のざき

戦争反対

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    旅行のことを書いた文章をまとめてます。

  • 日記の一ヶ月

    7/7-8/7 2023

  • ひととせ

    2021年9月から2022年8月までの記録。

記事一覧

固定された記事

朝顔

 大学生の頃、コーヒーを無糖で飲めるようになった。自分も大人になったのだと妙に誇らしかった。喫茶店で一人、ようわからん本を捲りながらコーヒーカップに唇を当てる。…

のざき
1か月前
6

硝子窓

 仕事が終わり、黄昏れる道を自転車で走る。犬と散歩している人たちや、マクドナルドで談笑しながら勉強している生徒たちを横目で見やる。タイヤの空気が緩んでいるから、…

のざき
1か月前
3

雑感のアソートメント

・「疲れているからこそ会いたい」。仕事終わりで身体は鈍っていたけれど、恋人をデートに誘った。これまで人付き合いというのをまともにしたことがなかったので、疲れたと…

のざき
2か月前
5

ふたり旅(京都篇)

 一月末に京都を恋人と訪れた。二泊三日の旅行だった。 一日目 嵐山 正午、京都駅はすでに賑やかだった。どこを見渡しても観光客の姿があり、僕らと同じようにキャリー…

のざき
3か月前
5

KYOTO

のざき
3か月前
2

悪いことは重なるなあ

 つらいことが続いている。僕の身には何も起こっていないけれど、それがまたつらい。初めて聞く地名の人、身の回りの人、自分以外の人々の苦しみに、僕ができることは何だ…

のざき
4か月前
3

MANGA YONDA

 売野機子さんの『インターネット・ラヴ!』を読んだ。売野さんのお名前は以前から存じ上げていたものの、まさかBL(ボーイズラブ)作品を発表されるとは思わなかった。X…

のざき
4か月前
3

黄金

 「自分の機嫌は自分でとる」という言葉を聞くけれど、いまだに上手くできない。安易に憂鬱を引き連れたり、涙を受けとめてくれる掌を求めたりする。溢れ出す感情を隠せな…

のざき
4か月前
2

 夜更けとともに、雨が降り始めた。車のフロントガラスにびっしりと並ぶ透明な粒が、スーパーマーケットの明かりを受けて、ときどき砂金のように輝きを放つ。僕は恋人の運…

のざき
6か月前
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季節の再読

 ある日の晩、顎ひげを剃っているときにふと、一着のサマージャケットのことを思い出した。それは、僕が大学生として一人暮らしを始めて間もない頃に、両親から送られてき…

のざき
6か月前
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リバー

 朝からどこか優れないところがあった。  別段、風邪っぽいとか仕事でやらかしたとか、そういう目立ったものがあるわけではない。だけど、確かな実感があった。シャツの…

のざき
7か月前
1

小世界

 仕事がお休みの日は、つい昼寝に明け暮れてしまう。さまざまな夢を転々としているうちに夕方になっていて、空っぽの頭で食卓に向かう。家族と晩ご飯を済ませたあとで、今…

のざき
8か月前
2

凪をこえて

 母との買い物のために外へ出た。もう日は暮れていて、街灯がちらちらと光っている。ひと月前であれば、この時間帯でも空は明るさを保っていたはずだ。夜風の涼しさに季節…

のざき
8か月前
1

ひとり旅(大阪篇)

はじめに  この文章を読んでくれているあなたは、Weezerというアメリカのロックバンドを知っているだろうか。職場の人に「今度ライブ観に行くんですよ」と話すと、みんな…

のざき
9か月前
5

8/7 2023

・友達がWeezerの『Weezer(Black Album)』を買って「一番好きなんだけどなぜか買ってなかったんだよね〜」と言ったとき、僕も一番好きなのに「へえ〜フフ」としか返せなかっ…

のざき
9か月前
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8/6 2023

・ここ最近、体調が悪いような気配をずっと感じてるのだけど、別に食欲も問題ないし仕事に支障が出ているわけでもないので、よくわからないなあ〜って思ってる。あからさま…

