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スイーツのお部屋

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#スイーツ

熱い心にかき氷を

熱い心にかき氷を

ベランダに独り佇むウサギは、静かに空を見上げていた。淡い雲がゆっくりと流れ、雨を降らせるのか、それとも静かに消えていくのか、迷っているかのようだった。
「今日は七夕ね。天の川は見えるのかな」

部屋に戻り小さな本棚の前に立つと、一冊の絵本で指を止めた。彼女は窓辺に腰を下ろすと、ゆっくりとページをめくり始めた。

「天女と人間って、本来は結ばれる運命じゃないのに、うしかいは織姫を妻にしちゃうんだから

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短冊に願いを乗せて

短冊に願いを乗せて

小雨が降る中、ウサギとカメは桜木町駅に降り立った。ランドマークタワーに向けて歩き出すと、足早に歩く人の頭の上で、小さな傘が強い風に揺れていた。

「梅雨の季節だからこそ、楽しめる事もあると思うの。こんな日の展望台も悪くないわ」ウサギは風になびく長い髪をかき上げながら、そっとタワーを見上げた。

SKY GARDEN までエレベーターは音もなく滑るように進み、地上273メートルの高さまで、わずか40

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天の川に寄せる想い

天の川に寄せる想い

その日、ウサギとカメはそごう美術館の「KAGAYA 天空の贈り物展」を訪れていた。星空の写真に囲まれ、その幻想的な世界に引き込まれた二人は、瞬きさえも忘れ、その美しさに心を奪われていた。

作品の中では四季の星座が優雅に瞬き、またある時は、空に浮かぶ月が日本の風景に穏やかに溶け込んでいた。その光景は、どこか夢のような神秘を帯び、まるで物語の一幕のようだった。

「これは北海道のハルニレの木なのね。

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雨の季節の甘い出会い

雨の季節の甘い出会い

その日、下北沢の真ん中でウサギはとてもご機嫌だった。シャツの入った袋を胸にしっかりと抱きしめると、宝物を手に入れたような幸福感に浸りながら、周囲の視線を気にすることもなく、その場で一回転して飛び跳ねた。

「この街を歩くと、どういうわけか古着が欲しくなるの」と彼女は言った。

笑顔を振りまきながら歩いていたウサギは、ふと足を止めた。
「シーズンメニューあじさい?」
ウサギは少し首を傾げて写真に近づ

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幸せの名はかき氷

幸せの名はかき氷

「ここだわ! 」カメの手を引いたウサギは足を止めた。「人気店だから行列も覚悟していたけれど、今なら直ぐに入れそうだわ。私の日頃の行いのおかげね!」かき氷専門店の入り口で、彼女は満足そうに微笑んだ。

「私を悲しませた罰ね」と、ウサギに罰ゲームを言い渡されたカメは、全く心当たりのないまま、彼女の選んだかき氷専門店に連れてこられていた。ウサギが選んだのは『雪うさぎ』というお店だった。

「友だちが去年

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丁寧に重ねられた時間

丁寧に重ねられた時間

春の気配がふんわりと漂う中、ウサギとカメはデパ地下の小道をのんびりと歩んでいた。平日だというのに、ショーウィンドウの前には目を輝かせる人々が群がり、賑やかな空気が流れていた。

ウサギはショーウィンドウをのぞき込むと、「ホワイトデーにはやっぱりバームクーヘンがいいわね。3月4日はバームクーヘンの日なんだって」と、つぶやいた。その声にはプレゼントを待つ、軽やかな期待が込められていた。

ぐるりとショ

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ご褒美はスイーツとともに

ご褒美はスイーツとともに

一筋の雨が、ゆっくりと窓ガラスを流れた。中目黒の街は静かな雨音を奏でながら、春の訪れを待ちわびていた。ウサギとカメは目黒川に沿って歩きながら、日本にただ一つの、焙煎機を備えたスターバックス リザーブ ロースタリーへと足を運んでいた。

店内に足を踏み入れると、コーヒー豆を焙煎する香りがウサギとカメを出迎えた。それでも、二人が向かったのは紅茶の世界だった。2階のティバーナにたどり着くと、ウサギの目は

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マロンケーキの誘惑

マロンケーキの誘惑

肌寒い冬のある日、図書館の閑静な空気の中で、カメは物語の世界に深く没頭していた。そこへウサギが静かに近づき優しい声でささやいた。「今日もたくさん画集を見てきたわ。そろそろ帰らない?」彼女の声はカメの心に穏やかな波を起こし、彼を現実に引き戻した。

帰り道に二人が訪れたのは、図書館からほど近い小さなスイーツショップだった。コートをハンガーにかけて、椅子に腰を下ろしたウサギは、いつものようにアールグレ

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