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エッセイ(家族編)

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家族を題材にしたエッセイを集めてます。家族には書いてること一切言ってないけどね。
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記事一覧

【エッセイ】父の干し芋

【エッセイ】父の干し芋

「これ、なに?」
 週末に帰省していた私は実家のリビングにぶら下がっているものを見て尋ねた。
 それは青い網でできており、籠のようで三層のそれぞれの面には何やら不格好な黄色いものが並べられていた。
「それ? ああ、お父さんが作っとる干し芋やがね。好きなの食べやあ」
 新聞を読んできた母は顔を上げて、さも当たり前のことのように答えた。

 定年退職するまで父が台所に立つ姿をあまり見たことがなかった。

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【エッセイ】40歳過ぎたら親の愛情を独り占めしたくなった

「お姉ちゃんだから我慢しなさい」
 弟や妹がいる人なら必ず一度は言われたことがあるだろう。私もこの言葉の呪縛に長く囚われていた一人だ。しかも四歳離れた妹が二人もいる。私は双子がこの世に生まれた四歳から両親を独り占めできなくなってしまったのだ。

 妹たちを最初に見たときのことは覚えていないが、母が出産のために入った手術室の前のベンチにずっと座っていたことは記憶に残っている。途中で父が医師から呼ば

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【エッセイ】おもしろい喫茶店

【エッセイ】おもしろい喫茶店

「そういえばこの前、おもしろい喫茶店に行ったんやけど」
 おもむろに母が口を開いた。
 その日はたまたま用事があり、そのついでに実家に帰っていた。約半年ぶりの帰省だ。近くのレストランで母と共にランチを食べていた最中だった。
「おもしろい喫茶店ってよく意味が分からないんだけど、どういうこと?」
 私は思わずつっこむ。コーヒーがおいしいとかサービスがいいとかはあっても、おもしろい喫茶店とは聞いたことが

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【エッセイ】愛犬が一万円を稼いできた話

【エッセイ】愛犬が一万円を稼いできた話

「お父さん、さつきが何かくわえとるよ」
 父とともに散歩から帰ってきた愛犬を見て、私は言った。
「それな、さっきから離さんのや、どれ」
 そう言って父はさつきの口に手を伸ばした。

 さつきが我が家へ来たのは30年以上も前(この事実に一番驚く)私が中学生の時だった。マイホームを建てたはいいが、数年後に単身赴任になってしまった動物好きの父が、母に黙って保健所からもらってきた犬だった。
「保健所に元気

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【エッセイ】君を最初に見た時

【エッセイ】君を最初に見た時

 今だから言うけどさ、君を最初に見た時、正直「ダサッ」って思ったんだよね。

 父さんと一緒にドイツと韓国に行った君はその後、実家の2階の物置の奥にいたね。僕が二十歳の時、大学の春休みにドイツへ1ヶ月間行くことを知った父さんが、突然君を引っ張り出してきた。
「見た目よりも頑丈だから、ドイツの石畳でも大丈夫だぞ」
 高さ60cm、幅35cm、奥行き20cmのそれ程大きくない君は、紺色の布地に母さん

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【エッセイ】ドクターイエローは両親の愛情のしるし

【エッセイ】ドクターイエローは両親の愛情のしるし

「これ、実家の近くの場所じゃない」
 5月のある日、新聞に掲載されている写真を見て、思わず呟いた。そこには黄色い絨毯のように広がる向日葵畑とその隣を通るドクターイエローが写っていた。私にはこの黄色い車体を見聞きするたびに思い出す出来事がある。

 2013年の2月、私は東京にいた。3月1日には転勤でパリへ赴任する。事前研修やビザ手続きなどのため、たった2ヶ月間だけ東京に滞在していたのだ。もともと地

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【エッセイ】御朱印帳は我が家のアルバム

【エッセイ】御朱印帳は我が家のアルバム

*このエッセイは2020年に天狼院書店HPに別名義で掲載されたものです。一部追記修正しています。

「ここから始めるから、御朱印帳買ってくる」
 そう言うと父はいそいそと御朱印帳を買いに行った。
 今でこそ御朱印がブームとなっているが、我々はその10年以上も前から先取りをしていたと父は言う。

