のざき

戦争反対

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    旅行のことを書いた文章をまとめてます。

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    7/7-8/7 2023

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    2021年9月から2022年8月までの記録。

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朝顔

 大学生の頃、コーヒーを無糖で飲めるようになった。自分も大人になったのだと妙に誇らしかった。喫茶店で一人、ようわからん本を捲りながらコーヒーカップに唇を当てる。口の中に香りが広がる。ほろ苦いような、ほんのり酸っぱいような、難しい味を愉しんだ。でもそれはただ、僕の味覚が鈍ってきたからなんだろう。コーヒーを飲むことに慣れたせいで、本来の苦みをうまく感じられなくなってしまったんだろう。  季節は流れて、僕はいま似たようなことを考えている。強くなると言うことは、鈍感になることなのか

    • 硝子窓

       仕事が終わり、黄昏れる道を自転車で走る。犬と散歩している人たちや、マクドナルドで談笑しながら勉強している生徒たちを横目で見やる。タイヤの空気が緩んでいるから、坂道を越えるのに苦労した。全身が強張った。それから、風に乗るようにゆっくりと駆け下りていく。  いまの仕事に就いて何年も経つ。ありがたいことに、大きな役割も与えられている。この春からはより一層、肩にのしかかる荷が増えるだろう。求められることは嬉しいし、周りからの期待は実感しているけれど、ときどき息が切れる。引くに引け

      • 雑感のアソートメント

        ・「疲れているからこそ会いたい」。仕事終わりで身体は鈍っていたけれど、恋人をデートに誘った。これまで人付き合いというのをまともにしたことがなかったので、疲れたときには休むものだとずっと信じていた。しかし、ある日恋人に言われた言葉が忘れられなくて、自分も実行してみることにした。  平日の夜、コメダ珈琲店はそれほど人がいなかった。隅っこの二人席に腰かける。お店に流れる、甘美な音楽のせいでまぶたが重い。一つのケーキを分け分けして食べ合い、苦いコーヒーを啜る。どんな内容だったのか思

        • ふたり旅(京都篇)

           一月末に京都を恋人と訪れた。二泊三日の旅行だった。 一日目 嵐山 正午、京都駅はすでに賑やかだった。どこを見渡しても観光客の姿があり、僕らと同じようにキャリーバックを引いて歩いている。髪の色も肌の色もさまざまで驚いた。  僕らはまずJR山陰本線に乗り、嵯峨嵐山駅を目指した。乗客が多いので吊り革をつかむ。すぐそばの席で日本人らしき女性が外国人らしき二人組に英語で何やら話をしているので、雑音をかいくぐるように耳を傾けてみる(なるほど、わからん)。嵯峨嵐山駅に着いて扉が開くと

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        記事

          悪いことは重なるなあ

           つらいことが続いている。僕の身には何も起こっていないけれど、それがまたつらい。初めて聞く地名の人、身の回りの人、自分以外の人々の苦しみに、僕ができることは何だろうか。  インターネット上の知り合い(と言ってもその人の顔も本名も知らない)が、しばらく何の音沙汰もないので心配していたところ、亡くなったという報せが入ってきた。本当に突然のことだった。おそらく、まだ三十代。少し前にはライブに行っていたし、大きな病気を患っている様子もなかった。僕はその人と親しい間柄ではなかったけれ

          悪いことは重なるなあ

          MANGA YONDA

           売野機子さんの『インターネット・ラヴ!』を読んだ。売野さんのお名前は以前から存じ上げていたものの、まさかBL(ボーイズラブ)作品を発表されるとは思わなかった。X(旧ツイッター)のほうでこの作品をオススメしているポスト(旧ツイート)を見かけ、試し読みをしてみたら一気に惹きこまれた。  「SNSの投稿をきっかけに韓国の一般人「ウノくん」を好きになった、ネイリストの「美祈」。ただ彼の投稿を追っかけているだけで幸せだと思っていたけれど、彼に恋人ができてショックを受ける。そんな中、

          黄金

           「自分の機嫌は自分でとる」という言葉を聞くけれど、いまだに上手くできない。安易に憂鬱を引き連れたり、涙を受けとめてくれる掌を求めたりする。溢れ出す感情を隠せないときがある。そんな自分を責めて、ぬるい湯船の中で反省する。  冬の寒さが厳しくなる頃、心身の調子を崩した。先に身体、それから心という順番。繁忙期でもないのになぜか仕事が慌ただしくて、家に帰ればすぐ布団に潜って朝までスキップした。働く日々の中で僕が下す決断。僕の部署には二十人の同僚がいるから、さまざまな色合いの視線が

