂×♂、もしくは♀×♀、ようするに生殖とはなり得ないものにばかり食いついてるんだよね。
そりゃ、人口も減るって・・。
これぞ、緩やかに下降線を辿る、「種」としての老いの信号じゃないか?

本作には百合描写もあるが、とにかく異性愛が描かれることはない

考えてみりゃ、現実世界でも昔に比べてBL/百合というものがどんどん拡張してるように感じるし、時代はジェンダーがどんどん曖昧になってきてる感もある。
そして、これの行き着く果ては、<全人類の中性化>というのもあり得ない話でもないかと。
・・じゃ、仮にそうなったら、最後は一体どういう世界になると思う?

こういう人たち↓↓が、存在しない世界になるんだよ(つまり、戦争が起きない世界)

田中ロミオ先生は、そうシミュレーションしたんだろうね。
実際、この作品では「戦争の痕跡」なるものが一切出てこない。
では、これはユートピアなのか?
いや、そうじゃない。
なぜなら、その代償として人類文明は明らかに衰退してしまってるから。

こんな突飛な未来シミュレーション、これまで誰にも思いつかなかったし、少なくとも富野由悠季あたりからは100%出てこない発想である(笑)。

というか、富野由悠季がこういうキャラの考案したら、逆にヒクわ↓↓

妖精さん

おそらく「新人類」妖精さんたちって、まさしく枯れた人類が行き着く究極形態である。
戦争を起こすようなマッチョな本能はほとんど持ち合わせておらず、ただ「甘いモノをたくさん食べたい」「楽しいことが好き」というだけの極めて無害な存在さ。
ただ旧人類との決定的な違いは、その生殖にあるだろう。
彼らに性欲はなく(というか、♂♀もなさそう)、生殖形態は基本「分裂」である。
ハッピーなら増えて、アンハッピーなら減る。
今はかなり増えてるようだが、しかしサイズが10cm程度と小さいので、いくら増えたところで地球に悪影響を及ぼすことはない。
また、高度な科学テクノロジーを有してるようだが、それを使って文明社会を築こうという意思も特にないっぽい。
いつも森とか、自然の中にいるし・・。
どうやら我々と違って生態系を崩す心配もなく、何と環境に優しい新人類だろう。
まさに、旧人類にとっての上位互換である。

<地球の覇権>
恐竜⇒人類⇒妖精さん

妖精さんのcvは、金元寿子、新井里美、坂本千夏、緒方恵美等のビッグネームが含まれている

こうして改めて見ると、ホント設定がよく練られてるんだよね。
このへんは、ファンタジーというよりもSFっぽい理系の発想が根幹にあるわけで、実際この原作小説はSFの権威「星雲賞」にもノミネートされてたらしい。

なお、TV放送された本編以外に「人間さんの、じゃくにくきょうしょく」というショートアニメ2分×6編というのもあって、ここでは「わたし」自身が妖精さんになってしまう回である。

妖精さんになってしまった「わたし」

小さくなった「わたし」がめっちゃかわいくて、超おススメです。


なお私の知る限り、本作は熱狂的支持者が数多くいるはずなんだけど、残念ながら2期制作がないまま、はや10年が経過してしまった。

聞けば、AICはもうアニメ制作をしてないらしい。
ならば、どこかが引き継いで2期制作をやってくれないだろうか?
やれば当たること、ほぼ100%確実なんだけどなぁ・・。


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