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積もる話もあるだろう

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眞木高倉のエッセイ集
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【エッセイ】誰とも出会わない覚悟

【エッセイ】誰とも出会わない覚悟

 人間は二種類に分けることができるらしい。人と関わることでエネルギーを蓄える外交的人間と、一人で過ごすことでエネルギーを蓄える内向的人間。高倉は議論の余地なく後者である。一人の時間が必須であり、できるだけ他人と関わらずに暮らしたい。
 しかし、人間が「人」の「間」に生きるものである以上、人との関わりは避けられない。人と健全に関わり続けることで人間は人間らしい形を保つことができるのではないか、と、所

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【エッセイ】スキップで暮らしていますように

【エッセイ】スキップで暮らしていますように

 病は気から、という言葉がある。気の持ちようが体調を左右するという諺だ。「だから病気なんてのは気のせいだ、甘えだ」と発展させるのはあまりにも時代錯誤だし炎上の火種だが、そう舵を切らなければ頷ける部分もある。

 映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の冒頭に、打ち捨てられた日本人形が映し出される。いかにも不気味な絵面だ。のちに、その日本人形の持ち主は主人公と同じ電車に乗って苦しそうに咳き込んでいた少女であ

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【エッセイ】微笑を読み上げられるまで

【エッセイ】微笑を読み上げられるまで

 Audible 2ヶ月無料キャンペーン中との報を受けてから、加入すべきか否か悩んでいる。

 これは以前Twitter で聞いた話なのだが、文章を読む時、脳内で声が再生される人とそうでない人がいるらしい。高倉は後者で、活字は活字の形をしたまま脳内で処理され、音声に変換されることはない。そもそも活字(ここでは音声になる前提で書かれていない小説やエッセイを想定する)は活字として読まれるに最適な文体で

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【エッセイ】すべての映画を愛している

【エッセイ】すべての映画を愛している

 この世につまらない映画なんか一本たりとも存在しない。

 というのが高倉の考えで、なので「つまらない映画は最後まで観ずに損切りしろ」などという考えには全く同意しかねる。映画に損切りしていい無駄な時間なんか一瞬たりとも無い。
 そもそも映画を「損切り」という言葉が出るということに違和感がある。損切り、ということは、映画を損得勘定で観ているということだろうか。映画を観て得することってあるか? 人は映

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【エッセイ】カルピスは夏の季語

【エッセイ】カルピスは夏の季語

 季節の変わり目は飲み物の変わり目だ。真っ白かった桜並木が若葉で茂ってゆくように、カフェで頼む珈琲がホットからアイスに移ろい、自動販売機の「あったか~い」が隅へ隅へと追いやられ、冷蔵庫に備蓄されるお茶の量が変わる。毎日家と職場の往復くらいしかやることがない社会人にとって、歳時記に載るような季節感を得ることは難しいが、飲み物は社会人の生活にも密接だ。仕事の合間に飲みたいと思うものが変わると、あぁ、季

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【エッセイ】たった一つの正解を

【エッセイ】たった一つの正解を

 物欲に駆られている。具体的には、服が欲しい。

 高倉はこの春から現場が変わり、インフラ設備の構築、運用保守の仕事をしている。オフィスワークも勿論あるが、構築した機器の納入、故障した機器の交換等、ちょっとした運動を伴う作業が定期的に発生する。つまるところ、軽率にスカートを履けない。
 職場にそうと強いられたわけではないのだが、スカートは履かない方が何かと都合がよさそうだった。保守作業は機器の故障

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【エッセイ】大丈夫だよ、ばあちゃん

【エッセイ】大丈夫だよ、ばあちゃん

 祖母の話をしたい。

 母方の祖母は、昭和の女性像をそのまま具現化したような人だ。美人で優しい、気が利いて、面倒見が良くて、旦那様に献身的。さだまさしの「関白宣言」が可愛く見えるほどの暴君ぶりを発揮していた祖父に、文句の一つも言わず何十年も尽くしてきた。祖父と祖母の関係性の話は、主に母からの又聞きでしかないので全面的に信じているわけではないが、少なくとも祖父が「酒を呑むからつまみをつくれ」と言う