 平成20年9月19日、それはたまたま私がニュースを見たことから始まった。金曜の夕方のニュースで「関西

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【エッセイ】土偶はアイドル

【エッセイ】土偶はアイドル

*このエッセイは2020年に天狼院書店HPに別名義で掲載されたものです。一部追記修正しています。

「土偶が欲しい」
 それは父の言葉だった。土偶、なぜ土偶なのか?その時の私の頭の中ははてなマークでいっぱいだった。

 昨年の初夏、家族旅行に行こうか、と私は両親に尋ねた。海外勤務から帰国して2年程経ち、日本での生活や職場にも慣れ、多少の余裕が出てきた頃だった。両親は意外にも乗り気だった。私は2人

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【エッセイ】三歳児、お金に目覚める

【エッセイ】三歳児、お金に目覚める

「ねぇお年玉、どうする?」
 あと数日で新年というある日、私は母に尋ねた。そろそろ実家にやってくるであろう九歳の姪っ子、八歳の甥っ子一号、そして三歳になったばかりの甥っ子二号へお年玉の準備をしなければならなかった。
「いつもと同じ、歳の数かける五百円にするわ」
 そう言って母は、棚のあるものを指差した。指の先を見ると、そこには存在感のある五百円玉貯金箱があった。両親は買い物などで五百円玉が出た時に

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川島家●●●●バラバラ事件

川島家●●●●バラバラ事件

ある日、川島家にてバラバラ事件が発生した。

【証言1】  川島 都美子
 ええ、「それ」を見つけた時はもう衝撃でした。まさかあんなことになるとは思ってもみませんでした。
 なぜそうなったのか、私には分かりません。ただ言えるのは、「それ」がバラバラになってしまったということだけです。

【証言2】  川島 正彦(川島 都美子の夫)
 妻から話を聞き、最初は信じられませんでした。そんなことが起こりう

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【エッセイ】母とイタチ

【エッセイ】母とイタチ

「この前家の前を掃除しとったら、何見たと思う?」

 いきなり母が尋ねてきた。それまでしていた話となんら脈絡はない。いきなりの質問に私は首を傾げた。
「何って、猫か何か?」
 何かって何だよ、自分の発言に心の中でツッコみながらも聞く。
「ダンゴが歩いていたの?」
 ダンゴとは隣の家の猫だ。私が小さい時から隣におり、かなりの長生きだ。我が家では密かにネコマタなんじゃないかと思われている。
「それが、

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【エッセイ】墓地は生きていることを感謝する場所かもしれない

【エッセイ】墓地は生きていることを感謝する場所かもしれない

川島 太一

「お花、出してね。ハサミも忘れずにね」
 車から出る際に母が父に声をかける。暑い日差しの中、私たちは父の生家近くに墓参りに来ていた。ちょうど去年のお盆の時期だった。

 私の両親はマメに墓参りをする。お盆やお彼岸はもちろん、年末や何か行事がある際は必ず来ているらしい。実家から離れて暮らしている私は、帰省するお盆の時期に一緒に行くことが多かった。

 両親が住んでいる家から30分程離

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【エッセイ】父からの「読書」というプレゼント

【エッセイ】父からの「読書」というプレゼント

私は俳優だ。と言っても、職業としてではなく、普段の生活の中で俳優になる時間があるということだ。例えば、ノンタンとブランコで遊んだり、ファルコンと一緒に空を飛んだり、アラゴルンとともに指輪を探す旅に出たり。私はさまざまな場所や時代に行くことができ、俳優として主人公を演じ、他の登場人物たちとともにいる。私にとって本は映画監督であり、読書は私を俳優にしてくれる特別な時間なのだ。

世の中には本好きの人が

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