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ご飯杖|毎週ショートショートnote

茶碗に盛ったご飯に箸を立てて、故人にお供えする「枕飯まくらめし」、もしくは「一膳飯いちぜんめし」という風習を言っている人は多いと思う。しかし、私の祖父母が住んでいる田舎ではちょっと違い、ご飯に箸ではなく菜箸さいばしを立てて、それを杖に見立てる「ご飯杖はんづえ」というものだった。なぜ菜箸なのか、なぜそれを「杖」に見立てているのか、私は知らなかったし、別に知りたいとも思わなかった。

その日、祖母のお葬式を滞りなく終え、ちょっと休憩していると、突然祖父の悲鳴が聞こえた。慌てて駆け付けると、祖父が祖母の遺影に手を合わせながら「許してくれぇ……許してくれぇ……」と呟いている。

「どうしたの?」
「ご飯杖が……」

祖父は震えながら、供えられているご飯杖を指差した。

杖――菜箸が倒れている。

「一体どういうこと?」
「あいつは……ワシを恨んでるんだ」

ご飯杖が倒れるというのは、故人がこの世に強い未練を残している、もしくは家族の誰かを恨んでいるからだ、と。

「そんなことないよ! あんなに仲良かったんだから!」

そう言っても、祖父は「許してくれぇ……許してくれぇ……」と繰り返すばかりだった。

数日後、祖父は仏壇の前で首を吊った。

その手には、ご飯杖に使われていた菜箸が握られていたと言う……。

(了)


たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」、今週のお題は「ごはん杖」です。


先週のお題は「親切な暗殺」でした。

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