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【1話完結小説】県道◯号線

夏の夕暮れ。ドライブ帰りの私は、真っ直ぐな田舎の県道を車でひた走る。前には5台ほどの車が等間隔で連なっていた。
…と、何もない場所で前の車たちが何かを避けるように右に大きく膨らんだ。そしてまた元の道に戻り何事もなかったかのように走り続ける。
え?何で?何で?何も見えない。皆が右に膨らんだあたりに差し掛かったがやはり私には何も見えないのだ。
そのまま直進する。
ドン!
突然車体前方に衝撃を感じ、驚いて車を停める。何かを轢いてしまった…?
恐る恐る車を降り道路上を確認したが何もない。ただ夏草が伸びた県道が夕日に染まるばかりだった。
ホッとして車に乗り込もうとすると、後ろから来た車の運転手がすごい剣幕で怒鳴ってきた。
「ちょっとあんた!こんなことしといて何逃げようとしてんだよ!!」
どこからこんなに人が湧いてきたのだろう。いつの間にかあたりは人だかりになっていた。近所の住民だろうか。みんなが私を睨んでいる。
「早く!救急車!」「警察呼んだからすぐ来るって!」「おいあんた、逃げんなよ!」
人々は何もない路上に向かって「大丈夫ですか!!」と声をかけ続ける。
その様子から何かを撥ねたのだとは思うが、いかんせん、本当に私の目には相変わらず何ひとつ見えない。
一体どういうことなのか、誰かに聞きたいが、とてもそんな空気ではない。もう私の頭は真っ白で、騒ぎ立てる人々をただぼーっと眺めるしかなかった。
そこへサイレンを鳴らして救急車がやって来た。救急隊員達は見えない何かを担架に乗せて、あっという間に走り去って行った。
次にパトカーが来た。私は警官に腕を掴まれパトカーに乗せられた。
「これから村の駐在所でじっくり話を聞くからな。」
そう言った警官に私はかすれ声でどうにか質問した。
「…すみません、私は…何かを撥ねたのでしょうか…?」
警官はニヤニヤと笑って答えた。
「おう、まったく大変なものを撥ねちまったなあ。とにかく話は村の駐在所へ行ってからだ。」

***

パトカーは県道を外れ、細い道を山へ向かって登って行った。この辺りでは時々、車を残してドライバーが行方不明になるのだという。

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