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#私の作品紹介
【短め短編小説】『A Brush(ア・ブラッシュ)一触れ☆Episode 2 泉先生の場合』《A bit Painful but Heart-warmingなお話》(2418字)
蓮の不思議な体質 (前のエピソード「私の場合」をお読みくださった方は「泉先生の場合」へどうぞ。
前回、私こと藤澤蘭子は、竜崎蓮と自分の一風変わった友達関係について話しました。そして蓮の不思議な体質のことも……。
蓮は他人に触れた途端、その一触れでその人の苦しみを一瞬にして体に取り込み理解します。そして、その苦しみの度合いに合わせてその人に寄り添い、癒やすという運命を背負っています。やがて取り
【短め短編小説】『A Brush(ア・ブラッシュ)一触れ☆Episode 1 私の場合』《A bit painful but Heart-warmingなお話》(3455字)
英語で”a brush”は、「一触れ」……ちょっと触れることという意味がある。
そして、私の元彼、竜崎蓮は、この一触れに纏わる不思議な体質のおかげで大変な人生を送っている。蓮と私が別れたのも、その体質が原因だ。
でも私は、蓮と別れることにはなったけれど、その特殊な体質のおかげで救われた。
蓮と私が出会ったのは、私達が大学4年の夏だった。
私は涙で顔をぐちゃぐちゃにして、清水公園の噴水の
【短め短編小説】『山桜』《Bright & Hopefulなお話》(2121字)
「何時ぐらいに帰ってくるの?」
玄関で登山靴を履いていると、背後で母の声がした。
「今日は近場だから早いと思う。昼過ぎには帰るよ」
「そう、気をつけてね」
パジャマ姿の母は、そう言うと寝室に戻っていった。
月に1度か2度、気が向いたら俺は山に出掛ける。行くときは独りだ。普段は近場の1,000メートルほどの山、休みが取れれば1、2泊で日本アルプスにも出掛ける。
初めて山に行ったのは3年前の3
【短編小説】『私の中の獣』ノーベル賞作家、大江健三郎さんを偲んで 《Deep & Darkなお話》(5211字)
篠田洋介は、出会った43年前と同じ聖人のように高貴で穏やかな笑顔を浮かべて私の足元で仰向けに倒れていた。そのときも、今も変わらず、その笑顔は私の中の獣を刺激した。食道の壁を野火のように広がり腹の底から駆け上がろうとする苦い刺激性の液体を私は必死で飲み下した。私は、凍てつく失望と煉獄の炎のような自己嫌悪に押し潰されそうになった。自分はなんと弱いのか。これほどの衝撃を受けずに、人ひとり殺すことすらで
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