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1〜3分で読める!〜1800字以内の創作小説
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#創作

【1話完結小説】事務員

【1話完結小説】事務員

カタカタカタ…

PCシステムに次々と指定された内容を入力していく。顧客ごとに細かい仕様変更があるので地味にめんどくさい。
朝から延々この作業をこなし、すでに110件目の入力完了だ。勤務時間中ひたすらこんな事を繰り返していると、まるで自分がAIになったような気がしてくる。
その仕事に私の意思はなく、ただひたすら上司の指示に従って入力しているだけの文字や数字。感情なんてものは無用の長物で、求められる

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【1話完結小説】セクシー美女になりたい

【1話完結小説】セクシー美女になりたい

もしも願いが叶うならセクシー美女になりたい。
好みの服に身を包み、毎日男に言い寄られ、その日の気分で遊び相手を取っ替え引っ替え。しかし「本当の私を見てくれる人はどこにもいない」と心には常に冷めた風が吹いていた。最終的に選んだ男は胡散臭いがカリスマ性のあるIT社長で「この人だけが私の真の理解者だ」と半ば洗脳されつつのモラハラ奥様ライフ。我に返り離婚成立した時には美貌のピークもとうに過ぎていた。外見に

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【1話完結小説】お母さん型AI

【1話完結小説】お母さん型AI

家に帰るとお母さん型AIが台所から明るく声をかけてきた。
「お帰りなさい!今日の夕飯はカレーですよ」
言いながら、手慣れた仕草でテーブルの上にミルクたっぷりのカフェオレと手作りクッキーを素早く並べる。
「今日も疲れたでしょうから、まずはおやつでもどうぞ。食べる前にちゃんと手を洗ってくださいね」
言われなくても外から帰れば当然手ぐらい洗うが…お母さん型AIは帰ってきた家人にそのように一声かけるプログ

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【1話完結小説】コツコツコツ

【1話完結小説】コツコツコツ

コツコツコツ___

真夜中。私の部屋の窓ガラスを外から誰かがノックしている。ここ、アパートの5階なのに。
…なんてよく聞く幽霊話。無視すりゃいいじゃん。カーテンさえ開けなきゃ外に何がいようが分からないよ。私は今、そんなもの相手にしてる場合じゃないんだから。イヤフォンを耳にはめ、お気に入りの音楽を聴きながら目を閉じた。段々意識が遠のいていく。

…なんてごめんね。無視されるのって辛くて悲しいよね。

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【1話完結小説】木瓜

【1話完結小説】木瓜

介護ベッドの上から爺さんが叫ぶ。
「婆さんや、ご飯はまだかね」
隣の部屋からヨタヨタと杖をついた婆さんが近付いてきて優しく答える。
「嫌ですよお爺さん、さっき食べたじゃないですか」
「何!?ワシはまだ食っとらんぞ!昨日からもうずっと食っとらんぞ!さてはお前ワシを殺すつもりだな!?この人でなしが!」
瞬間湯沸かし器のごとく急に激高した爺さんは側にあった湯呑みを掴み婆さんに投げつけようとしたが、その腕

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【1話完結小説】存在認識

【1話完結小説】存在認識

小学校が小学校であるのは、そこに小学生や先生達が居て、彼らが「僕は小学生だ」「私は小学校教師だ」「ここは小学校である」と認識しているからにすぎない。
その証拠に、放課後になって生徒達が帰り、スポ少の野球少年達が帰り、遅くまで明日の授業の準備で残っていた最後の先生が引き上げてしまうと、途端にソレは小学校ではなくなってしまう。ソレを“小学校”として見る者が一人もいなくなった時、ソレが小学校でいなければ

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【1話完結小説】県道◯号線

【1話完結小説】県道◯号線

夏の夕暮れ。ドライブ帰りの私は、真っ直ぐな田舎の県道を車でひた走る。前には5台ほどの車が等間隔で連なっていた。
…と、何もない場所で前の車たちが何かを避けるように右に大きく膨らんだ。そしてまた元の道に戻り何事もなかったかのように走り続ける。
え?何で?何で?何も見えない。皆が右に膨らんだあたりに差し掛かったがやはり私には何も見えないのだ。
そのまま直進する。
ドン!
突然車体前方に衝撃を感じ、驚い