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【エッセイ】〆切ヤバいを超えた先

【エッセイ】〆切ヤバいを超えた先

「国語のテストに「この時の筆者の気持ちを答えなさい」ってやつあるじゃん。執筆中の筆者の気持ちなんて「〆切ヤバい」以外あるわけなくない?」

 以前一緒にご飯を食べに行った知人の台詞だ。どうしてそんな話になったのかは全く覚えていないのだが、公教育の有様に疑問を呈するような話の一環で、そんな文句が飛び出した。
 言わんとすることは分かる。国語のテスト、漢字の読み書き問題や慣用句の穴埋めならまだしも、筆

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【あんスタ】劣等生と問題児

【あんスタ】劣等生と問題児

 今回のあんスタイベントは、ALKALOIDとCrazy:Bの合同イベントですってよ……!!!!

 昨日発表された新曲、「SAKE OF LOVE」を延々と聴いています。というか観ています。なんて、なんて良い曲なんでしょう……。元気いっぱいノリノリな曲なのに、歌詞で、演出で、キャラクターの表情でうっかりしんみりさせてくる。泣けばいいのか笑えばいいのか分からなくて、だばだば泣きながらぐちゃぐちゃに

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【エッセイ】真っ黒いラーメンどんぶり

【エッセイ】真っ黒いラーメンどんぶり

 生まれて初めて、黒い食器を買った。ラーメンどんぶりだ。しっとりとした質感の黒い陶鉢で、表面が手作りっぽく波打っている。DAISO品なので手作りでないことは確かだが、言わなければバレない程度には上品な佇まいをしている。
 高倉の家の食器は軒並み白い。引っ越すときに実家から拝借してきた白い浅皿は、数年前のヤマザキ春のパン祭りでもらったものだ。それに合わせたわけではないが、買い足した茶碗、小皿、カレー

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【検証】推しを九人晒すと好みがわかる

【検証】推しを九人晒すと好みがわかる

 Twitter曰く、推しを九人晒すと好みがわかるらしい。本当だろうか。
 ということで、眞木高倉の推し!九人!並べてみましょう!高倉の好みがわかるかな!?

1. 椎名ニキ (あんさんぶるスターズ)

 ヒィ~~~~顔面が好き!!
 ライブパフォーマンス特化型チャラチャラアイドルグループ「Crazy:B」の胃袋担当、椎名ニキです。チャラくて可愛くて料理が上手い!学は無いのに思慮はあるというエモ男

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【エッセイ】弁当と定食のはなし

【エッセイ】弁当と定食のはなし

 職場の近くにある定食屋のトンカツ定食は980 円だった。これって高いのだろうか、安いのだろうか。長く食を疎かにしてきた高倉には、定食の価格帯が分からない。

 高倉はこの春から新しい現場に転属となった。仕事内容はサーバーやネットワークの構築、保守だ。機材が壊れたという報告があれば交換しに行くし、システムの構築が終わったら機器を納品しに行く。外に出ずっぱりというわけではないが、適度な外出が発生する

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【エッセイ】輪郭に触るな

【エッセイ】輪郭に触るな

 新しい現場に入ると、当たり前だが、自己紹介を強いられる。知らないオフィスで、知らない顔に注目されるこの儀式。詰まる息を何とか吸い込む。
「今日からお世話になります、眞木高倉です。一生懸命頑張ります、宜しくお願いします」 会釈、気持ちばかりの拍手を浴びて、終わりだ。
 別に一生懸命頑張るつもりはないが、聞いている方だって別に誰も「おぉこいつは一生懸命頑張るつもりなんだな」なんて思っていないだろう。

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【エッセイ】フォークダンスを踊らないで

【エッセイ】フォークダンスを踊らないで

 炎上が怖い。

 社会は議論でできている。人は考える葦であり、社会は思考の坩堝だ。全く同じ思考をした人間は存在しない。しかし複数の人間が同じ場所で共存しなければならない以上、議論をして、落としどころを探る作業が必要だ。そうした面倒の死屍累々の上に、現代社会は鎮座している。
 対立しているのは必ずしも正義と悪ではない。マナーも道徳も倫理も、まるで社会正義のような顔をしてそこに居るが、時や場合や視点

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