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月刊「読んでみましたアジア本」

日本で出版されたアジア関連書籍の感想。時には映画などの書籍以外の表現方法を取り上げます。わたし自身の中華圏での経験も折り込んでご紹介。2018年までメルマガ「ぶんぶくちゃいな」(…
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#中国

【読んでみましたアジア本】2024年を前に読んでおきたい、お薦めアジア本

今年最後のアジア本は、恒例の年始年末お薦め本。今年、「読んでみましたアジア本」でご紹介した本の一覧を書き出したところ、なかなか収穫の多い1年であったように思われる。

特に、今後アジア情勢を観察する際に、基礎的知識を身につけるための「教科書」として何度か読み直すだろうと思われる本が数冊入っており、きっと将来、「読んでてよかった…」と思えるときがくると感じている。というか、すでに感じている。

ただ

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【読んでみましたアジア本】生々しい「今」のインドがぎっしり詰まってる/近藤正規『インド−グローバル・サウスの超大国』(中公新書)

この「読んでみました〜」も今までいろんな本を読んできましたが、とうとう、というか、新書も1冊1000円を超える時代になったのか……というのが本書をポチったときの最大の感慨だった。

長らく新書は「1000円以内の知識普及版」的な存在のはず。その新書の価格が一線を超えたことに、日本の物価高もここまできたか、という思いだ。もちろん、物価の変動は無視できない現実なのだが、なんというか、ある種の定番商品の

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【読んでみましたアジア本】2022年に読んだおすすめアジア本5選

さてさて、年の瀬恒例の「今年のおすすめアジア本」となった。

今年は、コロナの香港パンデミック(運悪く香港入りしていた…汗)や、予想もしなかった上海2カ月ロックダウンという「事実は小説よりも奇なり」を地で行く大事件が続き、今もまたコロナ措置は緩和されたけれども「!!」という状況で、この1年を振り返ろうとしても自分が何を読んできたのか、すっかり思い出せなかった。その分、資料としてたくさんたくさん、コ

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【読んでみましたアジア本】巨匠が語る観察眼、表現するということ/侯孝賢(著)・卓伯棠(編)・秋山珠子(訳)『侯孝賢の映画講義』(みすず書房)

ここ数日、「生命力」について考えている。「生命」ではなく「生命力」。

きっかけはたぶん、7月1日の香港主権返還25周年だった。わずか数ヵ月前にわたしが現地で実際に見聞きし、帰ってきてからも伝わってくる現地の生々しい感情や人々の思い、そういったものがばっさりと抜け落ちた日本メディアの返還25周年報道の数々。もちろん、その記事はそれを伝えているつもりだろうが、どちらかというと、記者たちが現地入りする

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【読んでみましたアジア本】東南アジアを青銅器時代から21世紀までをくまなく網羅した一冊:古田元夫『東南アジア史10講』(岩波書店)

日本人がアジアの歴史を振り返る時、さまざまな感情が湧いてくる。知っていること、知らないこと、何を自分が知っているのか、何を知らないのかということでさえ、考えてみようとすると心臓がどきどきしてくる。

もちろん、そんなことはない、そんなことは気にしない、そんなことを気にする必要はない、という人もいるだろう。だが、どんな態度を取ろうとも、アジアの歴史を掘り起こす時、日本の存在は「不在」ではいられない。

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【読んでみましたアジア本】必ずやあなたの持つ印象を変える「未完の禁書」:トルグン・アルマス『ウイグル人』

世界の注目が集まっているとき、これまでほとんど気にかけていなかった国のことを知ろうとするのは、「世界を知る」ための基本だと思う。

もちろん、いまではネットが発達し、情報収集の最初の手段はほぼネットだ。だが、ネットの情報はだいたい1本3000字が最大文字数とされており、それ以上の記事は読む側が萎えてしまうというのが一般的な認識である。つまり、ネット情報はニュース拡大版としてならまだしも、全体像や基

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【読んでみましたアジア本】死とクスリとエロを求めて数千里…痛快!/杉山明『アジアに落ちる』

いやー、痛快! こんなアジア旅行記があったとは! この書評号を初めてかなり経ちますが、アジア本をこんなに楽しみながら、ワクワクしながら読んだのは久しぶりかも!

もし、アジアって純真だとか、純粋だとか、気高いとか、「アジアを愛する自分は崇高」だと思っておられる方がおられれば、本編はここで終わりです。ご精読ありがとうございました!

あとがきによると、著者は美術家、そして作家とある。ほかでさらさらっ

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【読んでみましたアジア本】中国から世界の潮流を読むヒントと話題がぱんぱんの一冊:梶谷懐、高口康太『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)

北京に住んでいた時、タクシーの運転手に出身をきかれ、「日本」と答えたか、「香港」と答えたか、記憶にないのだが、こういうやり取りになった(北京のタクシー運転手は好奇心旺盛だと、だいたい上目でバックミラーを見ながら「どこの出身だ?」と尋ねてくる。多くの場合、わたしは「どこだと思う?」と相手に詮索させるのだが、即座に広東とか東南アジア系の国名をあげる運転手には、「香港人だよ」と言ってごまかすこともよくあ

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【読んでみましたアジア本】インドと中国、二大国の間に横たわる「アジア」事情を知る:タンミンウー『ビルマ・ハイウェイ』(白水社)

◎『ビルマ・ハイウェイ:中国とインドをつなぐ十字路』タンミンウー・著/秋元由紀・訳(白水社)

1年ほど前にジャーナリストの舛友雄大さんに紹介されて手にした本。いつも言葉の少ない舛友さんなので具体的に何が書かれているのかの説明は特になかったのだけれど、勉強家でとにかく目の付け所が現地に根ざしている彼ゆえに、尋ねるよりも「とにかく読んでみなければ始まらない」という気分になったのだった。

なぜにビル

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【読んでみました中国本】30年前のあの日は人々にとって何を意味するのか:安田峰俊「八九六四 『天安門事件』は再び起きるか」

◎「八九六四 『天安門事件』は再び起きるか」安田峰俊(角川書店)

「八九六四」。なんと刺激的なタイトルにしたものだ。

一般の日本人はほとんどぴんとこないだろうが、中国語のネット情報に触れている者なら一目見ただけで説明はいらない。1989年6月4日、あの天安門事件の日を意味している。

改革開放派だったが失脚したまま亡くなった胡耀邦・元中国共産党総書記の死がきっかけになって、政治改革を求めて天安

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