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こいつ、おれのこと好きなんかな

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主人公の大学生は女の子に話し掛けられた全ての言葉を勘違いし、オチは全て「こいつ、おれのこと好きなんかな」で終わります。結末は全部同じなので、話し掛けられる台詞と、過程を楽しんでく…
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#短編小説

『こいつ、おれのこと好きなんかな㉑』

『こいつ、おれのこと好きなんかな㉑』

「真夏の果実って、私のことだよ?」

満点の星の下、4人乗りのレンタカーがアクセルをふかす。
ひょんなことから大学の友達に誘われて、誰もいない夜の海へ走り出していた。
2:2という男女比の黄金比率に加え、夜の浜辺へのドライブと、大学生ぽい夏を恥ずかしくも満喫してしまった。

靴を脱いで浜辺を歩いたり、足だけ海に入ってはしゃいだり、嫌われない程度に女の子に水をかけたり。
振り返るだけでも顔が赤くなり

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑳』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑳』

「そうだ なつ あそぼ?」

 
「そうだ、京都行こう」と「くうねるあそぶ」のコピーライターが書いたような、キャッチーなセリフを僕に投げてきた。二つのコピーを同一人物が書いたかどうかは知らない。
 
3限終わり、彼女の言葉で、夏の始まりを実感する。今年は5月くらいから既に暑く、感覚が麻痺していた。
日差しが差すアスファルトを見ると、夏はもう始まっているんじゃないかとぼんやりと考えることもあった。

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑲』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑲』

「めちゃくちゃ、濡れてるよ?」

 
雨の水曜日、駅からキャンパスまでのわずかな道のりを傘も差さず歩いた結果だ。
そこまで降ってないと思い、早歩きで通り抜けたが、服とリュックはビショぬれだった。
一つ後ろの席に座っていた彼女が、僕の濡れた後姿を見て思わず声を掛ける。
 
別に怒られたわけでないが、「あ、すんません」と謝る。
同じクラスの子だっただろうか、あまり覚えていない。学部の授業なので、同じ学

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑰』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑰』

「このワイドパンツ、買ったの!」

聞いてない
 
と思うことが多々ある。
同じクラスの彼女は、開口一番の報告をマメにする。ホウレンソウを重んじる会社であれば褒められる行為であろう。
しかし、ここは会社でないし、僕は上司でもない。
あと、報告の内容が、どうでもいい。
 
前に会ったときは飼い犬のうんちが柔らかかった話をされたし、その前は燃えるゴミの日にミックスペーパーを捨ててしまった話をされた。

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑯』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑯』

「あー、暑いですねえ…」

春と夏の間の、名前がない季節。
梅雨が始まる前の、初夏のフライングみたいな季節。
雨気と暑気が入り混じった、うだつの上がらない季節。
 
話すことがないときに、気温と天気の話をしてしまうのはどうしてだろう。
夏は「暑い」、冬は「寒い」、「晴れですね」、「雨ですね」、微妙な関係の男女の会話の行き着く先は、これに尽きる。

Siriやアレクサでもスムーズにできるやり取りだが

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑮』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑮』

「おっきくなったね」

彼女は同じマンションに住む二個上の先輩。
小さい頃はよく遊んでもらったらしいのだが、どうも記憶が曖昧だ。
彼女が都内の私立中学に進んでから、遊ぶこともなくなった。
たまにエレベーターや部屋の前ですれ違うと挨拶をする程度だった。

そんな彼女が、部屋の鍵を開けようとした僕に急に話し掛けてきた。
マンションの六階の廊下。慌てて振り返る。
シンプルに驚いたし、なぜこのタイミングな

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑭』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑭』

「ねぇねぇ、写真撮ろ?」

 
バイトの歓迎会に誘われた僕は、一枚の写真に納まることを迫られる。
お酒のせいで赤くなった彼女の顔を、じっと見つめる。
何か言おうとする僕を無視して、iPhoneを宙に掲げる。
 