のざき
9か月前
1
朝顔

朝顔

 大学生の頃、コーヒーを無糖で飲めるようになった。自分も大人になったのだと妙に誇らしかった。喫茶店で一人、ようわからん本を捲りながらコーヒーカップに唇を当てる。口の中に香りが広がる。ほろ苦いような、ほんのり酸っぱいような、難しい味を愉しんだ。でもそれはただ、僕の味覚が鈍ってきたからなんだろう。コーヒーを飲むことに慣れたせいで、本来の苦みをうまく感じられなくなってしまったんだろう。

 季節は流れて

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硝子窓

 仕事が終わり、黄昏れる道を自転車で走る。犬と散歩している人たちや、マクドナルドで談笑しながら勉強している生徒たちを横目で見やる。タイヤの空気が緩んでいるから、坂道を越えるのに苦労した。全身が強張った。それから、風に乗るようにゆっくりと駆け下りていく。

 いまの仕事に就いて何年も経つ。ありがたいことに、大きな役割も与えられている。この春からはより一層、肩にのしかかる荷が増えるだろう。求められるこ

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雑感のアソートメント

雑感のアソートメント

・「疲れているからこそ会いたい」。仕事終わりで身体は鈍っていたけれど、恋人をデートに誘った。これまで人付き合いというのをまともにしたことがなかったので、疲れたときには休むものだとずっと信じていた。しかし、ある日恋人に言われた言葉が忘れられなくて、自分も実行してみることにした。

 平日の夜、コメダ珈琲店はそれほど人がいなかった。隅っこの二人席に腰かける。お店に流れる、甘美な音楽のせいでまぶたが重い

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ふたり旅(京都篇)

ふたり旅(京都篇)

 一月末に京都を恋人と訪れた。二泊三日の旅行だった。

一日目 嵐山 正午、京都駅はすでに賑やかだった。どこを見渡しても観光客の姿があり、僕らと同じようにキャリーバックを引いて歩いている。髪の色も肌の色もさまざまで驚いた。

 僕らはまずJR山陰本線に乗り、嵯峨嵐山駅を目指した。乗客が多いので吊り革をつかむ。すぐそばの席で日本人らしき女性が外国人らしき二人組に英語で何やら話をしているので、雑音をか

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悪いことは重なるなあ

 つらいことが続いている。僕の身には何も起こっていないけれど、それがまたつらい。初めて聞く地名の人、身の回りの人、自分以外の人々の苦しみに、僕ができることは何だろうか。

 インターネット上の知り合い(と言ってもその人の顔も本名も知らない)が、しばらく何の音沙汰もないので心配していたところ、亡くなったという報せが入ってきた。本当に突然のことだった。おそらく、まだ三十代。少し前にはライブに行っていた

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MANGA YONDA

MANGA YONDA

 売野機子さんの『インターネット・ラヴ!』を読んだ。売野さんのお名前は以前から存じ上げていたものの、まさかBL(ボーイズラブ)作品を発表されるとは思わなかった。X(旧ツイッター)のほうでこの作品をオススメしているポスト(旧ツイート)を見かけ、試し読みをしてみたら一気に惹きこまれた。

 「SNSの投稿をきっかけに韓国の一般人「ウノくん」を好きになった、ネイリストの「美祈」。ただ彼の投稿を追っかけて

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黄金

黄金

 「自分の機嫌は自分でとる」という言葉を聞くけれど、いまだに上手くできない。安易に憂鬱を引き連れたり、涙を受けとめてくれる掌を求めたりする。溢れ出す感情を隠せないときがある。そんな自分を責めて、ぬるい湯船の中で反省する。

 冬の寒さが厳しくなる頃、心身の調子を崩した。先に身体、それから心という順番。繁忙期でもないのになぜか仕事が慌ただしくて、家に帰ればすぐ布団に潜って朝までスキップした。働く日々

