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超超短編小説『牛乳ウォーズ』

銭湯で、風呂上がりの一杯になるための牛乳たちの戦いです

1.僕は牛乳だ

僕は牛乳だ。宮城県の蔵王産牛乳で180mlの瓶に入っている。よく銭湯の冷蔵庫に入れられてる大きさと言えばわかりやすいかもしれない。僕の隣は京都の丹後産牛乳、その隣は沖縄の宮古島産牛乳。僕達は、生産者の自慢の牛乳で産地を代表してこの冷蔵庫に入っている。

2.ここは新宿にある銭湯なんだ


今は東京の新宿区にある銭湯。喧騒から少し離れた場所にある。レトロな建物が自慢らしい。毎日僕達は必死だ、製法にもよるけど、僕達の賞味期限は製造日+1週間程度。手に取ってもらえないと廃棄になる。とにかく手に取ってもらうしかない。そのためには瓶や産地に興味を持ってもらうしかない。だから僕達は今日もお客さんに話しかけている。プレゼンしているのだ、アピールしている。だが無論人間には聞こえていない声だ。

「おら、はやぐのんでほしいなあ、うんとうめよー」

僕が話す。

「うち、はよ飲んで、おいしくなかったらかんにんな」
丹後産だ。

「いーさーいーさー」
宮古島産はのんびりしてる。

3.飲んでもらえるのは誰だ

誰か来た。中年の夫婦だ。なんか喧嘩してる。どこの産地も一緒でしょ、奥さんの方が言う。いや、俺は蔵王産がいいよ。あれ、でも、宮古産は瓶のパッケージがかわいいな、これにするか。今日の戦いは、僕と丹後産の負け。宮古島産は、パッケージがかわいい。ゆるくてレトロな男の子が笑っている。僕達は宮古島産に敗北した。ここで引き下がる訳にはいかない、飲んでもらわないと故郷の牛の母さんに怒られる。だから僕達はまた冷蔵庫の中で話し続ける。

end

(MacBook)

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