アーティスト、シアスター・ゲイツによるシカゴ再生の軌跡
シカゴの街角に新たな息吹を吹き込む、アーティスト、シアスター・ゲイツの活動を紹介します。1973年、シカゴ生まれのこの多才なアフリカ系アメリカ人アーティストは、陶芸、彫刻から音楽、パフォーマンス、映像まで、幅広い分野でその才能を発揮しています。今回は、彼の地域再生への情熱的な取り組みを、森美術館で開催されている「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」を通じて紹介します(2024年4月24日〜9月1日)。
シアスター・ゲイツ、地域再生の原点
アイオワ州立大学で都市計画と陶芸を学んだゲイツ氏は、2004年、初来日し、愛知県常滑で陶芸を学びました。陶芸を通じて「無から有を創り出す」ことの魅力と、それが都市の再生にも応用できることを見出しました。
シカゴ南部のグランド・クロッシング地区に住むゲイツ氏は、かつて栄えていたこの地域が、住宅価格が下落し空き家が増え、衰退していく様に直面しました。そこで、建築家、エンジニア、不動産ブローカーなどと一緒に再生することはできないかと考えるようになり、一軒の空き家を購入しました。
通常のリノベーションとは異なり、解体して出てきた板を再利用し、閉店した書店から譲り受けた14,000冊の本を並べる書棚をつくったり、建物の外壁にしたりという工夫を行いました。中古材料を利用することで、街の歴史、労働の歴史を刻むユニークなアプローチをとりました。
文化活動による経済活性化
建物を購入したことで資金不足に陥りましたが、ゲイツ氏は改築した建物での掃除パフォーマンスを皮切りに、展示会や食事会を開催。やがて、これらの活動は地域コミュニティだけでなく、著名人をも引き寄せるようになり、街の変革を加速させました。
代表的なプロジェクト
リノベーション時の端材で作品を制作し、販売することで次の建物の購入資金にあて、これまでに40軒以上の空き家を作り変えてきました。代表的なものに次のようなものがあります。
The Listening House: 音楽とサウンドアートに特化した施設。閉店したレコード店の LPレコード8,000枚を全て買取り収蔵している。
Stony Island Arts Bank: かつての銀行をアートギャラリー、図書館、アーカイブ、コミュニティスペースとして再生。アフリカ系アメリカ人の文化に光を当て、展示やイベントを定期的に開催。
Dorchester Art + Housing Collaborative:公営住宅団地を2〜3LDKの賃貸物件として再開発。アートに関心のある住民とアーティストをつなぐプロジェクトとなった。
St. Laurence Elementary School:2002年に閉鎖され取り壊される予定だった学校。取り壊しは、シカゴでの有色人種コミュニティの社会的・経済的な発展を阻むことを想起させた。ゲイツ氏が購入し、アーティスト・スタジオや教室として生まれ変わった。
これらのプロジェクトを通じて、ゲイツ氏は、古い建物をただ新しくするのではなく、文化を継承し地域社会に新たな価値をもたらすことを目指しています。建物を緑地帯でつなぐことで、文化を継承する「小さなベルサイユ宮殿」を創りたいという彼のビジョンは、アートを通じた都市の再生という、新たな道を切り開いています。
文化が引き起こす変革
街づくりを行うときに、アートを手段にすることはよくあります。ゲイツ氏も、そのような考えをもつ人たちから相談を受けると言います。しかし、手段として取り入れた場合、街が活性化したら必要なくなってしまいかねません。
一方、ゲイツ氏は、アートを目的にすべきと考えています。アーティストの独創的な発想と行動が、従来の経済システムや都市開発の枠を超え、新しい街づくりを提示してくれます。このように、文化活動と経済活動を両立させながら、歴史と文化を尊重した活性化が、これからの都市開発に必要なのです。
シアスター・ゲイツの挑戦は、アートがいかに社会に影響を与えるか、その力を見せつける事例です。アーティストらしい思考の飛躍と突破力が発揮されています。彼の物語から、私たちも課題解決に際し、従来の常識を超えたアイデアを考え出すこと、長期的な視点で周りを変えていくことに挑戦していきましょう。
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