シン映画日記『オットーという男』
ユナイテッドシネマ浦和でトム・ハンクス主演映画『オットーという男』を見てきた。
日本では2015年末に公開したスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』のアメリカリメイクで監督は『チョコレート』や『ネバーランド』のマーク・フォースター。元の映画がいいというのもあるが、本作はこれにマーク・フォースターの演出力とトム・ハンクスのこれまでの演技の集大成的な作品になっており、単に『幸せなひとりぼっち』をアメリカリメイクしただけでなく、オリジナルの上位互換リメイクであり、トム・ハンクスの作品としても相応しい仕上がりになっている。
妻に先立たれたオットーは勤めていた会社を定年退職し、住んでいる町で静かに余生を送っているが、堅物なオットーには近隣住民の数々のモラル違反を見るに耐えかねず、ある決意をしていた。そんな矢先に通り向いにメキシコ人の家族が引っ越してきて、何かと面倒やお節介をかける彼らに対してオットーは徐々に心を開く。
大まかな流れはオリジナルの『幸せなひとりぼっち』と変わらないが、向いに越してくる家族がイラン人からメキシコ人に変わったり、所有する車がボルボからシボレーに変わったり、あらゆる部分でアメリカリメイクを見せる。
またご近所をメキシカンにすることで、子どもたちの遊びがルチャ・リブレだったり、アメリカリメイクならではの味わいがある。
普段温厚な役柄が多いトム・ハンクスもいつもと違う一面を楽しめる。仏頂面の皮肉屋の爺さんだったらトム・ハンクスよりもクリント・イーストウッドの方がぴったりだが、本作がトム・ハンクスである理由はいくつかある。
まず、クリント・イーストウッドにしてしまうとクリント・イーストウッド監督兼主演作品『グラントリノ』とかなり被ってしまう。メキシコ人の近隣住民だけでなく、終盤のたたみかけも『グラントリノ』に近いので、イーストウッドでリメイクすることを避けた可能性がある。
それとトム・ハンクスにすることで、若き日のオットーとソニアのエピソードに『フォレスト・ガンプ』の風味を加えることが出来る。若き日のオットーの列車でのソニアとの巡り合わせはまさしく『フォレスト・ガンプ』を意識したもので、駅のベンチに座るシーンがあることからもそれが伺える。
オットーとソニアの過去回想の挿入はオリジナルにもあるが、アメリカ映画でそれをやるとやはりフランク・キャプラ監督作品『素晴らしき哉、人生!』に通じるものが強く感じられる。
だいたいのエピソードはオリジナルを踏襲していると思うが、不思議と一人一人の個性は『オットーという男』の方が際立っていた。
ラストもごく自然で見事な着地点。
オリジナルよりもさらに人間讃歌と『グラントリノ』的な爽やかさがある。
嫌味な爺さん役だが不思議とトム・ハンクスがより好きになる映画である。