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【1話完結小説】見えてるくせに

【1話完結小説】見えてるくせに

「ねぇ、私のこと見えてるんでしょ」

会社帰り、駅前の雑踏で血塗れの女が話しかけてきた。女の体は半分透けている。明らかにこの世の者ではない。
見てはいけない、答えてはいけない…。

目線をそらし無視を決め込む僕に、女はしつこく付き纏う。

「見えてるくせに!見えてるくせに!返事くらいしなさいよ!」

女の声は段々ヒステリックに大きくなっていった。僕は「早く消えてくれ」と祈りながらひたすら自分のつま

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【1話完結小説】休日の洗濯物

【1話完結小説】休日の洗濯物

晴れた休日の朝。
光の中で揺れる洗濯物を見るのが好きだ。

汚れと一緒に慌ただしい平日のしがらみもすっきり洗い落とされたかのようなブラウスやスカートやタオル。
時おり気持ちいい風が吹き抜けて、踊るようにゆらゆら揺れる。
柔軟剤のいい香りがあたりにふわふわ漂う。
今週も一週間お疲れ様。
やっと楽しい休日が始まるよ。
思い切り羽を伸ばそうね。
…それはそうと柔軟剤、変えたのかな?
僕は先週までのフロー

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【1話完結小説】どうもこうも押すよね

リセットボタンがあれば君は押すかな
口うるさくて面白みのない両親
君にレッテルを貼る先生
偉そうに上から目線の友達
君を縛り付ける窮屈な世界の中で

リセットボタンがあれば君は押すかな
愛に溢れた理解ある両親
君の個性を認めてくれる先生
助け合える優しい友達
君が毎日笑ってる世界を求めて

リセットボタンがここにあるけど
君はどうする?
もし押すのなら君は目の前の僕も
消すことになるんだ
君がどう

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【1話完結小説】ノンフィクション

【1話完結小説】ノンフィクション



我が国は隣国に攻め込まれ、この村にももうじき敵軍が到達するだろう。
僕達家族をはじめ、村人の大半が避難の準備を進めている中で、祖父は「愛する故郷を守りたい」と村に残る抵抗軍に志願した。
その様子が何故かSNSで拡散され「男の中の男!」「彼こそ真の勇者!」と世界中からメッセージや支援物資が届き始めた。我が家に次々ジャーナリストが取材に来る。祖父はますます高揚し、避難するという選択肢は頭からすっか

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【1話完結小説】線路

僕が幼稚園の頃から、家の前ではずっと工事が行われていたが、小学五年生になった春、ついにピカピカの線路が完成した。
近所のおばさんは「いくら迷惑料を貰っても、うるさくなるのは困るわよねぇ」とぶつぶつ文句を言っていたけれど、僕は内心ワクワクしている。
フェンス越しに真新しいレールを見つめた。「おでこに金網の跡がついてるよ」と後でお母さんに言われるくらいに張り付いてじっと見つめた。一体どんな最新型の新幹

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【1話完結小説】昇華

【1話完結小説】昇華

休み時間。ちょうどトイレの個室から出ようとした時、外でエリとサツキの声がした。

「ハナほんとウザイよなー」
「一回ほめただけで毎日ポエムみたいなん書いてきてさあ。そろそろ付き合うの限界なんですけど。」

自分の名前が聞こえてきて、思わず息を潜め気配を殺す。

「さすがに毎日感想求められてもなー」
「今度もっと長いの書いてくるって言っとったで」
「いや、もうムリムリムリムリ!」

キャハハハハ

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【1話完結小説】原因

【1話完結小説】原因

問題解決のために原因を探究することは面白い。知的好奇心というやつだ。
原因を見つければ自ずと対処法も考えつくだろう。

俺は自分の部屋のあちこちを探しまわる。
そしてついに。

「…みつけた」

叔父さんから入学祝いに貰った分厚い国語辞典。春から開きもせず秋までずっと放置していたそのページの間に、小さな呪符が一枚。

これが最近俺の周りで起こる不幸の原因に違いない。原因がはっきりすると途端に目の前

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