           夜更けとともに、雨が降り始めた。車のフロントガラスにびっしりと並ぶ透明な粒が、スーパーマーケットの明かりを受けて、ときどき砂金のように輝きを放つ。僕は恋人の運転する車の助手席に腰かけ、雨音に耳を傾けていた。僕たちに行くあてはもうなかったけれど、かと言って解散を切り出す度胸もないまま、駐車場で時間だけが過ぎていった。雨の雫が、周りの雨粒を道連れにしながら、フロントガラスを真っすぐに滑り落ちていく。ただそれを眺めてみる。  僕は、はっきりと理解していた。恋人が抱えている問題と

          季節の再読

           ある日の晩、顎ひげを剃っているときにふと、一着のサマージャケットのことを思い出した。それは、僕が大学生として一人暮らしを始めて間もない頃に、両親から送られてきたものだった。薄手の白い生地に、水色の細い線が縦縞に入っている。白状すると、若すぎた僕はそれを気に入らず、一度も袖を通すことすらなかった。そして大学を卒業して故郷に戻るタイミングで、僕は無情にも、それをビニル袋に詰めて捨ててしまった。  そのサマージャケットのことを、なぜか最近思い出したのだ。たぶん、衣替えの季節だか

          季節の再読

          リバー

           朝からどこか優れないところがあった。  別段、風邪っぽいとか仕事でやらかしたとか、そういう目立ったものがあるわけではない。だけど、確かな実感があった。シャツのボタンが一つずつ掛け違えているような、悲しいくらいのぎこちなさがあった。  こちらに向かってくる人を避けたり、何気ない会話に適度な相槌をうったりするような、些細なやりとりでさえ難しく感じる。身体は重たくなり、口はかたく閉じられる。ふと窓の方に視線を移すと、気持ちいいぐらいの青空なのに、心の方は雨降りのときの暗がりに

          小世界

           仕事がお休みの日は、つい昼寝に明け暮れてしまう。さまざまな夢を転々としているうちに夕方になっていて、空っぽの頭で食卓に向かう。家族と晩ご飯を済ませたあとで、今こうして文章を書いている。  一週間のリズムは、どの週もほとんど似かよっていて、変わり映えがない。平日は朝から日暮れまで八時間まで働いて、休日は家でだらだら過ごしたり恋人と出かけたりする。先週の記憶はもう覚束ない。波のように時間は巻き戻り、繰り返された日々を生きているような気さえする。これって、生活がつまらなくなった

          凪をこえて

           母との買い物のために外へ出た。もう日は暮れていて、街灯がちらちらと光っている。ひと月前であれば、この時間帯でも空は明るさを保っていたはずだ。夜風の涼しさに季節の変わり目を肌で感じ、今年ももうすぐ終わってしまうのかと、ちょっと寂しくなった。  仄暗い道を、母と雑談しながら進んでいく中で、僕はふと文章を書きたいという気持ちに駆られた。これはここ最近の悩みの種だった。文章への意欲はあるのに、僕の生活の平凡さが、それを萎ませてしまう。ちょっとしたスランプなのかもしれないけれど、自

          凪をこえて

          ひとり旅(大阪篇)

          はじめに  この文章を読んでくれているあなたは、Weezerというアメリカのロックバンドを知っているだろうか。職場の人に「今度ライブ観に行くんですよ」と話すと、みんな気をつかって「え、誰のライブなの?」と聞いてくれたけど、海外のバンドだと伝えるとそこから先は尋ねられなかった。そう、僕はWeezerのライブを観るために大阪へと向かった。実はもう一つ密かな目的があったのだけど、それはまたあとで。 1.到着  平日の昼間、阪急三番街には人があふれていた。いや、休日のときに比べ

          ひとり旅(大阪篇)

          8/7 2023

          ・友達がWeezerの『Weezer(Black Album)』を買って「一番好きなんだけどなぜか買ってなかったんだよね〜」と言ったとき、僕も一番好きなのに「へえ〜フフ」としか返せなかったのはなぜだ。そのあとの飲みの席で「サニーデイ・サービスがやっぱ好きで〜、新しいアルバムも本当よくって…」と話してる友達に「よかったよね〜、僕は「ノー・ペンギン」が好きだったな〜」と打ち明けられなかったのはなぜだ。話が盛り上がる確率はほぼほぼ高い。自分も好きなのだという気持ちを伝えるだけなのに

          8/6 2023

          ・ここ最近、体調が悪いような気配をずっと感じてるのだけど、別に食欲も問題ないし仕事に支障が出ているわけでもないので、よくわからないなあ〜って思ってる。あからさまにしんどいと休みをとって療養できるのに、「気配」だけ感じさせてるから本当タチが悪い。 ・友達のことを考えている。まだお互いに学生だった頃、やや頻繁に連絡を取り合っていて、僕にとって彼は大事なつながりだった。まるで天からぶら下がっている蜘蛛の糸のような。正直いまの僕も対人コミュニケーションに自信がないけれど、当時の僕は