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毎週ショートショートnote

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たらはかに(田原にか)さんが毎週日曜日にお題を出し、そのお題に沿ったショートショートを書く企画です。
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#怖い話

失恋墓地|毎週ショートショートnote

失恋墓地|毎週ショートショートnote

「よう、マスター」

私が右手を上げると、マスターは「いらっしゃいませ」と小さく会釈した。相変わらずオールバックがキマっている。もう10年来の付き合いたが、マスターの外見は全く変わらない。

カウンターの中心から、少し左の席に座る。

「水割りでよろしいですか?」
「ああ、頼むよ」

このバーで水割り以外の酒を頼んだことがない。いや、そもそも水割り以外の酒は置いてあるんだろうか。

「今月は1通だ

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洞窟の奥はお子様ランチ|毎週ショートショートnote

洞窟の奥はお子様ランチ|毎週ショートショートnote

電車の中で、赤ん坊の泣き声が響き渡った。その瞬間、友人がすっと席を立つ。「降りよう」という無言のアピールだ。
今まで何度か同じことがあり、僕は「赤ん坊の泣き声が苦手なんだろう」と、特に何も言わなかった。しかし、苦悶の表情を浮かべ、「はぁ」とため息をついてプラットホームのベンチに座る友人に、思わず「そんなにイヤなの?」と聞く。

「いや、違うんだ」

次の言葉を待つ。

「俺の実家は長野の山奥で、夕

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ドローンの課長|毎週ショートショートnote

ドローンの課長|毎週ショートショートnote

「よーし! あと10分で復元完了だ!」
「まったく、あのドローン課長、手間かけさせやがって……」

俺は同僚の池田と一緒に、ある動画の復元作業をしていた。ドローンで撮影された4K動画で、しかも削除した人物が動画データを簡単に復元できないように徹底的に破壊したため、復元に34時間もかかった。

その動画は……1年前に北海道遺産に認定された、オホーツク地方の留遠別遺跡群。

遺跡を撮影し、そして削除し

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夜光おみくじ|毎週ショートショートnote

夜光おみくじ|毎週ショートショートnote

「なぁ、弥呼卯神社のあるところって、お前の地元じゃねぇの?」

同僚の倉田が突然聞いてきた。
俺は「そうだけど」と短く答える。

「これ見ろよ」

倉田が差し出したスマホには、全国の都市伝説を掲載したサイトが表示されていた。

『○○県○○市にある弥呼卯神社で引いたおみくじは、夜になると書いてある内容が変わる』

「これって本当なのか?」
「そんなわけないだろう?」

倉田は「だろうな」と言い、仕

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白骨化スマホ|毎週ショートショートnote

白骨化スマホ|毎週ショートショートnote

DF25S7W500H91

警察からスマートフォンを預かり、製品番号をメモする。

――白骨遺体か……。

スマホの持ち主の成れの果てを知り、少しだけ背筋が寒くなった。

「えーと、DF25S7、W500H91……」

会社のパソコンに、さっきのスマホの製品番号を打ち込む。

みんな携帯電話の製品番号なんて気にしたことはないだろうが、実は電話会社や携帯端末製造会社の間では、この製造番号に特別に気

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強すぎる数え歌|毎週ショートショートnote

強すぎる数え歌|毎週ショートショートnote

真っ直ぐ行けば、遠回り。

右に曲がれば、鉢合わせ。

左に曲がれば、真っ逆さま。

昔、俺が住んでいた田舎にあった歌だ。でも、この歌が何を意味するかは知らない。

中学の時、通学路の途中に小高い丘があり、その丘は雑木林になっていて、不気味なので、みんなその丘を迂回する小道を通っていた。
ある時、付近一帯が再開発されることになり、例の丘の木々はほとんど切り倒され、前よりも不気味さはなくなった。部活

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ご飯杖|毎週ショートショートnote

ご飯杖|毎週ショートショートnote

茶碗に盛ったご飯に箸を立てて、故人にお供えする「枕飯」、もしくは「一膳飯」という風習を言っている人は多いと思う。しかし、私の祖父母が住んでいる田舎ではちょっと違い、ご飯に箸ではなく菜箸を立てて、それを杖に見立てる「ご飯杖」というものだった。なぜ菜箸なのか、なぜそれを「杖」に見立てているのか、私は知らなかったし、別に知りたいとも思わなかった。

その日、祖母のお葬式を滞りなく終え、ちょっと休憩してい

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