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MANGA YONDA

 売野機子さんの『インターネット・ラヴ!』を読んだ。売野さんのお名前は以前から存じ上げていたものの、まさかBL(ボーイズラブ)作品を発表されるとは思わなかった。X(旧ツイッター)のほうでこの作品をオススメしているポスト(旧ツイート)を見かけ、試し読みをしてみたら一気に惹きこまれた。

 「SNSの投稿をきっかけに韓国の一般人「ウノくん」を好きになった、ネイリストの「美祈」。ただ彼の投稿を追っかけているだけで幸せだと思っていたけれど、彼に恋人ができてショックを受ける。そんな中、ある日突然自分の投稿に彼からメッセージが送られてきて…」というのがざっくりとした触りの部分になるだろうか。

 もちろんフィクションだから「うっそぉん〜」と思ってしまうような展開もあるのだけど、それ以上に、BL作品として素晴らしかった。だれかを好きになるということの危なっかしさと高揚感。胸のあたりで熱っぽい恥ずかしさが昇華した。自分の好意が身を結ぶのか結ばないのか、頼りない綱渡り。それでも物語は坂を上るように、朝の太陽へ向かうように、読み手の歓びを高めてくれる。

 読んでいて、いくつか「いいなあ」と感じる点があった。まず一つ目が、美祈のまわりの人びとだ。美祈は自分の元恋人や職場の人、そして両親に対しても、自分がバイセクシュアルであることをカムアウトしているようだけど、どの人も彼を拒絶しようとしない(両親の「理解」の仕方はユニークだけれど、ここまでしてくれる両親はかなり稀有だと思う…)。美祈が「おれさ、男も好きじゃん?」と言うと相手から「モテへんけどな」が返ってくる、その間柄に驚き、感心した。これらも、もしかするとフィクションだからこそなのかもしれないけれど、素直に羨ましかった。

 二つ目はバイセクシュアルの「孤独感」が伝わってきたところ。美祈が漏らした「おれみたいなのって真剣には付き合ってもらえないんですもん」「どうせ最後は女の子のところに行くと思われて」「クィアの中でも見えない存在って感じで」という言葉がやけに印象に残った。自分の好意の真剣さが伝わらず、相手にされない淋しさ。性的マイノリティの中でもそれほどシリアスに注目してもらえない(ように僕は感じている)空しさ。僕はこういう描写に触れるのが初めてだったので、かなり新鮮だった。

 それから、美祈がウノくんのネイルを塗るシーンがものすごく愛おしくて、このシチュエーションに憧れを抱いてしまうぐらい、いいなあと思った。指と指が触れあい、好きな人の爪が自分の色で彩られる。今までネイルをしたいと考えたこともなかったけれど、初めて興味が湧いた。

 この作品の魅力をうまく説明できた自信はないけれど、誰かがこの作品を知るきっかけになってほしいと思う。現実の方はまだまだ性的マイノリティへの理解は乏しいし、差別もあるし、カムアウトもかなりの勇気を伴う。たとえ空想でも、とっても幸せな恋物語を見ることができて嬉しい。まだまだ語りたいこと(SNSの扱い方であったり作画の特徴であったり承認欲求の話だったり………)はあるけれど、とりあえずこの辺で…!

😊🍭