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とほん店主の読み終わらない読書

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とほん店主が本について思いのままに書いています。新しく入荷した本、棚に並んでいる本、最近読んだ本、昔読んだ本など、その時々の気になる本たち。
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記事一覧

眠れない夜に開く本

眠れない夜に開く本

【とほん読書ノート014】

『幸福論』で有名なヒルティ(1833-1909)が、眠れない夜の時間を自らの人生を見つめ直すために活用しようではないかと書いた本です。

哲学者であり国際法の大家でもあったヒルティですが、何よりもまず敬虔なキリスト教徒でした。聖書を頻繁に引用し、信仰心に基づいた幸福を追求するための内容ではありますが、自身の経験に裏打ちされた実践的な助言も満ち溢れています。

信仰心が

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今日も何かを待っている

今日も何かを待っている

【とほん読書ノート013】

私はいろんなことを待っていたのかと気づかされる。人が希望を持ち、それが叶うまでの状態を「待つ」だと思えば、人生のあらゆる場面で人は「待つ」ことになる。

本書では「待つ」ことから発生する様々な思いを哲学的に考察して、待つことの意味を捉えなおしていく哲学エッセイ。

なんとなくネガティブなイメージだった待つことの意味が更新されていく。待つことは希望が叶わない状態であり、

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ひっそりと生きる、かけがえのない人たち

ひっそりと生きる、かけがえのない人たち

【とほん読書ノート012】

眠る前に読むために書かれたという24の短い物語。
ちょっと不思議な世界の片隅でひっそりと暮らす人たちが主人公です。

世界の果てのコインランドリーにひとり通い続ける男。
細い路地の奥で働く映画技師に自転車で食事を届ける少女。
どうしても鳴らないオルゴールを直そうとする青年。
世界中のあらゆるものを盗んできた三人の年老いた泥棒。

登場する人たちがどんな人で、どんな世界

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たぶん彼女は豆を挽き、ぼくは本を読む

たぶん彼女は豆を挽き、ぼくは本を読む

【とほん読書ノート012】

『たぶん彼女は豆を挽く』庄野雄治/mille books

徳島県にあるコーヒー豆専門店アアルトコーヒー。この本にはその店主・庄野雄治さんががどのような思いでお店を開き、どんなことを考えながらお店を続けているかということや、コーヒーの淹れ方が語りかけるように書いてある。

 忙しい毎日だからこそおいしいコーヒーを飲んでもらいたい。それは大変なことでもないし、修練がいる

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あなたの心に飾る詩

あなたの心に飾る詩

【とほん読書ノート011】

簡単に絵画鑑賞を楽しむ方法を聞いたことがある。ピカソだシャガールだマネだモネだと絵画に詳しくない私などは、その魅力をどう感じていいのかわからず美術館でも戸惑ってしまう。そういう時はシンプルに「自分の部屋に飾るならどんな絵がいいか」という基準だけで絵を見ればいいと。そうすれば「これはちょっと暗いな」とか「もっとシンプル(派手な)ほうがいい」、「この人物の表情は毎日見ても

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夜の言葉と夜の読書の記憶

夜の言葉と夜の読書の記憶

思い返せば、10代の頃は家族が寝静まった夜にいつもひとりで本を読んでいた。物語が終わりその余韻を感じながら眠りにつくのが好きで、本を読み終えるのは夜ひとりの時間になるよう、気を使いながら読んでいた。

人間は昼の光のなかで生きていると思いがちなものですが、世界の半分は常に闇のなかにあり、そしてファンタジーは詩と同様、夜の言葉を語るものなのです。(解説より)

著者のル=グウィンは『ゲド戦記』や『闇

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思い出のなかに生きる

思い出のなかに生きる

【とほん読書ノート009】

山田稔は私の友人が好きな作家だが読んだことがなかったので『別れの手続き 山田稔散文選(大人の本棚)』(みすず書房)を手に取った。作家でフランス文学者の山田稔。冒頭に収録された作品が軽めの内容なので油断してしまったが、読み進めるほどにその世界に引き込まれる。内容としては過去の思い出を中心に書かれたエッセイ集だが、ちょっと読んだことのない感覚だった。

