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すごく短い短編集

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ショートショートショートな小説です
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超超短編小説『牛乳ウォーズ』

超超短編小説『牛乳ウォーズ』

銭湯で、風呂上がりの一杯になるための牛乳たちの戦いです

1.僕は牛乳だ

僕は牛乳だ。宮城県の蔵王産牛乳で180mlの瓶に入っている。よく銭湯の冷蔵庫に入れられてる大きさと言えばわかりやすいかもしれない。僕の隣は京都の丹後産牛乳、その隣は沖縄の宮古島産牛乳。僕達は、生産者の自慢の牛乳で産地を代表してこの冷蔵庫に入っている。

2.ここは新宿にある銭湯なんだ

今は東京の新宿区にある銭湯。喧騒から

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超短編小説「魔法のネクタイ」

超短編小説「魔法のネクタイ」

イタリアの古都を思い浮かべて書いた小説です。洋服には人を元気にする力がある。北イタリアの小さな洋品店には上質なネクタイが揃っている。ある時小さな男の子がネクタイを買いに来た。その理由とは。

1.私は紳士服の洋品店を営んでおります

ビジネスマンの方であれば、老いも若きも関係なく、ネクタイ選びを迷った経験はあるはず。
「ネクタイ」
安いネクタイでも高いネクタイでも柄選びは非常に重要です。
え、わた

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超短編小説「ハチ公秋田に帰る」

超短編小説「ハチ公秋田に帰る」

おらはハチ公。
おらは日本一騒がしい街の日本一騒がしい駅に置かれている日本一有名な銅像だす。
「けりでなあ(帰りたいなあ)」
ある月が綺麗な晩におらは家出することにした。ここからは標準語で話す。

僕は周囲の雑踏を一瞬でかき分けて、走り出した。そして静止する駅員を無視して急いで改札を突き抜けて山手線に飛び乗った。電車に乗った銅像犬は僕が初めてだろう。電車には女子高生にサラリーマン、OLに派手なお兄

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超短編小説「ホヤボーイ」

超短編小説「ホヤボーイ」

若くして亡くなった男がホヤに生まれ変わって恋人に捕獲される

生まれ変わったらホヤだった

僕は気がついたら海を漂っていた。ゆらゆらと岩に張り付いて揺れている。さっきツヤツヤと黒光りするワカメが僕の身体に触れ、ウニはじっとこちらを見ている。

海の中は静寂で、幻想的だ。昼はのんびり魚が泳ぎ、海藻がさやさやと囁き、海底を甲殻類がそーっと歩く。夜になれば魚達は遊び、貝がふわりふわりと揺れる。

僕はホ

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超短編小説「キャンディボーイ」

超短編小説「キャンディボーイ」

口の悪い男が生まれ変わったら口の中の飴だった

生まれ変わったら口の中の飴だった

ぼくは常に何かにイライラしていて、飴を食べると大抵舐め終わる前に噛んでしまう。

それに僕のイライラは他人に嫌な思いをさせないとスッキリしない。

まず、ファミレス。店に入ると一言言わないと気が済まない。
「ったく、待たせるんじゃねえ」
数分入り口で待たされただけでこの文句。
「ファミレスの店員は日本語話せねえのか

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超短編小説「ひとりで生きてない」

超短編小説「ひとりで生きてない」

僕は15歳まで母さんとしか接してない

僕はなるべく人と接しないで生きてきた。

これは僕が決めたわけじゃなくて、母さんが決めた事だ。人と関わると傷ついたり、期待を裏切られたりするからあなたはひとりで生きなさいと言われて育ってきた。

だから小学校にも行っていない。小学校でいう低学年の頃に、児童相談所の職員が何度か母を訪ねてきたが、虐待は見当たらないとのことでいつの間にか来なくなった。

それもそ

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