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超短編小説「魔法のネクタイ」

イタリアの古都を思い浮かべて書いた小説です。洋服には人を元気にする力がある。北イタリアの小さな洋品店には上質なネクタイが揃っている。ある時小さな男の子がネクタイを買いに来た。その理由とは。


1.わたくしは紳士服の洋品店を営んでおります

ビジネスマンの方であれば、老いも若きも関係なく、ネクタイ選びを迷った経験はあるはず。
「ネクタイ」
安いネクタイでも高いネクタイでも柄選びは非常に重要です。
え、わたくし?わたくしは北イタリアのヴェローナという古い都市(日本で言ったら古都金沢の...というようなもんです)のジュゼッペ・マッジ通りに面した場所で小さな洋品店を営んでいるものです。ええ、おじいさんの代からの店でして。ジュゼッペ・マッジ通り?サン・フランチェスコ橋という橋のすぐ近くですよ。私?私は店を継ぐまで、歌手として放浪してたんですよ。運河を船に乗りながら、ギター片手に歌なんざ歌ってたもんです。ピザ屋でアルバイトしていました。え?聞いてないって?ええ、ええ、お兄さん焦っちゃいけねぇや。今日お話しするのは魔法のネクタイのお話。わたくしの洋品店で取り扱っているのは、どれももちろんお洒落なものばかりです。でもそれだけじゃないんです。


2.小さなお客さま

ある時、小さな男の子がお店にやってきました。歳は6歳くらいでしょうか?手には通貨が5枚。当然これじゃあ、イタリア製の上質なネクタイは買えない。男の子はわたくしの顔を見るなり言った。
 「おじさん、ネクタイちょうだい、身に着けたら元気になるネクタイ」
わたくし、いつも よく、サラリーマンの方に「どのネクタイがいいと思う?」と聞かれることも多々ありました。そういったときは、その人のパーソナルカラーを意識して、また、いつもどんな色のスーツをお召しになることが多いかヒアリングしながら選んだりしていました。元気になるネクタイという注文は聞いたことがない。それで
「僕、ここにあるのはイタリア製の上等なものばかり。着けてるだけで、元気にはなるよ、どれを身につけてもね」
そう答えた。すると男の子は

寿命が伸びるネクタイが良い。着けたら元気になるやつだよ

そんな事を言うので訳を聞くと、なんでも男の子のお父さんは余命が幾許いくばくもないと言うんですよ。わたくしそれを聞いてこう話した。

「それならこの緑のネクタイはどうだい?このネクタイを着けて必ず寿命が伸びると保証はできない。いや、だけどねわたくしがネクタイの丁寧な結び方を教えてあげよう」

「結び方?」
男の子は聞き返す。

「結び方を4つ教えてあげよう。結びながら、その人のことを考えて元気になる話をするんだよ、そして毎日どんな風にネクタイが似合うか話してみてほしい」

3.相手を思いネクタイを結ぶとは

そう話すと、わたくしは4つの結び方を教えました。ええ、小さな子にも出来る簡単な結び方です。基本の結び方、太い結び目になるもの、ネクタイ自体を細く見せる結び方、あとはネクタイ自体を太く見せる結び方の4つでございます。
 男の子は握りしめた通貨を渡してきました。到底足りないがわたくし、そのネクタイを売りました。とびっきり上等な緑のネクタイです。
 緑色ですか?緑色は癒したりリラックスしたりする色です、お顔色も明るく見えることでしょう。数日後男の子が来ました。なんでもお父さんにネクタイをプレゼントして着けてあげた。もちろん、男の子がネクタイを結んであげたそうです。4つの結び方、楽しい話をしながらね。

入院して痩せ細ったお父さんも、きちんとした服を身に着けたいという思いがあったのでしょう。毎日毎日、ネクタイを息子が結びながら楽しい話をするので、自分もいつか外に出られるんじゃないかと体調が安定して元気な日が続いたそうです。
 長年、ビジネスマンの方にネクタイを売る仕事をしてきましたが、トータルでスーツを引き立たせる素敵な柄をお召しになっている方、ちょっと年代遅れかなと思うような柄をお召しの方、様々です。特にビジネスマンの方はスーツとネクタイの色で、仕事が成約するかどうかまでかかわってくるのではないかとい思わずにはいられません。


緑色のネクタイを毎日息子に結んでもらい身に付けたお父さんはそれからしばらくして天に召されたそうです。前日、最後にネクタイを締めた時、頬は赤く健康的に、そして口角は凛々しく上がり今にも歩き出しそうな笑顔で男の子を抱きしめたそうですよ。男の子は涙を流し嬉しそうに話してくれました。ネクタイを選ぶコツは「類似色」を選ぶことだそうで、そうすると相関的にコーディネートが崩れることはないとのことです。

4.ファッションの国イタリアで大切にされていること

ファッションの国、イタリアには「アズーロ・エ・マローネ」という言葉があり、これは

アズーロ=青
マローネ=茶

という意味だそうです。スーツが青系(寒色系)であれば、茶系(暖色系)のネクタイ、その逆もありということでしょう。
つまり、寒色系と暖色系の組み合わせが無難ということですよね。身なりがしっかりしていると、やはり「出来る人」に見えるということはあるのでしょうね。やはり、着こなしは重要ですよね。
 きちんとした身なりは人を元気にする力があるもんです。

end

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