どうやら私はごく若

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原民喜がいたことで救われる何か

原民喜がいたことで救われる何か

【とほん読書ノート008】

昨年、一番印象に残った本はと考えると、この本だった。よくできた評伝というのはすごい力を持っていて、読み終えるとそれまであまり知らなかった人物が心のなかで生き続けることとなる。私は今後の人生のなかで、原民喜のことを何度も思い返し、共に生きていくことになるだろう。

私はこの本を読むまで原民喜のことをよく知らなかった。自らの被爆体験について短編「夏の花」を書いた作家という

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ありがとう、空腹

ありがとう、空腹

【とほん読書ノート007】

 タイトルをみてすぐ注文のメールを送って仕入させたいただいた。僕も空腹にはとても弱いほうなので、よくぞ言ってくれたと激しく共感をしたからだ。でも「わたしを空腹にしないほうがいい」という文章には主語が抜けていて、他人に言っているような言葉(誰か空腹なわたしに早く食べさせろ的な)なのかと思っていたが、読み始めてすぐそれは違うことがわかった。主語は「わたしだった」。

 あ

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神様のいる街はここですか?

神様のいる街はここですか?

【とほん読書ノート005】

「文」と「本」と「旅」こそが自分を支えていた。「旅」を街に差し替えて「文と本と街」でもいい。自分が旅に出る理由は、いつも歩いているなじみの街とは別の街を歩きたかったからだ。 P37

吉田篤弘の小説が好きで読んできた。大正ロマン昭和モダンな雰囲気を持ち、ハイカラで西洋的な道具仕立て。少し気取った物腰をごく自然とまといつつ、どこか人懐っこい人たち。吉田篤弘が神戸を好きだ

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〈弱い〉からできること。

〈弱い〉からできること。

【とほん読書ノート004】

 小学生の娘を連れて家電量販店に行くと、たいていルンバのコーナーに行ってボタンを押して動かして遊んでいる。日本で一番親しまれているロボットはルンバだろうなと思う。この本を読むと、なぜルンバがこんなに人に愛されているのかわかる。そして、それはコミュニケーションについて考えるきっかけとなる。

私が子供の頃に思い描かれていた未来のロボットは「様々な機能を搭載して何でもでき

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怠惰な滝と怠惰なわたし

怠惰な滝と怠惰なわたし

【とほん読書ノート003】

 戦後派の中心作家として活躍した梅崎春夫のエッセイや小説の中から「怠惰」なものを厳選したアンソロジー。やる気なく就職したものの、取材と称して飲みに行き、会社にいても怠惰な同僚たちと使われていない部屋に集って博打に明け暮れる。これが戦後高度経済成長期で植木等が「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」と歌っていた時代ならまだしも(本当に気楽な時代だったのかは知りませんが)

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自ら本屋を開業して4年、本の雑誌の表紙に自分の名前が載る日が来るとは。人生思いもよらないことばかり。

自ら本屋を開業して4年、本の雑誌の表紙に自分の名前が載る日が来るとは。人生思いもよらないことばかり。

【とほん読書ノート002】

2014年2月22日。奈良県大和郡山市のやなぎまち商店街の元畳屋さんの一角で小さな本屋を開業しました。それまでは大阪の新刊書店に勤務していたものの、残念ながら閉店。自分で本屋を開業するつもりなどなく、そのまま大阪の本屋で定年まで働くことを夢みていましたが、人生は予定通りにはいかないものです。

なんだかんだといろいろあって、自分で本屋を開業することになりました。そのあ

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かえるくんとがまくんの距離感

かえるくんとがまくんの距離感

【とほん読書ノート001】

常連のお客様がおすすめしてくれて、今更ながらアーノルド・ローベルのかえるくんとがまくんのシリーズを読みました。教科書にもよく載っているので、心温まるエピソードばかりかと思いきや、思いのほか自由奔放なかえるくんとがまくん。大人も読むとクセになります。

『ふたりはいつも』の「そりあそび」ではベッドのなかでぬくぬくと眠っていたいがまくんを無理やりそり遊びに連れ出すかえるく

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