僕は女の子と一緒に写真を撮った経験がほとんどない。
遡れば中学校の修学旅行や小学校の運動会、幼稚園のお昼寝の時間など…。
覚えていないだけで実際にはあるのだろうが、それを「女の子と一緒に撮

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑬』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑬』

「このワンちゃん、なんていう名前なの?」

僕は、LINEのアイコンを誰かの犬の写真にしている。
ネットから拝借した、どこの誰かもわからないチワワの写真。

フォト無精の僕は、アイコンを何にすべきか皆目見当もつかなかった。
自撮り(お前の顔面をおれのタイムラインに乗せてくるなよ)、友達と映る写真(お前の友達と思われるのハズいからやめてくれよ)、デフォルト画像(逆にデフォがかっこいいと思ってんじゃね

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑫』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑫』

「今度、飲み行こうね!」

バイト終わり、彼女は必ずそう言って去って行く。
「来週のサザエさんは〜」ばりに毎週毎週欠かさずに言ってくる。
雨の日も、雪の日も、彼女がメイクを忘れてマスクをしてた日も。
僕は「うん、絶対ね」と返して見送った後、「今度」の意味をスマホで調べる。

「最も近い将来・この次・次回」
今度という意味を考えれば考えるほど、わからなくなってくる。
近い将来なのに、どんどんどんどん

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑪』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑪』

「夜の匂いが早くなった、初夏がやってくるね」

彼女は言い回しが妙だ。
お婆ちゃんが日本を代表する俳人なのかもしれない。会話に必ず季語を入れてくる。
どこか情緒をプンプンに漂わせて。

朝会った時は、「おはよう、春眠が気持ちよかったねー」
授業を終え外に出ると、「風強いー!薫風だー!」
雨が降り続く午後は、「これは、送り梅雨かな?返り梅雨かな?」

僕は訳もわからず相槌を打って、別れた後にGoog

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑩』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑩』

「あー、私の人生こんなはずじゃなかったのになあ‥」

彼女は僕に弱みを見せてくる。
3回に1回はどこからか湧いてきた感情を、溜息混じりに吐露してくる。
汚れた消しゴムのカスを丸めながら、浮かない表情の彼女を見つめる。

授業中の表情も、学食での表情も、廊下を歩く表情も、彼女はどこか物憂げな感じがした。
その様は、こんな不幸な私を見てほしい、と言わんばかりだった。
こんな顔をしながら存在していれば、

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑨』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑨』

「火、貰ってもいいですか?」

「大事な話は喫煙所で決まる」という噂めいた言葉がある。
商談や人事決定など、ダラダラと会議が長引いていても、一服休憩で気持ちを落ち着けたところで話が進展する、ということだ。

そんな話をどこからか聞いたことに加え、大学の友達がことあるごとに「タバコミュニケーション」最強説を唱えていた。
彼はその一説だけを武器に大学中の喫煙所を渡り歩き、様々なネットワーク網の中心にい

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑧』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑧』

「久しぶりじゃん!こんなところで会うなんて!」

驚いた。

中学の同級生とバッタリ会ったことより、彼女が随分と綺麗になっていることに。
たしかに、今思い返してみれば、顔立ちはハッキリしていて、ちっちゃくて、かわいい部類だったかもしれない。
それでも、少し控えめな性格だっただけで、「イケてる女子グループ」に属していなかっただけで、自然と度外視していた。

そんな彼女と偶然出会って、しかも、自分のこ

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑦』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑦』

「あっ、髪切った?」

アルバイト先の休憩室は、シフトの30分前には出勤をするバイトの人数に見合わず、狭い。
僕の隣に置かれた、ガタガタするパイプ椅子に優しく座った彼女。
僕の存在を見つけた途端、嬉々として話し掛けてきた。

僕は毎月4,800円もかけて美容院に通っている。
「とりあえず、生」のテンションで「とりあえず、ツーブロック」とオーダーするこの髪型に、それほどの価値があるのか、と会計時にい

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