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 夜更けとともに、雨が降り始めた。車のフロントガラスにびっしりと並ぶ透明な粒が、スーパーマーケットの明かりを受けて、ときどき砂金のように輝きを放つ。僕は恋人の運転する車の助手席に腰かけ、雨音に耳を傾けていた。僕たちに行くあてはもうなかったけれど、かと言って解散を切り出す度胸もないまま、駐車場で時間だけが過ぎていった。雨の雫が、周りの雨粒を道連れにしながら、フロントガラスを真っすぐに滑り落ちていく。

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季節の再読

季節の再読

 ある日の晩、顎ひげを剃っているときにふと、一着のサマージャケットのことを思い出した。それは、僕が大学生として一人暮らしを始めて間もない頃に、両親から送られてきたものだった。薄手の白い生地に、水色の細い線が縦縞に入っている。白状すると、若すぎた僕はそれを気に入らず、一度も袖を通すことすらなかった。そして大学を卒業して故郷に戻るタイミングで、僕は無情にも、それをビニル袋に詰めて捨ててしまった。

 

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リバー

リバー

 朝からどこか優れないところがあった。

 別段、風邪っぽいとか仕事でやらかしたとか、そういう目立ったものがあるわけではない。だけど、確かな実感があった。シャツのボタンが一つずつ掛け違えているような、悲しいくらいのぎこちなさがあった。

 こちらに向かってくる人を避けたり、何気ない会話に適度な相槌をうったりするような、些細なやりとりでさえ難しく感じる。身体は重たくなり、口はかたく閉じられる。ふと窓

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小世界

小世界

 仕事がお休みの日は、つい昼寝に明け暮れてしまう。さまざまな夢を転々としているうちに夕方になっていて、空っぽの頭で食卓に向かう。家族と晩ご飯を済ませたあとで、今こうして文章を書いている。

 一週間のリズムは、どの週もほとんど似かよっていて、変わり映えがない。平日は朝から日暮れまで八時間まで働いて、休日は家でだらだら過ごしたり恋人と出かけたりする。先週の記憶はもう覚束ない。波のように時間は巻き戻り

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凪をこえて

凪をこえて

 母との買い物のために外へ出た。もう日は暮れていて、街灯がちらちらと光っている。ひと月前であれば、この時間帯でも空は明るさを保っていたはずだ。夜風の涼しさに季節の変わり目を肌で感じ、今年ももうすぐ終わってしまうのかと、ちょっと寂しくなった。

 仄暗い道を、母と雑談しながら進んでいく中で、僕はふと文章を書きたいという気持ちに駆られた。これはここ最近の悩みの種だった。文章への意欲はあるのに、僕の生活

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ひとり旅(大阪篇)

ひとり旅(大阪篇)

はじめに

 この文章を読んでくれているあなたは、Weezerというアメリカのロックバンドを知っているだろうか。職場の人に「今度ライブ観に行くんですよ」と話すと、みんな気をつかって「え、誰のライブなの?」と聞いてくれたけど、海外のバンドだと伝えるとそこから先は尋ねられなかった。そう、僕はWeezerのライブを観るために大阪へと向かった。実はもう一つ密かな目的があったのだけど、それはまたあとで。

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8/7 2023

・友達がWeezerの『Weezer(Black Album)』を買って「一番好きなんだけどなぜか買ってなかったんだよね〜」と言ったとき、僕も一番好きなのに「へえ〜フフ」としか返せなかったのはなぜだ。そのあとの飲みの席で「サニーデイ・サービスがやっぱ好きで〜、新しいアルバムも本当よくって…」と話してる友達に「よかったよね〜、僕は「ノー・ペンギン」が好きだったな〜」と打ち明けられなかったのはなぜだ。

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8/6 2023

・ここ最近、体調が悪いような気配をずっと感じてるのだけど、別に食欲も問題ないし仕事に支障が出ているわけでもないので、よくわからないなあ〜って思ってる。あからさまにしんどいと休みをとって療養できるのに、「気配」だけ感じさせてるから本当タチが悪い。

・友達のことを考えている。まだお互いに学生だった頃、やや頻繁に連絡を取り合っていて、僕にとって彼は大事なつながりだった。まるで天からぶら下がっている蜘蛛

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